第44話 セーラー服
翌日、レーチェルとの約束を思い出して、一緒に買い物に行くことになった。
カフィとの約束もあったので、買い物の後、合流することにした。
「おにいさまったら……。わたしがおねえさまをひとりじめできたのに」
「まあまあ、カフィとも約束していたから」
レーチェルがプンプンしながら通りを歩いている。
商店街の入り口まで馬車できたが、今は歩いていた。
「ミウ様、レーチェル様、あちらが服飾店になります」
付き添っていたサシャが教えてくれた。
サシャのいう方を見ると、おしゃれな外観のお店で、ショウウィンドウもあり、そこにはマネキンもあった。
小さな女の子のマネキンもあり、ちょうど美羽やレーチェルが着れそうなサイズだ。
「うわぁ、楽しみだねぇ」
「はい! おねえさま、はやくはいりましょう」
「うん!」
カランカラン
中に入ると聞き心地のいいベルの音が聞こえる。
そのベルの音に呼ばれたように、緑髪の美しい妙齢の女性が奥から出てきた。
「あらぁ、随分可愛いお客様が二人もいるわ」
「こんにちは〜」
「こ、こんにちは」
美羽がニコリと笑って挨拶すると、レーチェルも緊張しながらも挨拶した。
「あら、こんにちは。あなたたちのようなお客様は大歓迎よ。私はユーリナっていうの」
「私は、小桜美羽。美羽って呼んでね」
「わたしは、レーチェル・ルッツですわ」
美羽が話し始める。
「あのね、私この服しか持ってないの。今までは寝る時とか、パーティとかこの子のお家で借りてたんだけど、
今度引っ越すことになったから、いくつか買っておかないとと思って」
そう言って、自分の白のワンピースを指差す。
美羽が転移前に着ていた服は寝巻きだったが、レスフィーナが美羽のクローゼットから持ってきた服だ。
フィーナの神気が入っていて、そう簡単には破れない服になっている。
「あらぁ、可愛いワンピースね。それに1着しか持っていないっていう割には綺麗ね。
ん? 見たことない生地ね」
「うん、フィーナちゃんが汚れても勝手に綺麗になるようにしてくれたから、これはいつも綺麗なんだよ」
「え? フィーナちゃん? 勝手に綺麗になる? どうやって?」
「わからない。いつもいつの間にか綺麗になるから」
「そ、そうなのね。フィーナちゃんって人がそれをできるようにしたの?」
「そうだよ、元々はこれママが買ってくれたんだけど、それにフィーナちゃんが神気を入れてくれたんだよ」
「し、神気って……もしかして、あなた、今話題の御使い様?」
「うん、私は御使いだよ」
そういうと、ユーリナは膝をついた。
「もう、そんなことされると、服を選べないよ。普通にして。お願い」
「し、しかし……そうですね、わかりました」
「さっきのように喋ってね」
「そう……ね。その方が御使い様にもいいのでしたら、そうさせていただきます。
……さあ、どんな服がいいかしら。仕立てることもできるし、既製品を体に合わせることもできるわよ」
「見ていい?」
「ええ、いいわよ」
そう言われると、美羽はレーチェルと吊るされている子供服を見に行った。
「きゃー、この服かわいい」
「おねえさま! このふくもおねえさまににあいますわ」
「それを言うならレーチェルにも似合ってるよ」
「にあいますの?」
「うん、似合ってるよ。そうだ! ねえ、ねえ、同じ服を買わない?
