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女神様の使い、5歳からやってます  作者: めのめむし
第4章 帝都編2

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第58話 ボディエントラップメント

 美羽は激しい奔流に飲み込まれた。

波は10メートルにも達していた。

沈んでは浮かび上がり、浮かんでは水底に吸い込まれる。

体はぐるぐると周り、水底で何度も頭をぶつけた。


(苦しい……)


 浮かび上がることはあるものの、人間の浮力では自然に顔が水面に出ることはない。

せいぜい頭頂部が水面に上がるくらいだ。


 少し、水をかけば水面に顔が出るが、未だ体に力が入らない上に泳ぎ方を知らない。

美羽は水面に浮かび上がることもできずに激流に揉まれていった。


(私、死ぬのかなぁ)


 そう考えた時に強い圧力が美羽の体にかかった。

立木の太い枝に水流の力で体がくの字に引っかかったのだ。


 これは、ボディエントラップメントという状態だった。

この状態になると、速やかに救助をしなければ人間はそう長く持たない。


 強い水圧によって、枝に押しつけられ身動きもできず呼吸もできない。


 美羽は、自分の魔法で絶体絶命の危機を迎えることになってしまった。



 その頃、きんちゃんは……。


「美羽様を見失ってしまった!」


 きんちゃんは美羽の居場所は魔力によってわかるのだが、衝撃波の影響で美羽の魔力が著しく弱くなってしまっていた。

その上、美羽の魔法の残滓がそこらじゅうに散らばっていて、特定が難しくなっていた。


「美羽様を見失ってしまうなんて……」


 きんちゃんは、美羽に気軽に極大魔法を撃たせた迂闊さと、いざという時に自身のことが守れると思い込んでしまっていた油断に後悔の念を覚えた。


 きんちゃんは魔力探査に集中するが、見つからない。

そうしているうちに水は引いていき、水溜まりが残るのみになっていた。


 あたりでは、爆発でできた奔流による傷跡が生々しく現れた。

木は倒れ、草があった地面は剥がれ、岩は転がりそこらじゅうに瓦礫が落ちている。


「美羽様ーーーー」


 きんちゃんはオロオロと取り乱して美羽を求めて飛び回るばかり。


 しかし、きんちゃんは神気でも美羽を探すことができることに気がついた。

普段のきんちゃんだったら、すぐに気がつくものだが、美羽のこととなると、冷静でなくなるところ、少し人間に近づいてきているようだ。


「私としたことが、美羽様のしもべ失格です」


 きんちゃんが神気をさぐると、きんちゃんのいるところから、さらに森の奥に入ったところに感じた。


 きんちゃんがそこに向かうと、そこも痛々しい惨状が広がっていた。


「美羽様!」


 これでは、神気の気配はするが美羽が無事と言うのも考えずらい。

きんちゃんは焦りながら、視力を強化して桜色の髪を探した。


 しかし、地面を探し回ったが、美羽は見当たらなかった。


「探知をミスったのでしょうか?」


 きんちゃんが場所を移動しようとしたその時、か細い音が聞こえた。

それは頼りなく、今にも消えてしまいそうな音だった。


 しかし、きんちゃんの耳には確かに届いた。


「きんちゃーん」


 きんちゃんは上を向く。

すると、太い木の太い枝が伸びていて、そこに洗濯物を雑にかけたように、美羽が引っかかっていた。

水流の引きが早かったので、運良く助かったのだ。


「きんちゃーん」


 美羽のあまりにも情けない声がか細く聞こえてくる。


「美羽様!」


 きんちゃんは慌てて、その10メートルほどの高さにある木の枝まで飛んでいった。


「きんちゃーん」

「ああ、よかった。美羽様無事でしたか」

「無事じゃないよ〜。怖かったよ〜、ここ高くて怖いんだよ〜」

「喋れるのならよかったです。ご自分で治癒をかけられますか」

「……できるよ」


 きんちゃんはどことなく違和感を覚えた。

なんだか、不貞腐れているのだ。 


(私がメキロスフィアを迂闊にも撃たせてしまったからでしょうか。

とにかく治癒で応急手当てが終わったら地上に降ろしましょう。)


