第40話 謁見
「ふえええええん、クララ〜」
「よしよし、大丈夫よ。愚兄がごめんね。ミウちゃん」
「本当にやだったよ〜」
美羽は、クララに抱きついて泣いていた。
美羽は柏原の件で男の裸に対してトラウマと言うべき恐怖心を持っている。
その男の裸が、下半身をあらわにして堂々と近づいてきたのだ。無理もない。
エルネストは身支度を整えるために別室に行ってすでにいない。
だから、美羽も徐々に落ち着いてきた。
しかし、ショックは残っている。
「もう、帰る」
「ミ、ミウちゃん、そう言わないで。ここまできたのだから、皇帝陛下にお会いしましょう」
「もう、そんな気分じゃないよ」
「そんなことを言わないで。私の顔を立てると思って。ね」
「う〜、そう言われると仕方ない。ずるいよ、クララ」
「うふふ、ごめんね。でも、ミウちゃんがせっかくきてくれたんだから、もっと一緒にいたいのよ」
「えへへ、私もそう。じゃあ、しょうがないね」
美羽は表情を明るくさせ花のように、にっこりと笑って言った。
「ありがとう、ミウちゃん。謁見が終わったら、パーティーまでは時間があるから、お茶会をしましょうね」
「レーチェルも一緒でいい?」
「レーチェル伯爵令嬢?? ミウちゃんと仲良いの?」
「うん、そうだよ」
「もちろんいいよ。一緒に楽しもうね」
「うん、楽しみになってきた」
美羽がにっこりと笑う。
やっと元気が戻ってきてクララはホッとする。
美羽の笑顔につられてクララもいつの間にか笑顔になっていた。
「やっぱりミウちゃんは笑顔が可愛いね」
「えへへ、そうかなぁ。クララも可愛いよ」
「まあ、ミウちゃんがそう言ってくれるのは嬉しいよ」
呼び出しがあるまで、ボロボロの部屋で楽しく話していた二人だった。
美羽はモーガンとレーチェルと合流して、謁見の間の前に来ていた。
「うわぁ、大きい扉だねぇ」
「そうですわね。おねえさま。おねえさまがますますちいさくみえますわ」
「あ、こら〜、レーチェル。私のこと小さいって馬鹿にしたでしょ」
「そんなことしてませんわ。ほんとうのことをいったのですわ」
そう言いながらも、レーチェルはニヤニヤしている。
「やっぱり馬鹿にしてる〜。自分の方が小さいのに、そんな悪いことを言うのはこの口かぁ」
美羽がレーチェルの両頬をつまみながら引っ張る。
「あがっ、あがっ、おへーはは、ほへんははい」
「もう、レーチェルったら。許してあげる」
「うふふ、ありがとうございます。おねえさま」
ほっぺを赤く腫らしながら、嬉しそうに言うレーチェルを見て、モーガンが不思議そうな顔をして言う。
「なぜ、お前はそんなに嬉しそうなんだ?」
レーチェルはきょとんとして、モーガンに答える。
「あたりまえですわ。おねえさまとこんなことできるのは、なかがいいってことですわ。
うれしいにきまってます」
「そ、そうか。まあ、ほどほどにな」
そうこういっている間に、入場する時間になった。
謁見の間の大きなドアが開き、伝令が大声で美羽達の名前を呼んだ。
「女神レスフィーナ様の御使い、ミウ様。モーガン・ルッツ伯爵、付き添いレーチェル・ルッツ様。陛下の前に参上」
左右にたくさんの貴族が立っている中、美羽達は玉座に座る男の前に歩いて行った。
玉座の横には二人の后妃が並び一段下がった椅子にはエルネストを含んだ3人の皇子とクララを含んだ3人の皇女が並んでいた。
ある程度進んだところで、モーガンが声をかける。
「ミウ様そこでお止まりください」
美羽がそれに応じて止まると、モーガンとレーチェルが膝をついた。
(女性も謁見の間ではカーテシーじゃないのよね。)
女神にもらった美羽の頭の中にある知識が出てくる。
(でも、私はしない)
そんなことを考えていると、モーガンが声を上げる。
「陛下、モーガン・ルッツ、陛下の御前に参上いたしました」
「うむ、モーガンよ。壮健にしておったか?」
「はい、おかげさまで大過なく、過ごしております」
「うむ、何よりじゃ。して……」
皇帝は美羽のことを見て続ける。
「その者は、なぜ余の前で膝をつかぬのじゃ?」
(私の知識でも皇帝とか王の前で膝をつかないと面倒なことになりやすいってあるんだけどね。でも……)
すると、きんちゃんが前に出てきた。
「それには私が答えよう」
きんちゃんが喋ったことに周囲がざわつく。
「私はきんちゃん。美羽様のお造りになった魔法生物だ」
「ほう、魔法生物とな。して、その魔法生物が余に何を答えてくれるのだ?」
「皇帝よ。ミウ様は女神レスフィーナ様より遣わされた御使い様だ。
その美羽様が頭を下げると言うことは女神レスフィーナ様が頭を下げることと同義になる。
まさか、女神様を下に見たいとでも言うのか?」
すると、皇帝が笑い出した。
「フハハハハ。然り然り。御使い様ならば余にも頭は下げられぬであろう。
いや、頭を下げねばならぬのはこちらのほうか」
