第80話 オーガ部隊
市場の治癒院に行くと、すでに大勢の怪我人がいた。
病人ではなく怪我人だった。
ほとんど傭兵か冒険者、騎士のようだった。
さながら野戦病院のように怪我人たちで溢れている。
「ほえ〜、たくさんいるなぁ。レイア、降ろして」
「……はい」
レイアが、名残惜しそうに美羽を降ろした。
美羽はきんちゃんに聞く。
「怪我人は何人いるの?」
きんちゃんは、魔力を周りに飛ばして、一瞬で状況を把握した。
「457人ですね。病人は28人です」
「なんでそんなにいるんだろう」
「どうでしょう。聞いてみては?」
「そうだね」
美羽はテントから椅子を出して来る。
「よいしょ、よいしょ」
大人用の椅子を一生懸命に運んでいる姿にシアとアミとレイアはほっこりとする。
そんな3人の様子を見た美羽が首を傾げながら聞く。
「? どうしたの?」
「「「なんでもないの(です)」」」
(ミウちゃんが微笑ましかったなんて言えないわ)
(ミウ様が可愛らしいなんて言えないです)
(ミウ様をまた抱きしめたくなったなんて言えない)
「? なんとなく釈然としないけどまあいいや」
美羽は椅子に乗り、そして大声で叫んだ。
「みんなー、聞いてー」
すると、この場の怪我人たちがこちらを向く。
「私はこの治癒院の院長、小桜美羽だよー。どうしてこんなに怪我人が多いのか聞きたいの。誰か、代表して教えてくれないかなぁ」
すると、比較的軽症と見える男性がやってきた。
「御使い様。私は帝都騎士団第5大隊特務中隊中隊長ロイドと言います。私が状況をお話しします。」
「ロイド、それじゃあお願い」
美羽は自分が立っていた椅子をロイドに勧める。
「はい、ありがとうございます。一昨日のことでした。」
椅子に座りながらロイドが話したことによると、西の街道にオーガの群れが現れたと報告があったようだ。
群れの規模は100体はいることが見込まれた。
オーガは一般の騎士10人で挑まなければ危険な相手だった。
そこで、帝都騎士団第五大隊特務中隊の500人と傭兵300人冒険者200人で討伐に向かった。
騎士団は精鋭のため、問題ないだろうと思われていた。
しかし、オーガの中に上位種であるハイオーガやブラックオーガなどが多数含まれていた。
ハイオーガは騎士20人は討伐に必要と言われている。
ブラックオーガに関しては騎士30人は必要だと言われている。
しかも、ただでさえ厄介なブラックオーガはオーガたちを指揮して、集団戦を仕掛けてきた。
その上に盾と大剣で武装していた。
オーガは通常武装していることは滅多にない。
オーガの体の大きさに合う武器防具を用意することができないからだ。
それが、今回はなぜか武装をしていたのだという。
戦闘の結果は散々だった。
騎士は陣形を組んでいたがそれがあっけなく崩されたのだ。
まず、指揮官であるブラックオーガが先頭に立って走り込んで来た。
ブラックオーガの一撃は凄まじく、一振りで多くの騎士が吹き飛ばされた。
ブラックオーガの左右をハイオーガが守りながら、ブラックオーガが開けた騎士の陣形の穴をさらに広げていった。
その上でオーガたちが左右の騎士団たちを叩いていく。
これでは、1対10の集団戦を考えるどころか、オーガたちに集団戦を許してしまっている。
その上にこちらの攻撃は重厚な盾に防がれてしまう。
金属の巨大な盾を揃えて突き進んでくる様は、まるで金属の塊を相手にしているようだったと言う。
その上にブラックオーガの勢いは全く収まらない。
ブラックオーガが縦横無尽に戦場を駆け回り、ハイオーガ、オーガ達に陣形の穴を広げられた。
全く手をつけることができずに騎士団 傭兵 冒険者の混成団は全滅した。
しかし、不思議なことに倒れた兵士にとどめを刺すことはなく、オーガたちは去っていった。
そのため、全滅したというのに死者は57名と、状況からしたら少なく済んだ。
ただ、ほとんどが重症の怪我人で、戻ってくるのにも一苦労だった。
今朝なんとか戻ってこれたが、かなりの重症者は城で治癒士に治療を受けていて、手が回らない人間がこちらに来たというわけだった。
「なにそれ、怖い」
美羽はオーガが暴れた惨状を想像して身震いした。
