第43話 エルネストとカフィ
美羽とルッツ一家は大広間にいた。
見上げるような高い天井に大きな暖炉、壁には豪華な装飾が施されている広い空間だった。
大広間の一角では立派な服装をしたオーケストラが音楽を奏でていた。
大きなテーブルがいくつもあって、そこには色とりどりの料理が並んでいる。
ホールには多くの男女たちがひしめいていた。
あれはみんな貴族なんだろうなと美羽は思う。
みんな……特に女性は華やかな格好をしている。
「私って、場違いじゃないかなぁ」
「なにをいっているのですか、おねえさま。おねえさまはみつかいさまなんですよ。
ばちがいなわけありません」
レーチェルがすかさず言うと、ジョディも重ねて言う。
「そうよ、ミウちゃんはとても美しいわよ。誰かに引けを取るようなものではないわ」
「えへへ、そうかなぁ」
すると、カフィが美羽にずいっと近づいて言ってきた。
突然のカフィの行動に美羽が上半身をのけぞらせる。
「そうです! ミウ様はここにいる誰よりも美しいです」
「そ、そう? ありがとう、カフィ」
美羽がにっこり笑顔で返すと、その顔にドキドキしたカフィが真っ赤にした顔を逸らした。
その時ちょうど、伝令が大きな声で知らせてきた。
「陛下、ご到着しました」
それを聞くと、それまで騒がしかった会場が水を打ったように静まり返った。
すると、大きな扉が開いて、皇帝のウォーレンと二人の妃とその子供達、皇子皇女が入ってきた。
皇帝は美羽の姿を認めると、妃と子供達に待つように手で合図をして、美羽の元まできた。
「ミウ様、よくぞお越しくださった。今日は楽しんで欲しい。
妃と子供達を紹介するべきなんだが、慣れていないパーティーに堅苦しい挨拶は大変だろう。
後日ゆっくりと紹介させて欲しい。
それでいいだろうか?」
「うん、いいよ。気を遣ってくれてありがとう」
「うむ。それでは失礼するよ」
ウォーレンが上座である席に座ると、妃たちと皇子皇女たちも横に並んでいる席に座る。
美羽はクララを見ると、クララもチラと美羽を見て薄く笑った。
ウォーレンが口を開き、拡声の魔道具で話をする。
「皆の者、今宵の夜会に集いしこと、感謝するぞ。
本日は、御使いであらせられる美羽様がご臨席されておる。
存分に楽しみ、親交を深めるがよい。乾杯」
「「「「乾杯!」」」」
乾杯をすると、会場は一気に騒がしくなった。
美羽に向かって、多くの貴族が近寄ってきたが、それよりも早くジョディが声をかける。
「ミウちゃん、何か食べにいきましょうか?」
「うん! 私、お腹ぺこぺこ」
「わたしもです。おねえさま」
「うふふ、それじゃあ行きましょう」
これはジョディの機転だった。
貴族たちが美羽に取り入ろうとしているのを防ぐために食事に誘ったのだ。
食事をしている時に声をかけるのはマナー違反である。
テーブルには大きな獣の丸焼きが載っていて、取り分けるために給仕がいる。
給仕に聞いてみる。
「何これ、豚さん?」
「これはホーンボアです。魔物ですよ」
「魔物なの? 魔物食べられるんだ」
「はい、とても美味しいですよ」
「へえ、じゃあこれちょうだい」
「かしこまりました。御使い様」
「?」
「どうされましたか?」
「私の事、御使いって知ってるの?」
「ええ、城のものは皆ご存知ですよ。貴方様は今やVIPですからね」
「そうなんだ。なんか恥ずかしいなぁ」
「そんなこと思う必要はございません。クララ殿下をお助けしたことといい、エルネスト殿下の呪いを解いたことといい、
皆、御使い様のお力には感服しておりますゆえ」
「うふふ、ありがとう。お兄さん」
美羽がにっこりと笑うと、桜の花が開いたように見え、その上、お兄さんと呼ばれたことに給仕は呆然と見惚れた。
