第41話 大好き
美羽はお茶の前にクララと一緒に庭園を散歩している。
レーチェルは謁見で緊張して疲れ切ってしまい、部屋で休んでいた。
「きゃー、かわいいお花。なんていうの?」
「それはエルフローズよ。とあるエルフの里に生えていたからそう呼ばれたの」
「へー、小さなバラが茎にまで咲いているみたいね。色も白に赤に黄色に、あ、面白い! 緑色のものもあるよ」
「そうね、緑の花って珍しいよね」
「うん、これじゃあ葉っぱと同じ色だし、全然目立たないね」
美羽が緑のエルフローズを持ってウフフと笑う。
「ハァ〜、本当に可愛い」
クララは美羽のことを可愛いと言ったのだが、
「うん! エルフローズってかわいいね」
すると、クララが美羽の顔を両手で挟み、顔を近づけて言う。
「あなたのことを言ったのよ! なんでそんなにかわいいのよ」
「きゃー、助けてー」
美羽がクララの手をすり抜けて、走りながら叫ぶ。
「あ、ちょっと、待ちなさいよー」
「キャハハー、やだよー」
「ちょ、ちょっと、あなた本当に速いんだから、待ってー」
クララは追いかけるも、美羽には全然追いつけない。
「あはは、クララ遅くておじいちゃんみたいー」
「コラー! そこはおばあちゃんって言いなさーい」
「やだよー。クララおじいちゃーん」
「もう! ミウちゃんのバカー」
クララが思い切り走ってきたところに、美羽が急に止まって両手を広げながら振り向いた。
クララは止まれずに、美羽に突っ込み、美羽は両手でクララを抱きしめながら、後ろの芝生に一緒に倒れた。
「うぷっ」
「ミウちゃん! 大丈夫?」
「あははー、びっくりしたー?」
美羽は笑いながら、顔をクララの胸にぐりぐりと押し付ける。
「もう、急に止まるんだもん。びっくりしたわよ」
「ごめんね。ちょっと、イタズラしたくなっちゃったの」
「悪い子なんだからー」
そういうと、クララは美羽を抱えたままひっくり返る。
美羽がクララの上にきた。
「えへへ、クララあったかい」
「ミウちゃんもあったかいよ」
二人はしばらくこのままでお互いの体温を堪能した。
「不思議……」
「何が? クララ」
「ミウちゃんと知り合って、会うのはまだ2回目なのに、もうずっと前から友達みたい」
美羽がクララの胸の上で、顔をあげそれに答える。
「それはねぇー」
「うん」
「どうしよう、教えてあげよっかなぁ」
「なぁに、教えてよぉ」
「クララが私のことが好きで好きで仕方ないからだよ」
「えー、それは否定はしないけど、ミウちゃんだって私のこと好きでしょ」
「ビミョー」
「ガーン!」
「あはは、ガーンって口で言った」
「もう、ミウちゃん! 正直に私のこと好きって言って!」
「なんでそう思うのー」
「だって、私のネックレスに神気入れてくれたじゃない」
「だって、私はどっかの教会で知らないお姉さんに神気でフィーナちゃん像を作ってあげたよ。
女なら誰でもいいのさ」
そして、美羽が悪い顔でニヤリと笑う。
「ひ、ひどい、私のことは遊びだったのね」
クララが手を目に当て鳴き真似をする。
「遊びにちょうどいい女なのさ。また遊んでやるよ」
すると、クララが笑いながら、美羽の脇をくすぐり始めた。
「あはは、そんな悪いこという子はこうよ。こちょこちょー」
美羽がクララに乗ったまま身悶えする。
「きゃー、待ってー。脇は、キャハ、脇は、キャハハ、弱いのー」
「待たないよー。私のこと好きっていうまでやめないよー」
「わ、わかった、キャハハ、わかったから、キャハハ、一旦やめて」
「しょうがないなぁ。やめてあげるよ」
クララがくすぐりをやめると、美羽が荒い息を整える。
「はぁー、はぁー」
「はい、それで?」
「何?」
「私のこと好きっていうんでしょ」
すると、美羽が猫のような素早さで、クララの上から飛び退いて、走り出した。
「言わなーい」
「ああ、ミウちゃん! ちょっと待ちなさーい」
クララは必死に追いかける。
走りながら涙が溢れてきた。
「なんで? 本当に私のこと好きじゃないの?」
クララの走る勢いが弱まり、次第に歩く速さになり、やがて足が止まって俯いた。
「私、やっぱりお友達はいないのね」
クララは幼い時から周りの人には優しくしてもらえるし、取り巻きもいるが友達として対等な相手はいなかった。
対等に接するように頼んでも、恐れ多いと言い、そうしてくれない。
いつも腫れ物に触れるような扱いをされて寂しかった。
そして、対等の友達を作ることは諦めていた。
だから、美羽が対等に相手をしてくれた時は嬉しかった。
自分のことを友達のように接してくれて、ペンダントに神気を入れてお守りにしてくれて、とても嬉しかった。
歳は離れているが、すぐに美羽のことが大好きになってしまった。
しかし、美羽はそうは思っていないと感じてしまった。
友達がいたことがないクララには、美羽のやっていることが冗談だと思うのは難しかった。
友達だと思われていないと思うことが悲しかった。
今日だって美羽と遊んだのがとても楽しかったのだ。
もう大好きな友達になったと思ったのに、これが違うのなら、もう友達なんてできないだろうと思う。
そう思うと、涙が止まらなくなってしまった。
「クララー」
その声にクララは顔をあげる。
涙で歪んで見える美羽が遠くから手を振っている。
そして、大きな声で叫んだ。
「クララー、大好きだよー」
クララは呆気に取られて、遠くの美羽を見る。
「クララー、大好きー」
クララの目からは再び涙が溢れた。
今度は先ほどとは違い喜びの涙だった。
涙声のまま、クララは一人呟く。
「もう、早く言ってよ」
そして、美羽のもとへ大急ぎで駆けて行った。
美羽のそばによると、美羽はニコニコしていたが、クララを見るとニヤリとした。
「あれぇ? クララ泣いてたのぉ〜」
「もう! 意地悪言わないでよ」
そう言って、クララは美羽の背中をパシパシ叩く。
「あはは、ごめんね」
「もう、今度こんな意地悪したら許さないんだから」
「もー、クララったら、かわいいなぁ」
「あー、またバカにしてる」
「うふふ」
「もう」
「クララ」
「何よ」
美羽が満面の笑みで言った。
「大好き!」
「うん! 私も!」
二人は、お茶のある東屋まで仲良く手を繋いで歩いて行った。