そして、美羽に向き直すと皇帝は話し始めた。
「余はウォーレン・マーヴィカン。このマーヴィカン帝国の皇帝である」
それには美羽が応えた。
「私は小桜美羽。女神レスフィーナに御使いになるように言われたの。この髪と瞳の色が証拠だって言ってたわ」
「うむ、確かに桜色の髪と瞳は女神の証と言う。
マーヴィカン帝国はミウ様を御使い様と認めましょう」
「おお」と、謁見の間はざわめいた。
「ところで、ミウ様。貴女にはいくつか功績があると言うことでしたな。
ポンテビグナでのゴブリンキングを含めたゴブリン退治と転移ゲートの発見。
皇女クララの人身売買組織からの救出、それに」
ウォーレンは少し間を持たせてから言った。
「皇子エルネストの病が呪いと見抜いたことと呪いの解呪」
そう言うと、貴族達が驚いていた。
「なんと、殿下の病いは呪いだったのか」
「なんと言うことだ」
「いったい誰が」
「しかし、呪いはそう簡単には解けないと言う。さすがは御使い様だ」
皇帝はざわめきが収まるのを待って口を開く。
「美羽様、ゴブリンキングの件や転移ゲートの件も感謝しているが、皇子と皇女を救ってくれたことは感謝に耐えぬ。
何か、お礼をさせてくれないだろうか?」
「んー、別にいらない」
「それではこちらとしても示しがつかないのだ。
そうだ、エルネストと結婚はどうだろうか?」
その瞬間、美羽はものすごく嫌な顔をした。
エルネストにおでこにキスをされたことや唇に迫ってきたこと、裸で現れたことが思い出された。
しかし、そんな美羽の思いとは関係なく、エルネストはとても嬉しそうな顔になる。
そこに、皇子の一人が声をあげる。
「陛下! ミウ様を娶るのはどうか私にしていただきたい」
「しかしヨーゼフ、お前には婚約者がいるだろう」
「それなら、エルネストとて、婚約者候補が出揃っております。ですから、長男の私がミウ様を娶るのが順番的に正しいのです。」
「いえ、父上。私はすでにミウ様に助けていただいた時から、心を捧げております。ぜひ、私に」
(冗談じゃない! エルネストと御使いとの婚姻が決まってしまったら、いよいよ皇帝の座はエルネストに決まってしまうじゃないか。あの小娘は私がもらうのだ)
「父上!私とて、すでにミウ様に心奪われております。ぜひとも私の伴侶に」
「まあ、待てお前達。ミウ様のお気持ちを聞かないことにはこちらだけで決めるわけにはいかないだろう」
全員の目が美羽に集まった。
その美羽はプルプルと小刻みに震えている。
そこへ、空気を読まない皇帝が声をかける。
「ミウ様、いかがか? ヨーゼフとエルネストであればどちらがよろしいかな?」
俯き気味にいた美羽がきっと顔をあげ、皇帝を睨む。
「どっちも嫌に決まってるでしょう。私はまだ5歳だよ。なんで、そんな人たちと結婚しないといけないの。
大体、これは私にお礼をくれるって言う話だったでしょ。なんでその二人がお礼になると思ってるかなぁ?
これこそ、恩を仇で返しているよ」
そして、エルネストをキッと睨みつけた。
「あなたなんか、本当に嫌いよ。私に突然キスをしてきて、なんなのよ。もう少しで唇まで奪われそうだったでしょ。
身の毛がよだつほど気持ち悪いわ。それに、裸まで見せつけてきて、ほんとサイテー。私に近寄らないで!」
それを聞いたヨーゼフがニタァと笑いながら、エルネストを見ている。
エルネストは端正な顔を青く染めて呆然としていた。
(エルネストは残念だったな。これで御使いは俺のものだ)
そう思っているヨーゼフの方を美羽が見て口を開く。
「あなたはなんなの? 私と会ったこともないのに、なんで結婚なんて言ってるの? できると思ってるの?
見た目だけで言うけど、あなたみたいなタイプはまっっったく興味ないわ。それに、あなただって私に興味ないでしょ。
それなのに私と結婚したい理由は何? 御使いと結婚すれば皇帝にでもなれると思った?
でもね、私はあなたとなんてこれっぽっちも結婚したいなんて思ってないよ!」
貴族達が失笑をしている。
それを聞いて呆然としていたヨーゼフの顔が真っ赤になって、全身を震わせる。
(おのれぇ、恥をかかせやがって)
困った顔になっている皇帝に美羽は言う。
「私、結婚なんてしないから。どうしてもお礼をしたいなら、お金にしておいて」
「う、うむ。そうか。普通は皇族と結婚なんて、喜ぶんだが……」
「皇族とかはよくわからないけど、結婚がありえないよ」
「そうか、わかった。追って礼を送る。下がってくれて良いぞ」
そうして、美羽は下がるのだが、後には微妙な顔をした皇帝と真っ赤な顔をして震えているヨーゼフと青い顔をしているエルネストが残った。
貴族達は、チャンスがあると思う者、美羽自身を面白いと思っている者、無礼だと思い不快感を隠さない者に分かれていた。
美羽の望む望まないに関わらず、帝都の貴族達は美羽を中心に動き出そうとしていた。