「どうしたの?」
「はっ、いえ、申し訳ありません。すぐにお取り分けいたします」
「ジョディちゃんとレーチェルの分もお願いね」
「はい」
その後、ジョディとレーチェルと一緒に食べようとするが、立ったままだと小さな美羽とレーチェルには食べにくい。
それで、端に用意されているテーブルについて食べ始めた。
「おねえさまは、かんたんにわらったらダメです」
「え? なんで?」
「もう、なにもわかってないです。ね、おかあさま」
「そうね、ミウちゃんは可愛いから次から次へと人を虜にしちゃうわ。男でも女でも」
「ええ〜、そんなこと言われても」
「もちろん、自然にしていればいいけど、周りの人はすぐに惹かれちゃうって思っておいた方がいいわ。ね、カフィ」
「ゴフッ、ゴホゴホ」
カフィが急に振られて、食べていたものを喉に詰まらせてしまった。
美羽が心配そうに言う。
「大丈夫? カフィ。はい、これハンカチ」
「あ、ありがとうございます」
カフィが赤くなって、美羽のハンカチを持った手を両手で掴む。
「私の手じゃなくて、ハンカチを掴んでよ」
「も、申し訳ありません」
「ふふふ」
美羽が小さく笑った。
それを見たカフィがさらに赤くなった。
「いったそばからこれなんですよ、おねえさまは」
「あらあら、そうねぇ。天然かしらねぇ」
「てんねんです」
「なぁに? 天然ってなんのこと?」
美羽がジョディとレーチェルに聞く。
レーチェルがジョディを見る。
レーチェルはジョディの言葉に乗っただけで本当は天然の意味がわからなかった。
「天然のタラシってことね」
「えー、そんなことしてないよぉ」
「うふふ、本人がわかってないから、天然なのよ」
「ひどーい、ジョディちゃん」
「いいえ、おねえさまはてんねんですわ」
「レーチェルまで〜」
和気藹々と食事をし、ひとしきり食べたら席を立ったが、皇族も席を立っているようで、クララが貴族に挨拶されていた。
そのクララと目があったら、クララが貴族との話を切り上げて、美羽に近寄ってきた。
美羽が動くのを待っていた貴族たちはまたしても肩透かしを喰らってしまった。
「ミウちゃん!」
「クララ!」
「どうだったディナーは?」
「うん、とーってもおいしかったよ」
そういって、美羽は自分が食べたものの話をクララにして盛り上がる。
笑顔で話しているクララの姿に、普段のクララを知っている貴族たちは驚く。
「クララ殿下があんなに楽しそうに喋るのを始めた見たぞ」
「クララ殿下が笑っている」
「やはり、御使い様のお力なのだろうか?」
「御使い様には不思議なお力があるのだろう」
実のところ、美羽とクララは普通に友達になっただけなのだが、御使いというユニークな言葉があるので、人々はそれのおかげと当てはめてしまう。
何はともあれ、クララが明るくなったのは事実で、それに関して遠くから見守っている皇后は美羽に感謝の念を持っていた。
「今度、御使い様とはじっくりお話をしてみたいわ」
「どうされました、皇后陛下?」
「いいえ、なんでもないわ」
イサベル・マーヴィカン。この国の后妃である彼女はクララの母であり、クララの最近の暗い表情に胸を痛めていたのだった。
美羽とクララが話しているところにエルネストがやってきた。
「おお、ミウ様! 今夜もとてもお美しい」
「出たな! 変態!」
「なっ、ひどいじゃないですか、変態だなんて」
「幼女にいきなり求婚して、キスした上に、裸で謝罪する人間のどこが変態じゃないのよ」
「ミウ様が天使のように美しいのがいけないのです」
「私のせいみたいに言わないで!」
「それに愛に年齢は関係ないのですよ」
「いくらなんでも5歳児に結婚はおかしいでしょ」
「「おかしくありません!」」