美羽は大人の怒った顔が怖い。
オーガはさぞかし恐ろしいのだろう。
「御使い様、人数が多すぎることはわかっているのですが、重症者から順番に治していただいてもいいですか」
「ううん、大丈夫だよ。全員一気に治しちゃう」
「え、そんなことできるのですか?」
「えへへ、最近治癒の力が上がってるからね。余裕だよ。でも、ちゃんとお金は払ってもらうよ」
「それはもちろんです。治療費は全て騎士団から出させていただきますので」
「そう? じゃあ安心だね。それじゃあ、できるだけ近くに寄らせて。でも市場の邪魔にならないようにね。
……って言ってもすでに邪魔ね」
市場はすでに負傷者で溢れかえっているので、こうなっては早く治すしかない。
ロイドと部下の小隊長たちの指示でできるだけ市場の邪魔にならないように美羽に近づいてきた。
「じゃあ、始めるね。神気結界」
神気結界を怪我人や病人たちを覆うように張る。
歪な形にはなるが、それでも最近の美羽は神気の扱いに慣れているので、問題ない。
そして、神気結界を張ると治癒の効率がぐんと上がる。
薄い桜色の神気結界の中には桜の花びらがハラハラと舞っている。
美しい光景に怪我人たちも病人ですら見惚れている。
「いくよー! みんな治っちゃえ!!」
その瞬間、美羽から夥しい桜吹雪が溢れ出し、結界内を舞い回る。
そして、怪我人病人たちの体に当たっては溶け込んでいく。
「ああ、気持ちいい」
「痛みが消えていく」
「苦しかった呼吸が楽になっていく」
人々は、それぞれ体が治っていくと口にする。
やがて、桜の花びらが全て消えた頃、全員の治癒が完了した。
「俺の腕が生えてる! 奇跡だ!」
「俺の足も、切り落とさないといけないって言われていたのに、歩けるぞ」
「目が見える。潰れたはずの眼球が戻ってる」
比較的軽症だったロイドは呆気に取られて、喜ぶ騎士たちをみていた。
「天使様だ。噂は本当だったんだ」
「天使様だ。ありがたい」
「天使様万歳!」
「天使様万歳!」
ロイドはハッと気がついて、美羽の前で膝をつく。
それに倣って騎士たちも膝をつく。
すると、普段膝などつかない傭兵や冒険者まで膝をついた。
代表してロイドが口を開く。
「御使いコザクラミウ様、このご恩は生涯忘れません。御使い様に何かあった時、必ず駆けつけお守りすることを誓います」
「俺たち傭兵もです。御使い様」
「冒険者もだぜ。御使い様のために命張っても惜しくねぇ」
「私も今日の病を治していただいたことは忘れません」
傭兵も冒険者も病人だった一般人も美羽にお礼を言った。
美羽はニコニコして言う。
「うふふ、大丈夫だよぉ。ちゃんと、お金くれればね。一人銀貨1枚だよー」
「「「「「「もちろんです!」」」」」」
そして、ロイドから金貨45枚と銀貨7枚、病人から銀貨28枚を受け取った。
「うふふ、儲かっちゃった。」
美羽はニコニコだ。
いつもよりも多い金貨にご機嫌になる。
怪我人病人たちは、皆頭を何度も下げてさっていった。
治癒自体は数分で終わったのだが、彼らの熱狂ぶりがすごくて、去っていくのに1時間はかかってしまったのには辟易した。
レイアもシアもアミも今までのことが夢だったかのように見ていた。
「ミウ様の力はどれだけ凄いのだろう」
「凄いとは思ってたけど、ここまで凄いなんてねミウちゃん」
「ミウ様は、本当にすごい」
美羽は、気になったことをきんちゃんに聞いた。
「ねえ、きんちゃん」
「はい、美羽様。オーガのことですか?」
「うん、武装して統率のとれてるオーガって怖いねぇ」
「そうですね。1000人であっけなく全滅させられるなら、相当の規模で向かわなければならないでしょうね」
「そうだね、手強いだろうね」
「いくんですか?」
「なんで?」
「いえ、なんとなく、そういうことになるだろうと思いました」
「行かないよぉ、私と関係ないもん」
「どちらにしても、私は美羽様に従いますので」
「行かないってば。怖いもん」
「はい。そうですね」
「行かないって言ってるじゃん。怖いからやだ!」
「はいって言ってますが」
「もう。……顔がそう言ってないんだよ」
美羽はそれっきり、顔を逸らしてしまった。




