第93話 カフィ卒倒2
「ミウ!」
3人が振り返ると、そこにはカフィが立っていた。
遡ること、数時間前……。
カフィは、カイラン・ヴォルクスと美羽と仲良くなるための作戦を立てていた。
「カフィ、君はどうやって御使い様と仲良くなるつもりなんだい?」
「ミウはスイーツが好きだから、スイーツの店に連れて行ってあげるのがいいと思ってる」
「ああ、いいね。女の子はスイーツが好きだからね」
「そう思うかい?」
「ああ、いいアイデアと思うよ。それじゃあ、こうしよう。君がスイーツの店に連れて行ったら、そこに偶然僕がいた。
それで、席を一緒にすることになって、僕が君のことを褒め称える。そうすれば、御使い様も5歳の幼女だ。直ぐに君のことがすごい人だと思うはずさ」
「そんなことしてくれるのかい」
「ああ、君のためだったら、なんだってするよ。友達じゃないか」
「ありがとうカイラン」
目を輝かして喜ぶカフィ。
内心ほくそ笑むカイラン。
(兄さんの屈辱を晴らすためにも、ヴォルクス家の名誉のためにも、まずは御使いに近づいて交流を持つ。
そして、機を伺うんだ。仲良くさえなれば、籠絡するのも罠に嵌めるのもなんでもできる。みてろ御使い!)
そして、現在。
レーチェルが不審な目でカフィを見る。
「なんですの? おにいさま。いきなりあらわれて。そのうえ、おねえさまをミウだなんてよびすてにして」
「うっ、レ、レーチェルは黙っててくれ。ぼ、僕はミウに用事があるんだ」
美羽は黙ってカフィのことを見つめていた。
最近ますます鋭くなった勘を働かせている。
(あ、これ、絶対面倒なやつだ)
そんなことを美羽が考えているとは思いもしないカフィは、美羽の前にくると、美羽の手をとった。
「ミウ、美味しそうなスイーツの店を見つけたんだ。君をそこに連れて行ってあげよう。僕がご馳走してあげるよ」
そこへ、クララの鋭い声が割り込む。
「待ちなさい、カフィ・ルッツ。御使い様相手に敬称もつけない上にいきなり手を取るなんてどういうことなの?」
「あ、クララ皇女殿下」
カフィは美羽しか見ていなくてクララのことには全く気が付いていなかった。
皇女に挨拶もしないで、許可もなく御使い様に話しかけ、敬称もつけずに名前を呼び、あまつさえ御使い様の手を無断でとった。
普通だったら、不敬にも問えることをカフィはいくつも犯していた。
「クララ〜。そんな、私のことを御使い様なんて寂しい言い方しないで〜」
美羽が悲しそうにクララに抗議する。
「えっ? ちょっと、今それ?」
クララは、まさか美羽がそうくるとは思っていなかったので、戸惑ってしまう。
それだけで罪悪感が湧き上がってしまうのがクララだった。
カフィは一瞬固まってしまったが、そんな2人を見て調子を取り戻し、臆面もなく語り出した。
「クララ皇女殿下、申し訳ありませんでした。ご挨拶が遅れまして。しかし、ミウに敬称をつけないのは、私は貴族の子で美羽は平民、そして私どもの身内のようなもの。普通のことでございます。手を取るのも、身内なら当然の行為でありますので、お気になさらず」
レーチェルが呆れた顔で言う。
「おにいさまがなにをいっているのかわかりませんわ」
そして、クララは目を怒らせる。
「あなた、なんて無礼なことを言っているのかしら。レーチェルの兄妹でなければ、即刻捕えているわよ」
しかし、カフィは聞いていなかった。実はすでに限界を迎えていた。なぜなら、美羽の手を取り続けていたからだ。
美羽から伝わる、手の温かな温度。柔らかさ。美羽から香る芳しい香り。美羽の持つ神聖な雰囲気。カフィは緊張と興奮でクラクラして今にも倒れそうだ。
カフィの様子に気づいた美羽がカフィに尋ねる。
「カフィ、どうしたの? 様子がおかしいよ」
美羽に上目遣いで心配の言葉をかけられ、カフィは限界を突破する。
目の前が真っ暗になり、後ろに引っ張られる感覚があり、
バターン。
「きゃあ、カフィ!」
仰向けにひっくり返ってしまい、美羽が驚いて叫ぶ。
心配する美羽にレーチェルが言う。
「おねえさま、もんだいありませんわ。おにいさまは、おねえさまにちかづきすぎて、こうふんしてたおれましたの。
じごうじとくですわ」
「ええ、自業自得ね」
クララの声は冷たい。
先ほどの態度に腹を据えかねたのだろう。
レーチェルが護衛に指示を出す。
「あなた、おにいさまをやしきにつれてかえってくださる」
「はい、お嬢様」
「カフィに治癒しておこうかな」
「ひつようありませんわ、おねえさま。おきたらそれはそれで、めんどうですわ」
「あ、そっか。確かにね。あはは」
美羽は美羽でカフィはめんどうだと思っているから、治癒するのをやめる。
クララが気を取りなおすように言う。
「さあ、早くお城に行ってお茶会しましょう」
「「はーい」」
その頃、あるスイーツ店。
「遅いな、カフィの奴。僕がせっかく待ってやっているのに。それにしても……ふふふ、御使いめ。来たら僕の魅力に虜にさせてやる。それから惚れさせてから捨てるのもいいし、復讐するのもいいな。ああ、今から興奮が抑えられない。あははは」
カイランが顔を歪ませ笑っていた。
女性客の多いスイーツ店で、男性一人で席に座り興奮している様は変質者であった。
皇城、ティールーム。
「ミウちゃん、レーチェル。今日は泊まっていくでしょ」
「ええー、どうしよっかなぁ」
「泊まろうよ、ミウちゃん〜。一緒にお風呂に入って、一緒に寝ようよ〜」
「おふろといえば、おねえさま。ひるまのエルフをいれた、きんちゃんのつくったおゆのかたまりはなんだったんですの?」
「ああー、私も気になってた」
それを言われると、途端に美羽がドヤ顔になる。
「うふふ、あれはきんちゃん風呂っていうんだよ。魔力でお湯の周りを囲んでいるから、外側はプルンプルンで中はお湯になってるんだ。いろんな形にできるんだよ」
「ドヤ顔のミウちゃんかわいい」
「おねえさまのドヤがおすてきですわ」
「ちょっとー、聞いてるのー」
「聞いてるよ。すごく羨ましい」
「わたしもはいってみたいですわ」
二人がそういうと、美羽は満面の笑みを浮かべる。
実はずっと、きんちゃん風呂に誘いたかったのだが、なかなかその機会が訪れなかった。
「じゃあさ、ディナーを食べたら、3人できんちゃん風呂に入って、ホカホカになったら、3人で寝ようよ」
「「やったー」」
そうしていると、遠くから声が響いてくる。
「ミウ様ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
3人が顔を見合わせる。
そして、ため息混じりに声を合わせる。
「「「バレちゃった」」」
声の主は、見なくてもわかる。
最近3人の中で評価が大暴落している残念皇子だ。