エルネストとカフィの声が被った。
二人がお互いで顔を見合わせる。
エルネストが口を開いた。
「なんだね、君は。私とミウ様の中に入り込まないでもらいたい」
「お言葉ですが、ミウ様はうちの賓客なのです。ミウ様とのお付き合いは私の方が長いのです。
殿下こそ嫌がるミウ様に結婚を迫るのはやめてもらいたいです」
「なに? ミウ様は嫌がってなんかいないぞ。君こそ、家の賓客になっているのをいいことに、ミウ様にいらない色目を使っているのではないだろうな?」
「な! ミウ様は私に微笑みかけていただけるのです。殿下とは立ち位置が違います」
「それをいうなら、私なんて呪いを解いていただいたのだ。それだけ深い関係ということだ」
美羽は二人のやりとりを呆れてみていた。
「なにこれ……」
すると、袖が引かれた。
振り向くとレーチェルだった。
「おねえさま。あのようなかたたちはほっといて、バルコニーにでませんか」
「そうね、クララも行く?」
「ええ、もちろん」
3人は、言い争うエルネストとカフィをほっといて、バルコニーにでた。
夜風が暖かい部屋で熱った肌に気持ちいい。
「お兄様にも困ったものだわ。まだミウちゃんに結婚を迫ろうとしているなんて」
「わたしのおにいさまもですわ。おねえさまにはなしかけることができないのに、あんなひとまえではいいあうなんて、はずかしいですわ」
「ねぇ、面倒な人たちだったねぇ。私はクララやレーチェルと話しているだけで十分なのに」
「ミウちゃん」
「おねえさま」
二人は感動していたが、クララが思い出したように言う。
「レーチェルはミウちゃんのことお姉様って呼んでるでしょ?」
「はい、わたしのたいせつなおねえさまですわ」
「じゃ、じゃあさ、ミウちゃんは私のことをお姉ちゃんっていって欲しいな。たまには」
「なんで?」
そう言われてクララは焦った。
「だ、だって、私の方がずいぶん年上だし、私には妹もいないし、お姉ちゃんなんて言われたことないし、言われてみたいって言うか、ううん、誰でもいいからってわけじゃないの、ミウちゃんだからね。えっと、えっと」
「お姉ちゃん」
「へ?」
「クララお姉ちゃん、どうしたの?」
美羽がそういいながら首を傾げた。
その可愛さにクララが真っ赤になる。
「きゃー、ミウちゃんがお姉ちゃんだって。私がお姉ちゃんだって。ミウちゃん可愛いー。もう好き、大好き」
クララが頬に両手を当てて体をブンブン振って悶えている。
「クララ大丈夫?」
「あ……、お姉ちゃんって言ってくれないの?」
クララが愕然とした顔で言う
「えー、どうしよっかなぁ」
「言ってよー」
「うーん、じゃあ、たまに言ってあげるね」
「たまになの?」
「うん、たまに。嫌なの?」
「ううん、嫌じゃない。じゃあ、たまに言ってね」
「うん、いいよ」
「ねえ、ミウちゃん。明日からどうするの?」
「市場に出て、治癒のお仕事するよ。あと、歌を歌うの」
「なにそれ、私も歌聴きたい!」
「でもなぁ、クララはお姫様だしなぁ」
「変装して出るから大丈夫よ」
「そう言って、悪い人に捕まったのに」
「今はこれがあるから大丈夫よ!」
クララが月のペンダントを出して言った。
「きんちゃん」
「はい、ミウ様」
「クララが市場に来て、これを持ってても危ないことってあるかな?」
「普通の誘拐や暴漢などならなにも問題はないでしょう」
「そっか、じゃあ待ってるね」
「うん!」
「おねえさま、わたしもききにいきたいですわ」
「レーチェルはねぇ、小さいから」
「護衛をつけますわ」
「そうね、ジョディちゃんと相談してね」
「わかりましたわ」
その後は女子3人で楽しく話して過ごした。
結局、貴族たちは美羽と話すことができないで終わってしまった。




