第73話 改心
「今から、お前の睾丸を砂にする」
美羽の無慈悲な言葉に心底恐怖を感じたジェフは叫び出す。
「許してくれ! いや、許してください。そんなことされたら俺、一生女を抱くことができないじゃないか」
だが、美羽は嫌悪感を顔一杯に浮かべながら、バッサリと切り捨てた。
「だから、それを出来ないようにする」
「ヒィィィィ。な、なんでなんだ。俺はまだ12歳だ。この先だってあるんだ」
ジェフは必死にいいすがるも美羽はあくまでも冷徹だ。
「この先があるからするの。性犯罪者は必ず同じことをする。何度も何度も。その上エスカレートするとも言う。
お前は12歳ならどれだけエスカレートしてどれだけの女性を苦しませるようになる?」
「そ、そんな……、ま、まだ、やってもないことで、なんでそんなことをされないといけないんだ」
「そう、まだやっていない。……でも、もうシアにはやったよね」
「あ……、そう、だ。シア、シア、許してくれ。頼む。優しいお前なら、俺を許してくれるだろ」
今度はシアに向けて懇願した。
シアはその言葉に、今まで無表情で見つめていた顔を怒りに激変させた。
「許してくれですって? 私は何度も言ったわ。その度に、貴様はかえって喜び私を犯した。
夫以外の男に好きにされるなんて、屈辱だったわ!
何度も命を断とうと思ったわ。でも、私にはアミがいるから、アミのために心を殺して屈辱に耐えてきたのよ!
これは貴様には到底わからない屈辱よ!
でも、その一部でも味わってこの先の人生を過ごしなさい!」
ジェフは呆然とする。
今まで、ただ蹂躙するだけのペットのように思っていた相手が自分に本当の怒りをぶつけて来た。
その怒りで、シアが対等の人間だったのだと気づいた。
今まで、自分は対等の人間の尊厳を傷つけ続けてきたのだと。
今の自分に許しを乞う資格などないと思った。
いや、今言っていたことは本当の意味で許しを得ようとしたものではない。
ただの責任逃れだった。
自分が悪いとなんて、これっぽっちも思っていなかった。
シアがどれだけの苦しみを自分から受けていたのだろうか?
どれだけの屈辱を感じていたのだろうか?
どれだけ心の中で亡き夫に許しを願ったのだろうか?
どれだけの死を望んだのだろうか?
どれだけ娘のアミに平気な顔をして、陰で泣いていたのだろうか?
自分には到底わからない。シアの言う通りだ。
「俺は……ゴミ以下の人間だったんだ」
ジェフがポツリと呟く。
今まで、自分は特別だと思っていた。
親が金持ちで、周りの子供にここまで裕福なものなどそうはいない。
見回すと、貧乏な服を着て、貧乏な食事をする者ばかりだった。
剣術の才能もあった。
もう7歳の頃には12歳くらいの相手ならほとんど負けなかった。
つまらなくなって、もうやめてしまったが。
魔法の才能もあった。10歳で中級レベルの魔法が使えた。
魔法の師からは数十年に一人の才能だと褒められた。
最近では飽きてしまって、ほとんどサボっているが。
自分は全て持っているから、何をしてもいいと思っていた。
周りの大人もそれを許してくれた。
シアとアミを見た時に、絶対にペットにしたいと思った。
父に頼んだら、すぐに了承してくれた。
有頂天だった。
自分のペットとして、何をしてもいい相手がいるのだ。
しかも、美人母娘である。
初めての体験はシアを犯すことで済ませた。
興奮し、犯し、暴力を振るった。
しかし、自分に懐いている様子はなかった。
いつもこちらを伺っているようで、シアは自分からアミを遠ざけようとするし、アミは怯えた目で自分を見る。
その行動に腹を立てた。
この自分が目をかけてやっているのに、なんで懐かないんだと。
腹が立った。だから、日常的に暴力を振るっていた。
街に出た今日は屋敷に帰ったら、アミも犯してやろうと決めていた。
シアがどれだけ懇願しようが、いや、懇願すればするほど興奮するだろう。
その興奮が、街での過剰な暴力にもつながった。
本当に気づかなかった。
自分が犯している罪を……。
「どれだけ俺は傲慢だったんだろう」
ジェフはついに自分が犯していた罪に気づいた。
それに気づくと臓物を引き摺り出して掻きむしりたくなるような嫌悪感を自分に感じた。
自分を無くしたくなる衝動に襲われた。
苦しんでいるシアを犯しているところを思い出して、吐き気が込み上げてきた。