 治癒を使い終わった美羽はきんちゃんが作った、土魔法の階段で地上に降りた。


「……」


 しかし、美羽はやはり不貞腐れていた。


 きんちゃんは美羽が心配になり、美羽に謝る。


「美羽様、大変危険な目に合わせてしまい、申し訳ありませんでした」


 金魚の体を縦に下ろして、謝罪した。


「うん、大丈夫だよ。私も神気結界を張らないでやってたのが悪いんだし」

「?」

「どうしたの? きんちゃん」

「いえ、私に怒っていたわけじゃないのですか?」

「あはは、別に怒ってないよ」

「それではなぜ先ほど、不貞腐れていたのですか?」


 それを言われて、美羽は思い出したと言う顔をしてから、あからさまに不機嫌になった。


「どうしたんですか?」

「……しちゃったの」


 美羽は赤い顔をして、涙目になっている。


「なんですか?」

「漏らしちゃったの!」


 今度は美羽はボロボロと涙を流す。

泣きながら、きんちゃんに抗議する。


「もう! なんでそんなこと言わせるの! きんちゃんなんか知らない!」


 きんちゃんは一瞬呆気に取られるが、頬を緩める。


「大量の水が流してくれましたので、大丈夫ですよ」

「やだよ! 気持ち悪い」


 美羽はプンプンしてそっぽを向いている。


 きんちゃんは聞き分けのない妹に対するように穏やかに声をかける。


「きんちゃん風呂にでも入りましょうか」


 美羽はチラリと、きんちゃんを見てから俯いて一言だけ言った。


「……うん」


 透明の2メートル×50センチほどのきんちゃん風呂に入っている美羽はご機嫌だった。


「メキロスフィアすごかったね。爆発したのが見えたら、なんかすごい勢いで衝撃波が来て、私コロコロ転がっちゃった。

その後にどぉーんだもんねぇ」

「はい、私も想像以上に強力だったので、びっくりしました。

その後、美羽様が流されてしまった時は生きた心地がしませんでした」

「あはは、ごめんね。心配かけちゃったね」

「いえ、私がもっと注意していれば」

「そんなこと仕方ないよ。私の力がきんちゃんの想像を超えていたんでしょ」

「その通りです」

「だったら、いいことじゃない。これからはちゃんと神気結界を張るからさ。気にしないで」

「はい、美羽様がおっしゃるのなら」

「それよりさ、一緒に入ろうよ」

「私は入る必要はないのですが」

「気分の問題だよ。おいで」

「はい、それでは」


 きんちゃんが一緒に風呂に入った。

美羽はきんちゃんを抱えて、ニコニコご満悦だ。


「あれ、でも金魚ってお風呂に入っていいんだっけ?」

「今更ですし、私は金魚を模していますが、金魚でないので大丈夫です」


 そんな、どうでもいい会話を美羽ときんちゃんは楽しんだ。


 そろそろ出るかと言う時、きんちゃんが言う。


「しかし、この現状は少々まずいですね」

「なにが?」

「この荒れ果てた森です」

「ああ、それか。あとでやろうと思ってたけど、もうやっちゃおうか」

「なんですか?」


 美羽はきんちゃんの問いには答えないで、きんちゃん風呂からぴょんと飛び出す。


 そして、頭上で両手を広げる。


「神気結界!」

「待ったー」

「なに? きんちゃん」

「とりあえず服を着てください。もう洗って乾いていますから」


 美羽は風呂から出たままの格好だった。


「えへへ、そっか」


 照れ笑いをしながら服を着た。


「それじゃあ、今度こそ行くよ。神気結界!」


 すると、桜色の神気が美羽からすごい勢いで広がっていった。

それは湖とその周辺のかなりの範囲をあっという間に囲んでしまった。


 結界の中には無数の桜の花びらが舞い飛んでいる。


 きんちゃんが呆気に取られていた。


「こ、これは……」


 美羽はにこやかな顔をしながら叫ぶ。


「治癒! それと修復」


 美羽の体が一際濃い桜色に輝くと桜の花びらが目に見えて増え、結界の中を桜吹雪が起きる。

見渡す限り桜一色になった。


 そして、桜の花びらは折れた木、剥がれた地面 萎れた花 濁った湖の水に触れると、まるで逆再生のように元に戻っていった。


 やがて、あれだけあった桜の花びらがなくなった時、湖と周囲の環境はものの見事に元に戻っていた。


 「美羽様、素晴らしいです。神気でこのようなことができるなんて」


 美羽はきんちゃんの言葉にニコリとして答えた。


「できるよ。神気ってね、神の奇跡なんだ。邪神を除いてこの世の全ては女神フィーナちゃんが作ったからね。それを癒すこともできるんだ。でも、今の私ではこれくらいしかできないけどね」

「これくらいしかではありません。素晴らしい偉業ですよ。美羽様は紛れもない天使様です」

「えへへ、そうかなぁ」


 美羽はきんちゃんに手放しの賞賛をされ、照れ隠しにきんちゃんを引き寄せ抱きしめて顔を埋めた。


「うふふ。きんちゃん、褒めてくれてありがとう」

「美羽様を褒める言葉でしたら、収納魔法にも収納しきれないくらいありますよ」

「無限ってこと?」

「はい、美羽様のかわいさと偉大さは無限です」

「きゃー、そんなこと言って恥ずかしい」


 美羽はきんちゃんを思い切り抱きしめ、そのスベスベした感触を心行くまで堪能した。



 帰っている途中で、きんちゃんが気になったことを尋ねる。


「美羽様は、今日みたいな神気の使い方をどうして知っていたのですか?」

「ああ、それはねぇ、フィーナちゃんと話すたびにフィーナちゃんがいろいろなことを頭に流し込んでくれるの。

神気でできることもその中にあったんだよ」

「なるほど。どうりで私が知らないわけですね」


 きんちゃんは合点がいき、納得する。

そして、もう一つ聞いてみる。


「美羽様は、今日、攻撃魔法の練習をされましたが、攻撃のための神気ってないのですか?」


 そう言うと、美羽は難しい顔をする。


「うーん、それなんだけどね。ちょっと調節ができないものが多いんだよね」

「調節ですか?」

「うん。例えば、都市を丸ごと消すとか、湖の水を蒸発させるとか。軍隊をまとめて潰してしまうって言うのもあるんだ」

「なるほど、危険そうなものですね。でも、その中でも弱いものはあるのではないですか?」

「弱いものはねぇ、人を砂にするとか、一族子々孫々に至るまで女しか生まれない家系にするとかかな」

「そ、それは使い所に困りますね」


 きんちゃんが引き気味に言う。


「そうでしょ。神気って、慈愛か天罰かって感じなんだよね。天罰には反省は促さない。消してしまうだけなんだよ。

フィーナちゃんって優しくて苛烈だよね。」


 美羽はあははと笑う。


(これでは確かに魔法を覚えたほうがいいですね。美羽様が癒すか消すかの二者択一の存在になってしまったら、少々困ります)


 きんちゃんは美羽の魔法の修行プランが喫緊の課題だと肝に銘じた。

そのきんちゃんを美羽はボールのように上に投げてはキャッチし、上に投げてはキャッチしながら帝都に向かって歩いた。

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