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女神様の使い、5歳からやってます  作者: めのめむし
第4章 帝都編2

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第78話 自由

 ゴルディアックの屋敷のかろうじて残った扉の隙間を抜けると、ライトブラウンの毛玉がミウの腹に突き刺さった。


「ゴボァ」


 美羽の口から全然可愛くない声が漏れて、後ろに倒れる。

ぶつかってきたのはレーチェルだった。


 レーチェルはミウの胸元を掴み激しく前後に揺らしながら叫ぶ。


「おねーーーさまーーー! どこにいってらしたのーー」

「ふぅ、ふぅ。……レ、レ、レ、レーチェル? お、お、お、お腹にぶつかってくるのは、や、や、や、やめてくれないかなぁ。

あ、あ、あ、あと揺らすのも、も、も、やめて。こ、こ、声が、ゆ、ゆ、揺れる」


 レーチェルの後ろから声が聞こえてくる。


「レーチェルも心配だったのよ。まったく……急にいなくなるんだから、私だって心配したのよ」


 クララが困った子供を見るような顔で現れた。

しかし、揺らされてる美羽はそれどころではない。


「おねーさまー!」


 レーチェルはすごく怒っている。

美羽を揺らす手は一向に緩まない


「ご、ご、めん、なさい」


ガクンガクン揺らされながら、なんとか謝罪の言葉を絞り出した。


「いいですわ!」


 レーチェルの機嫌が一瞬で直った。

基本的に、美羽にダダ甘のレーチェルだった。


「それで、ミウちゃん。どこに行ってたの?」


 ゴルディアック家で用意された朝食を食べながら、クララが言う。

食堂も美羽によって破壊されているので、庭の東屋での食事だ。


「うーん、人のことだから、内緒」

「そう、分かったわ」


 基本的にミウのことは全部受け入れるクララだった。

それ以上深く聞かない。


 話が切れたところで、美羽が気になってたことを喋る。


「それにしても、レーチェルって能力高くない?」

「それそれ、私もそう思ってるわ。4歳とは思えない思考力と体力があるのよね」

「そうですの? わたしはわかりませんが。それに、おねえさまとくらべるとわたしなんかはぜんぜんですわ」

「レーチェル。それは比べる相手を間違っているわよ。ミウちゃんは御使い様なんだから、当然能力は高いでしょ。

でも、あなたは普通の伯爵令嬢なのよ。驚くくらい能力が高いわよ」


 しかし、レーチェルはピンときていない。


「そういうものですの?」

「そうよ、レーチェル。レーチェルは天才なのよ」


 ミウの言葉に目を輝かせるレーチェル。


「おねえさま! わたしはてんさいですの? おねえさまにいっていただけるなんて、わたし、うれしいですわ」

「そうだよ! 天才なんだよ。きっと魔法も剣術も計算もなんでもできるんだよ」

「そうね、何か習うといいかもしれないわ」

「おねえさま、クララおねえさま。わたし、まほうとけんじゅつをならいたいですわ。

それで、つよくなって、おねえさまとたびにでますの」


 思いついたように立ち上がって言うレーチェル。


「そうよ、レーチェル。その意気よ。強くなってミウちゃんと……た、旅に出るの?」

「そうですわ。おねえさまとたびにでますの」

「わ、わたし……は?」

「え? クララおねえさまはこうじょでんかですから、むりですわよね」


 きょとんとして答えるレーチェル。

すると、クララが見るからに落ち込む。


「そ、そんな、わたしだけ除け者なの? 私がいないところで二人でキャッキャウフフするの?」

「え? いえ、クララおねえさまはこんいんなどをむすばないといけないでしょうし、たびはむりだとおもいますわ」


 レーチェルの言葉を聞き、目に涙を溜めるクララ。


 美羽が不思議そうに言う。


「なんで泣きそうなの? クララ。泣き虫だねぇ」


 クララが心外とばかりに答える。


「だって、私だけ旅に行けないって言うから。それにミウちゃんに泣き虫って言われたくない」


 美羽は不思議な顔でレーチェルに聞く。


「私たち、旅に行くの?」

「わたし、おねえさまとたびにでたいですわ。ぼうけんがしたいのです。このくにのそとにはふしぎなものがたくさんあるっていいますわ。おいしいものもあるのですわ。」

「どんな不思議なものがあるの?」

「そらとぶしまがありますわ。そこにはぶんめいがあるっていいますの。おおきなおおきなきのもりがあって、そこにエルフやいろんなしゅぞくのひとたちがせいかつしているっていいますわ。じょうげがさかさまのせかいもあるそうですわ。