お揃いにするの」
「きゃー、うれしいですわ。おねえさまといっしょですの?」
「うん、これなんかどうかな」
「これもいいですわ」
「こっちもいいよ」
二人はあーでもないこーでもないと服を探していた。
とはいえ、子供服はそう多くは置いていないから、割と候補はすぐに絞られた。
美羽とレーチェルは見えないように店のマントを着て、サシャとユーリナと護衛たちまで横一列に並べて、ドヤ顔で言った。
「それでは、私とレーチェルのお揃い服の発表です。ドゥルドゥルドゥルドゥルドゥルドゥルドゥルドゥルドン!」
そう言うと、二人はマントを剥いだ。
「「「「お〜」」」」
みんなに拍手をされた二人が来ていたのは、地球ではセーラー服と呼ばれているモノだった。
白を基調にして、水色のセーラーカラーがついている。
スカーフとスカートも水色だった。
「まあ、よその国の行商人から買ったモノなのよね。二人ともよく似合っているわ」
ユーリナが感心したように言った。
「それじゃあ、サイズ調整をするわね」
そう言って、美羽とレーチェルの体のサイズを測った。
測り終えた二人は、引き取りは後日になるので、精算後店を後にした。
「私、セーラー服を着てみたかったんだぁ」
「わたしはおねえさまとおなじなのがうれしいですわ」
二人ともニコニコして、広場に向かう。
広場ではカフィと待ち合わせをすることになっていたからだ。
待ち合わせの広場の噴水前に行くと、カフィがタキシードを着て、手には花束を抱えて立っていた。
「うえ、何あれ?」
「まあ、おにいさまったら、やかいにでもいくのかしら」
少し離れたところで、レーチェルと立ち止まってみていると、カフィの護衛がこちらを指差し、カフィが気づいた。
満面の笑みで、カフィが駆け寄ってきた。
「今日はデートに誘っていただきありがとうございます」
そう言って、花束を美羽に渡してきた。
すかさず、レーチェルが突っ込む。
「おにいさま、デートっていうのは、ふたりでするものなのではないですか?」
「い、いや、君は妹だから数に入らない」
「それに、おねえさまはデートだなんておもってませんわ。ね、おねえさま」
「そうだよ。どっちかっていうと、レーチェルとわたしがデートだよねー」
「ねー」
「う」
「それに、なんですの、そのかっこう。まちなかではおかしいですわ」
「うう……そんなことを言う必要ないだろ」
「ありますわ。いもうとのわたしだってはずかしいのですよ」
「恥ずかしいってなんだよ! 兄に向かって」
「あにだろうが、なんだろうがはずかしいものははずかしいですわ」
レーチェルとカフィが言い争っているので、やることも無くなったので、美羽は次のことを考えていた。
(少し、お腹が減ってきたなぁ。なんか、スイーツが食べたい)
そう言って、自分のお腹をさすった。
「おねえさま、おにいさまのこのかっこう、どうおも、い、ま……おねえさま、どこですのー」
レーチェルが美羽に話しかけるもそこには誰もいなかった。
レーチェルもカフィも辺りを見回す。
「お、おねえさまが、かみかくし……」
レーチェルが青い顔になって泣きそうになる。
そこで護衛の一人が、レーチェルに声をかけた。
「御使い様なら、あのお店に入りましたよ」
ばっと、レーチェルが店を見て、全力で走っていった。
その頃、美羽はお店のショーケースに並ぶケーキを眺めていた。
色とりどりのケーキが並んでいる。
それを見ているだけで楽しくなってくる。
(ママと美奈ちゃんと一緒にケーキを買いに行った時を思い出すなぁ。
美奈ちゃんが一つに決められなくて、泣いちゃったんだっけ)
「ふふふ」
美羽が美玲と美奈との思い出を描きながら、小さく笑うと、それを見ていた店員とカフェのお客さんは、その美羽の姿に微笑ましく見守っていた。
「ねえ、あの子かわいいね」
「うん、癒されるぅ〜」
「ケーキが決まらないのかな?」
「お姉さんが奢ってあげよっかな〜」
お客さんたちが、そう話をしていると、突然ドアがバタンとけたたましい音を立てて開いた。
そして、そこからライトブラウンの毛玉が飛び出し、振り向いた美羽のお腹に勢いよくぶつかった。
「ゴフゥ」
美羽の口から、見た目からは想像できないほど可愛くない呻き声が漏れた。
