傲慢王子、国を知らずして追放される
神殿の急報が伝わってから、玉座の間の空気は更に緊張が走った。
「エノク第一王子殿下……!
お願いです……。どうか、民の暮らしを考え……!」
聖女の声は更に震え、涙が頬を伝った。
その声に応えるどころか、エノクはまた冷たく嗤う。
「くどい。税金もまともに払えぬ民が苦しむのは自然の摂理であろう?
ククク……実にくだらぬ」
家臣たちは顔を強張らせ、誰も口を挟めない。
しかし、一部の老臣や弟は小声で王と王妃に報告する。
「父上、民の不満が頂点に達しています。結界も揺らいでおりますゆえ、ご決断を」
「第一王子の行いは、国全体に危機をもたらしかねません」
王と王妃は、いつものように静かに聞いていた。
だが、この日は違った。
王妃がわずかに眉をひそめ、父王も深く息をついた。
ついに評議会が開かれる。
民の苦しみ、聖女の涙、結界の揺らぎ——全てが証拠として積み重なる。
「エノク……そなたは王族としての資質を著しく欠いておる。
これ以上、国を任せることはできぬ」
王の声が、玉座の間に厳かに響く。
エノクは眉を上げ、また嗤った。
「フッ……何を仰っているのですか。我はこれまで間違った事などしたことはありません。
王も王妃も我が下した決定に任せると仰っていたではありませんか」
しかし誰も賛同しなかった。
王族の決定は揺るがず、追放の宣告が下る。
「民の暮らしを気にもせず聖女を泣かし結界を揺らがせた罪は重い!
よって、第一王子エノクは王族の身分を剥奪し、平民として国外追放とする」
その瞬間、玉座の間に静寂が訪れた。
誰も第一王子を擁護せず、冷たい視線だけが向けられる。
初めて、エノクは自分が誰からも信頼されていないことを痛感した。
「……我が……卑しい平民に……?」
言葉を漏らした王子は見下していた平民に自分がなるという現実を受け入れられず、目眩がして倒れた。
頭を打つ衝撃と共に、胸の奥で何かが弾けた。
長く閉ざされていた前世・日本の記憶が、忽然と甦った――。
だが、追放の現実は残酷だった。
誰もエノクを心配する者などいなかった。
護衛に囲まれ、王宮の門を出るその足取りは、初めての孤独に震えていた。
玉座の間に残された聖女や家臣たちは、静かにその姿を見送った。
しかし誰もが、心のどこかで確信していた。
「この王子は、やがて自らの傲慢の代償を払うだろう」と。
――こうして、第一王子エノクの地に落ちる物語は始まった。