なんといってもダンジョンでぼうけんをしたいですわ。そのほかにもたくさんのふしぎがありますわ」


 レーチェルの話を聞くうちに、ミウの目も輝いてきた。


「文明のある空飛ぶ島、大きな木の森にすむエルフ、上下逆さまの世界……。

面白そうだね。私も行ってみたくなった! 行こう! 旅に! そして、たくさんの不思議を見よう!」

「はいですわ。おねえさま!」


 クララはますます落ち込んでいく。


「私なんか、どうせ……ブツブツ」


 ブツブツと口に出して言っている。


「あはは、ブツブツって言ってる。どうしたの? クララ」


 クララはそれを聞くなり、カッとして立ち上がりながら言う。


「ミウちゃんはいいよね。自由で! どこにでも行けてさぁ。好きなことをする力もあるし。なんでもできるよ。

私なんか……どこにも行けない……」


 クララの言葉はどんどん力がなくなっていく。

それに自分自身で気づいて、情けなくなって涙が滲んでいく。

クララは国に婚姻を決められてしまうことに疑問を持ったことはなかったが、美羽やレーチェルに出会ってからは、二人とずっといられればいいのにと漠然と考えていた。

しかし、考えてみると早ければ数年後には結婚をすることになる。

そうなると、二人と一緒にいることなどできなくなる。

しかも美羽とレーチェルは二人で旅に出るという。

自分だけが取り残されるのだ。

それはどうしようもなく寂しい。


 もう涙を堪えることができない。


 しかし、美羽はきょとんとしながら首を傾げて言う。


「何言ってるの? クララも行くんだよ」

「え? 何を言って……」

「3人でさ、いろんな不思議を見て、いろんなおいしいもの食べて、たまには危ないことをしちゃったりして、ちょっぴり喧嘩もしたりするんだ。でも最後には仲直りして笑うんだよ」

「そ、そんなことできるわけ」

「できるよ。やろうとしないからできないと思ってるんだよ。まずはやるって決める。

それから、どうやっていけばいいか考えればいいんだよ」

「でも、私は婚姻が……」

「結婚したいの?」

「ううん、結婚なんてしたくない。でも、皇族に生まれたからには責務が」

「あはは、何それ。面白い」


 美羽のあっけらかんとした笑いに、クララは腹が立ってきて語気を強める。


「面白くないわ!」


 しかし、美羽は歯牙にもかけずに言葉を続ける。


「面白いよ。自分のやりたいことの前に責務って言うんだもん。

人間はしたいことを一番大事にしないといけないんだよ。

もし、その責務って言うのがしたいことじゃなくて、嫌なのだったら、しなきゃいいんだよ。

皇帝に言えばいい。結婚なんてしませんって」

「そんな簡単には……」

「したいことをするって、人によっては大変かも。

でもね、それでも最初から諦めていたら憧れたことも、したいと思ったことも全部考えていなかったことと同じなんだよ。

ううん、考えた時間だけ無駄な時間を過ごしたかもね」

「私にできるのかな?」

「したいことをするって言うことは自由を得るってことなの。

自由って何かを切り捨てることなんだよ。

嫌なことを切り捨てるってこともあるけど。

同時にね。大切なものを切り捨てることでもあるの。

自分を守ってくれる存在。自分を大切にしてくれる存在。自分を敬ってくれる存在。

たくさんのことが自分のために自分を縛ってきているの。

それを自分がしたいことのためにまとめて切り捨てるってことなんだよ。

人のために生きるのも道かもしれない。でも、自分のために生きるのも道なんだよ。

何を選ぶかは自分が本当にしたいかどうかだよ」


 クララは真剣な顔で呟く。


「切り捨てる……」

「切り捨てるのに必要なのが、何が何でもやってやるって言う勇気なんだよ」


 クララの表情が変わった。

その顔は決意で満ちていた。


「私、いっぱい勉強して、体を鍛えて、魔法も鍛えて、それから皇族をやめる。

お父様お母様、あと期待してくれている国民にも悪いけど……切り捨てる!」


 そして、美羽とレーチェルを見る。


「だから、私と一緒に旅をして」


 美羽とレーチェルは顔を見合わせる。

そして満面の笑みで、


「「もちろん!」」


 そして、3人で笑い合った。

クララは心から笑えて、本当に幸せだと思った。


「ところでさぁ」

「何? ミウちゃん」

「エルネストとカフィは?」

「今さら!?」

「なんでいまなんですの?」

「なんとなく〜?」

「ああ、なんとなくね〜」

「うん」

「まあ、どうでもよさそうですわ〜」

「うん」


クララとレーチェルは答えを言わないし、美羽も聞かないのであった。

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