「「「「ええ〜〜〜」」」」
店内の店員も客もみんな驚いた。
「ちょ、ちょっと、レーチェル。ぶつかってくるのはやめてって」
ライトブラウンの毛玉はレーチェルだった。
「おねえさま! ひどいですわ。わたしをおいていってしまうなんて」
「あ、ごめんね。なんか、仲良しだったから邪魔しちゃ悪いかなって思って」
「なかよくなんかしていませんでしたわ。おねえさまは、なにいってるんですの?」
「そうです、ミウ様。仲良くなんかしていませんでしたよ」
カフィも入ってきた。最近この二人は美羽のことで言い合うことが多い。
「ええ〜、でも仲良いんでしょ」
「それはなかはいいですけど」
「でも、ごめんね。レーチェル」
そういって、レーチェルの頭を優しく撫でる美羽。
レーチェルは目を細めて、美羽にもたれかかる。
「おねえさま〜」
「うふふ、かわいいわ。レーチェル」
「うれしいです〜」
レーチェルがうっとりとしていると、カフィが声を上げる。
「ミウ様、僕にもやってください」
「え? やらないけど」
「おにいさま、なにかわるいものでもたべたのですか?」
「そ、そんな……」
「そんなじゃないよ。さ、こんなところにいたらお店の迷惑だから、早く席に座りましょう」
「もう、おにいさまったら、せっかくのなでなでだったのに、じゃましないでほしいですわ」
美羽はニコニコ顔でレーチェルは物足りなげな顔で、カフィはあからさまに落ち込んで席についた。
すぐに店員を呼んで注文をした。
美羽はプルルのタルトとミルクティ。レーチェルも同じもの。カフィは紅茶のみ注文した。
すぐに注文したものが出てきた。
プルルの実の赤い切り口が白いクリームのケーキを引き立てる。
「わぁ〜、美味しそう。いただきまーす」
フォークでプルルとクリームを掬って口に入れる。
プルルの酸味とクリームの濃厚な甘味が混ざって口の中が喜んでいる。
「うーん、おいしー」
プルルは地球でいうところのりんごとプルーンを合わせたようなものだと、知識では知っていたが、実際に食べると本当にりんごとプルーンを同時に食べているみたいだった。
(りんごもプルーンも私とみなちゃんは好きだったんだよね。
プルーンはあんまりお店で売られないって、ママが言ってたっけ。
美奈ちゃんとママに食べさせてあげたいなぁー)
見るとレーチェルも美味しそうに食べている。
それをカフィは羨ましそうにじーっと眺めていた。
「カフィ、食べたいの?」
「い、いえ、僕は甘いものは苦手なので」
嘘である。カフィは美羽の前だからカッコつけているだけで、本当は大好きである。
「おにいさま、このあいだまでふつうにケーキをたべてますわよね」
「な、なにを言っているんだ、レーチェル。僕は甘いものは苦手だろう」
「ふーん。まあいいですけど」
レーチェルがフォークをケーキに刺そうとして止まった。
顔がとてつもなく落ち込んだ顔になっている。
「どうしたの? レーチェル」
「しっぱいでしたわ」
「なにが?」
「おねえさまとおなじものをたのんでしまっては、たべさせあいっこができませんわ」
「あ、そんなこと」
「そんなことではありませんわ。せっかくのチャンスですのに」
「いいよ、レーチェル。はい、アーン」
レーチェルがパァッと明るい顔になる。
「おねえさまぁ」
「ほら、早く」
「はい」
「アーン」
「アーン」
レーチェルがパクッと美羽のフォークを咥える。
美味しそうに咀嚼するレーチェルを見て、美羽は呆れたように言う。
「味は同じでしょ」
「いいえ、おねえさまのほうがだんぜんおいしいですわ」
「そうなの?」
「おねえさま、わたしのもたべてください。アーン」
そう言って、レーチェルがフォークを美羽に向けてくる。
「アーン」
美羽もパクッと食べてみるが、こそばゆく幸せな気がして味も違う気がした。
「うふふ、本当だ。レーチェルにもらったほうがおいしいね」
美羽がそう言いながらにっこり笑う。
それをカフィは見つめながらポツリと呟いた。
「しまった、その手があったか」
仮にカフィがケーキの注文をしていたとしても、カフィとはアーンをしないだろうと言うことにカフィは気づいていなかった。




