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ママ戦争を止めてくるわ  作者: 月神世一


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18/25

EP 8

帝都・桜田邸、最も広く格式高い大広間。

上座のソファには、大日本帝国における最高権威・枢密院の長老たる男爵、子爵、伯爵の三名が、不機嫌極まりない顔でふんぞり返っていた。

彼らの前には、リベラが用意した最高級の玉露と季節の和菓子が置かれているが、誰一人として手をつけようとはしない。

「……桜田の若き女総帥よ。我々をこのような場に呼び立てるとは、随分と増長しているようだな」

中央に座る最も年嵩の伯爵が、白髭を震わせてリベラを睨みつけた。

「増長だなんて、滅相もございません」

リベラは漆黒のドレスに身を包み、完璧な淑女の微笑みを浮かべて対座している。その傍らには、分厚い六法全書とファイルを手にした12歳のベアテが、ピンと背筋を伸ばして控えていた。

「我々は、お前が近衛を唆して議会に提出しようとしている『新憲法草案』について忠告に来たのだ」

右腕の男爵が、吐き捨てるように言った。

「特に、第十四条の『法の下の平等』と、第二十四条の『両性の本質的平等』。……言語道断である! 女子供に参政権を与え、家長制度を解体するなど、帝国の美しき國體こくたいを根底から破壊する悪魔の思想だ! ましてや、その起草者がどこの馬の骨とも知れん『異人の小娘』とは……帝国への反逆である!」

長老たちが一斉に机を叩き、ベアテに向かって冷酷な侮蔑の視線を向ける。

12歳の少女が怯えて泣き出す――彼らはそう信じて疑わなかった。これまでの長い人生、自分たちの権威と大声の前で、逆らう女子供など一人もいなかったのだから。

しかし。

「反逆、ですか? 私はそうは思いません」

ベアテ・シロタは一歩も引かず、透き通るような青い瞳で、真っ直ぐに大帝国の最高権威たちを射抜いた。

「なっ……異人の小娘が、我々に口答えをするか!」

「伯爵閣下。大日本帝国が目指しているのは、欧米列強に肩を並べる『近代化された強国』のはずです。しかし、国民の半数を占める女性を『家に縛り付けるだけの従属物』として扱い、その知力と労働力を国作りに活かさない国が、どうして世界と対等に渡り合えるのですか?」

流暢で、それでいて一切の無駄がない、刃のように研ぎ澄まされた日本語。

ベアテは一歩前に出ると、彼らが崇拝する「法律」の根源を突きつけた。

「アメリカも、ヨーロッパも、すでに女性の社会進出と権利の平等を国家の力に変えようとしています。あなた方が守ろうとしているのは『帝国の美しさ』ではありません。自分より弱い者を支配していたいという、古くて醜い『個人の既得権益』に過ぎません!」

「き、貴様ァァッ!!」

顔を真っ赤にした男爵が立ち上がり、ステッキを振り上げようとした。

「そこまでよ、お爺ちゃん達」

それまで静観していたリベラが、氷点下の声で男爵を制止した。

その瞬間、大広間の空気が一気に凍りつく。リベラから放たれる、元レディース総長の覇気と敏腕弁護士の絶対的な威圧感。枢密院の長老たちは、まるで首筋に鋭い刃を突きつけられたような錯覚に陥り、ステッキを握ったまま硬直した。

「よく言ったわ、ベアテ。百点満点の演説よ」

リベラはベアテに優しく微笑むと、冷酷な目で老人たちを見下ろした。

「さて。うちの優秀な『一番弟子』が、道理と理屈を完璧に説明してくれました。それでもあなた方が、古い頭で『女子供の言うことなど聞かん』と仰るのなら……ここからは私(弁護士)のやり方で、お話をしましょうか」

リベラはパチン、と指を鳴らした。

背後の襖が開き、柴田が数人の私兵を連れて、木箱を抱えて現れる。

「柴田。老人たちの目が覚めるように、お土産を見せてあげて」

「ハッ」

柴田がドンッ、とテーブルに木箱を置き、蓋を開け放った。

中から溢れ出したのは、大量の写真、帳簿、そして愛人からの手紙の束だった。

「……な、なんだ、これは……!?」

「伯爵閣下。あなたが『國體の護持』を叫ぶ裏で、英国の武器商人と密かに結んでいる裏取引の契約書です。さらに、男爵閣下が軍の機密費を横領して囲っている、四人の愛人と隠し子の写真。あ、子爵閣下のもありますよ。軽井沢の別荘で、芸者衆と随分と派手なお遊びをされているお写真が」

「ひっ……!!」

長老たちの顔面から、一瞬にしてすべての血の気が引いた。

「これらが明日の朝刊のトップに載り、さらに三田会の銀行団があなた方の資産をすべて凍結した場合……あなた方が守りたかった『美しい家』は、一体どうなってしまうんでしょうね?」

リベラは紅茶のカップを手に取り、悪魔のように優雅に微笑んだ。

「新憲法草案の枢密院での全会一致の可決。および、天皇陛下へのご奏上。……これに今すぐ署名しなさい。さもなくば、あなた方を『社会的な死』という名のゴミ箱へ叩き込みます」

「あ、あぁ……悪魔、貴様は……」

「いいえ。誰もが平等で、私の息子が平和に暮らせる国を作るための、ただの『お掃除』ですわ」

理屈と理想は、ベアテが完璧に証明した。

そして現実の権力と暴力は、リベラが完璧に握り潰した。

逃げ道など、初めからどこにも用意されてはいなかったのだ。

震える手で、大日本帝国の最高権力者たちが、リベラが差し出した万年筆を握る。

その屈辱に満ちた署名が紙に刻まれた瞬間――。

日本の歴史において、女性と子供が、初めて「国家のルール」を自分たちの手で書き換えた、偉大なる勝利の鐘が鳴り響いた。

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― 新着の感想 ―
わーお鮮やか! ですね。 これを現代でやろうと思ったら、どれだけの手間と苦労と技術がいるのでしょうか… この物語を夢のままで終わらせず、現実に落とし込みたいものです。
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