アミを蹴り付けている痛みが自分にそのまま返ってくるような気がした。
今までバカにしてきた人々が、実は自分のことを蔑んでいたのではないかと感じた。
なんと、自分は愚かな存在だったのか。
これでは、到底許されるものではない。
シアとアミに、今までバカにして傷つけてきた人々に、謝りたかった。
しかし、自分がしたことの重さを思ったら、簡単に謝ることはできないと思った。
ここで、謝って自分だけ何もなくのうのうと生きることはいけないと思った。
きっちりと御使い様から裁きを受けて、その後に謝罪をするべきだ。
でないと、優しいシアが自分を許してしまうかもしれない。
それだけはダメだ。自分はこの罪を一生背負っていくべきだ。
シアとアミの心と体を蹂躙した罪を。
ジェフはシアとアミを見た。
嫌悪感を浮かべた顔をしている。
当然だ。自分にはそれすら生ぬるい。
それだけで済むのなら、やはり二人は優しいのだろう。
次に美羽の方を見ようとする。
(きっと、あの美しい顔が汚らわしいものを見るように歪んでいるのだろう)
ちくりと胸が痛んだが、勇気を持って見上げる。
「……!?」
美羽は微笑んでいた。
美しい顔は慈愛に満ちて、自分を包み込んでくれるような微笑みだった。
「な、なんで……」
掠れた声しか出なかった。
その言葉の意味を周りのものたちは理解しなかった。美羽を除いては。
美羽は、これ以上ないのではないかと言うくらいの優しい声で言った。
「お前は罪を知った。罪を知った時、人は許され始めているのよ。
私はその最初の一人」
「み、御使い様……」
ジェフは美羽の慈悲の心を知って、涙を必死で堪えた。
ここで泣いてしまってはいけない。
美羽は続ける。声はあくまでも優しい。
「お前は罪を知ったの。それは稀有なことよ。自分を誇ってもいいんだよ。
でもね、罰は受けなければならないの」
その言葉を聞いて、堪えられなくなり涙をこぼしながら笑顔になる。
「ああ、ありがとうございます。どうか、よろしくお願いします」
「うん、すぐ済むよ。立ちなさい」
ジェフは力を入れてしっかりと立ち上がる。
その姿は決意に満ちていた。
美羽が手をジェフにかざす。
すると、桜の花びらが出てきて、股間の辺りに集まる。
そして解けるように消えていった。
ジェフのズボンの裾からは一塊りくらいの砂がこぼれていった。
ジェフの睾丸はすでにない。
「痛くない……」
「まあ、痛くもできるけど、これはサービスだよ」
美羽は女神の手で、ジェフを縛っているロープを切ってやった。
「これで終わり。これからは真っ当に生きなさい」
美羽が優しく微笑んだ。
「御使い様! ありがとうございます!」
ジェフは美羽に頭を下げると、今度はシアとアミの方に歩いていった。
「今まで申し訳ありませんでした! 決して許されることではないですけど、一生かけて償わせてください」
ジェフの豹変した態度に、シアとアミの母娘は驚き戸惑っている。
美羽はそんな3人を見て、「ふふ」と笑い、クララとレーチェルのところに行った。
「ミウちゃん、お疲れ様」
「おねえさま、たいへんなおしごとでしたわね」
二人は気遣わしげに声をかける。
「大丈夫だよ〜」
しかし、美羽の顔はどこまでも明るい。
その顔に二人はホッとする。
傷ついていないようだと思って。
「それにしても……」
クララが不思議そうな顔をして喋り出し、二人は注目する。
「あのジェフという男、最初はあれだけ暴れていたのに、最後はおとなしかったわね。むしろ喜んでいるような?」
「ハッ、あのおとこは、マゾだったのかしら? おねえさまにこうがんをけされるのをよろこんでしまったのですわ。
おねえさまがけがされるわ」
その、レーチェルの言葉にクララと美羽は目を丸くする。
「あはは、レーチェル。そんなことどこで覚えてきたのぉ」
「そうよ、レーチェル。マ、マゾなんて、あなたにはまだ早いわ」
しかし、レーチェルはあくまで本気だ。
美羽の肩を掴んで詰問する。
「おねえさま、なにかされてませんの? だいじょうぶだったんですの?」
「キャハハ、もうレーチェル。だいじょうぶだよぉ」
「ミウちゃん? 本当にだいじょうぶ?気分とか悪くないの?」
「もう、クララまでぇ〜」
3人はまたもキャアキャア騒ぐのだった。




