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ママ戦争を止めてくるわ  作者: 月神世一


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EP 4

紅茶と独立のティーパーティー

帝都・赤坂。桜田邸の地下に設けられた、完全防音の極秘迎賓室。

インド独立運動の若き急進派指導者、チャンドラ・ボースは、出された最高級のダージリンティーに手をつけることもなく、目の前の光景に困惑していた。

「……信じられない。大英帝国を経済で震え上がらせ、アメリカを味方につけた極東の『黒幕』が、このような美しいご婦人だとは」

チャンドラの目の前には、漆黒のドレスに身を包み、優雅にティーカップを傾ける桜田リベラ。そしてその傍らには、分厚い六法全書とファイルを手にした金髪碧眼の少女――15歳になったベアテが控えている。

さらに部屋の隅には、明らかな殺気と最新鋭の武装を隠し持った大男(柴田)が、彫像のように立っていた。

「お世辞は結構よ、ミスター・チャンドラ。……イギリスの過酷な搾取で、あなたの故郷の子供たちが飢え始めていることは知っているわ」

リベラは冷めた声で本題を切り出した。

「我々には時間がないのです、マダム・サクラダ!」

チャンドラは身を乗り出し、熱を帯びた声で訴えかけた。

「チャーチルの命令により、我々の農作物も、鉄も、すべてイギリス本国へ根こそぎ奪われている。このままでは数百万人が餓死する! ……どうか、我が独立軍に『武器』を。大日本帝国の強力な軍事支援さえあれば、我々はイギリスの駐留軍を追い出すことができる!」

悲痛な叫びだった。血を流してでも、未来の子供たちを守りたいという愛国者の本気の願い。

しかし、リベラはふっと冷たく微笑み、テーブルの上にコトン、と一本の「万年筆」を置いた。

「武器? 軍隊? ……野蛮で、時代遅れで、何より非効率ね。そんなものを渡すわけないでしょう」

「なっ……! では、我々を見殺しにすると!?」

「最後まで聞きなさい」

リベラの声が、かつて関東の裏社会を震え上がらせた「総長」のドスを帯びる。チャンドラは思わず息を呑んだ。

「血を流して独立を勝ち取ったとしても、国土は焼け野原。残るのは貧困と、さらなる内戦の火種だけよ。……私はね、うちの息子(優太)が大人になった時、世界に『飢えている子供』がいるなんて、絶対に許せないの。給食は、世界中のみんなが笑顔で食べるべきだわ」

「きゅう、しょく……?」

あまりにドメスティックな(しかし絶対的な)母親理論に、チャンドラが目を白黒させる。

「だから、血なんて一滴も流さずに、イギリスのジジイどもからあなたの国を『合法的に』取り返してあげる。……ベアテ、彼に『魔法の契約書』を」

「はい、リベラ先生」

ベアテは完璧な笑みを浮かべ、チャンドラの前に数枚の分厚い書類を滑らせた。

「ミスター・チャンドラ。イギリスがあなたの国を支配できている根拠は、彼らが鉄道、港湾、そして綿花工場などの『インフラ資本』を握っているからです。逆に言えば、その資本さえ奪ってしまえば、彼らの支配は法的に無効化されます」

「資本を奪う? 馬鹿な、彼らが手放すわけがない!」

「ええ、普通なら。でも、現在イギリス本国の経済は、日米の経済ブロックによって首を絞められ、極度の『資金不足キャッシュショート』に陥っています」

ベアテは悪魔のように愛らしいウインクをした。

「現在、私達(桜田財閥とアメリカのウォール街)は、複数のダミー会社を通じて、イギリスの植民地企業が発行している債権を紙屑同然の価格で『買い叩いて』います。そして明日、あなた方インドの暫定政府が『イギリスへの債務不履行デフォルト』を宣言します」

「デ、デフォルトだと!? そんなことをすれば、イギリス軍が武力鎮圧に動くぞ!」

「動けませんよ」

リベラが紅茶を一口飲み、最高に邪悪な弁護士の顔で笑った。

「デフォルトが宣言された瞬間、イギリスの植民地企業は連鎖倒産する。その直後、債権の筆頭株主である私達(桜田・アメリカ連合)が、担保としてインドの全インフラ設備を『合法的に差し押さえ』ます。……わかるかしら?」

チャンドラの顔から、サァッ、と血の気が引いた。

「つまり……インドの鉄道も、港も、工場も、すべて書類上は『日本とアメリカの私有財産』に変わる……!?」

「その通りよ。もしチャーチルが逆ギレして軍隊を動かし、そのインフラに傷一つでもつけたら……それは『大日本帝国とアメリカ合衆国の民間財産に対する、明らかな武力攻撃(国際法違反)』になるわ」

リベラは立ち上がり、万年筆をチャンドラの手に握らせた。

「あの老いた獅子チャーチルに、世界を敵に回して日米と全面戦争をする体力なんて、もう一ミリも残っていない。……さあ、サインしなさい。大英帝国の植民地を、丸ごと私のポケットマネーで『買収(M&A)』してあげるから」

「あ、ああ……」

チャンドラは震える手で万年筆を握りしめた。

銃も、大砲も使わない。ただの「書類」と「カネ」の暴力で、何百年と続いた大英帝国の植民地支配を、根底からひっくり返そうというのだ。

目の前の女は、神か、それとも悪魔か。

「……マダム・サクラダ。あなたは、本当に……とんでもない人だ」

チャンドラは、感謝と畏怖の入り混じった涙を浮かべながら、インド独立の歴史を決定づける「買収同意書」に力強くサインした。

取引成立ディール・ダンね」

リベラは満足げに頷き、ベアテに書類を回収させた。

「さあ、柴田さん。チャーチルに極上の『請求書』と『差し押さえ通知』を送る準備よ。……古い帝国の終わりのティーパーティー、せいぜい派手に飾り付けてあげましょう」

最強のママによる「地球規模のお買い物」。

大英帝国がその事実トラップに気づいた時、彼らの足元はすでに、完全に消滅しているのだった。

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