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女神様の使い、5歳からやってます  作者: めのめむし
第3章 帝都編1

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第36話 テレフォン

 ルッツ家の屋敷に帰ると、レーチェルとサシャに出迎えられた。


「おねえさま、おかえりなさいませ」

「ミウ様、お帰りなさいませ」

「レーチェル、サシャ、ただいま」

「まちのほうはいかがでしたか?」

「うん、市場でお店を出すことにしたの。もう20人治癒してきたよ」

「まあ、すごいですね」

「あとね、小さい子に歌を歌ってあげたら、他の人にも歌うことになったの。

みんな投げ銭してくれて、いっぱいお金もらっちゃった」

「まあ、おねえさまのうたですの? わたしもききたいですわ」

「今度ね。それで、ジョディちゃんとモーガンはいるかな?」

「ミウ様、お二人は登城されています。ディナーの時間には戻られるはずですが」

「それなら待ってるね」

「それでは、おねえさま。いっしょにおふろにはいりましょう。きょうはもう、すぐにはいれますのよ」

「いいよ、入ろう。楽しみだね」

「うれしいですわ。おねえさまとおふろにはいるのだいすきです」


 話していたら、いつの間にかカフィが近くに来ていた。


「僕も入ります」

「それはイヤ」


 美羽が短く答えると、レーチェルが付け足した。


「おにいさま。レディのおふろにはいろうなんてぶすいですわ。

えんりょしてください」


 カフィは美羽とレーチェルに言われて、それきり俯いて黙ってしまった。

美羽とレーチェルはその横を通り抜けて、浴室に向かった。


(カフィ、昨日も断ったのに、しつこいなぁ。なんであんなに何度も言ってくるんだろう?

でも、たとえ子供でも男の人の視線はいや)


 美羽は柏原にねっとりとした視線で全身を舐め回すように見られたことを思い出して、吐き気がしてきた。

当時は視線の意味がわからなかったが、思考力が上がった今だからこそ理解できる。

思えば、柏原の優しいと思っていた視線も着替えを手伝ってくれた優しさも、優しい手つきも全部下心があってやってきていたのだ。


 そう理解したからこそ、美羽は男性に対して、嫌悪感を抱くのだが、それが最近は治るどころか、ひどくなっていっている。

それは、元々強烈な体験だった上に、レスフィーナによって上げられた記憶力が当時のことを鮮明に思い出させて、何度も追体験をしているような状態になっていたのだ。

それによって嫌悪感が根付いていってしまっているからだった。


 だから、子供とはいえ、女性として意識されているであろうカフィの視線もどうしても気持ち悪く感じてしまう。


 しかし、カフィは当然このことを知らない。

まだ子供なので、恋愛の駆け引きも知らない。

だから、ただ近寄れば受け入れてもらえると思っている。

実際に家族も学校の友人も受け入れてもらえているのだから、間違った方法ではない。


 ただ、カフィが思う以上に美羽が男というものを嫌悪しているだけなのだった。


 それを知らないカフィは自分がなぜ受け入れられないのかが理解できずに鬱屈していった。



 レーチェルと風呂を上がった美羽は、サシャに導かれるままに食堂に行った。

食堂にはモーガンとジョディ、カフィがすでに席に着いていた。


 すぐにレーチェルと美羽も席に着き、みんなで食事を始めた。


 食事が終わってから、モーガンが口を開いた。


「ミウ様、私とジョディに話があったと伺っていますが」

「うん、あのね、私、明日から街の宿屋さんに泊まろうかと思っているの」


 それにはジョディとレーチェルとカフィが反対の声を上げる。


「ミウちゃん、まだ5歳なのに宿屋に一人で泊まるなんて危ないわよ。うちにいればいいのよ」

「そ、そうですわ! おねえさまがでていくなんて、わたしさびしすぎます。ここにいてください」

「ミウ様、ここにいてください。ここなら僕が守ってあげられますから」


 三者三様に言う。

止めてくれることを美羽は嬉しく思った。


(カフィの守ってあげるっていうのは、本当にいらないけど……)


 一人モーガンは冷静に3人を嗜める。


「まあ待て。美羽様にも何か考えがあるんだろう。まずはそれを聞くんだ」

「「「……はい」」」

「ミウ様、何か理由でもあるのですか?」

「今日から、治癒の仕事を始めたし、歌を歌う仕事もやろうかと思っているの」

「ミウちゃん、歌が歌えるの?」

「うん、今日はお金もたくさんもらったよ」

「そうなの。私も聞いてみたいわ。あとで歌ってもらえるかしら」

「いいよ、あとでね。

それで、冒険者もやろうと思っているから、忙しくなっちゃうと思うの。

だから、市場と冒険者ギルドも近い宿を借りようと思ったんだ」

「そうですか。冒険者は朝早いですし、市場もここからでは少し遠いですからね」

「残念だわ。ミウちゃんが出ていってしまうなんて。遊びには来てね」

「うん、来るよ」

「おとうさま! わたしもおねえさまとやどにとまりますわ」

「ダメよ、レーチェル」

「どうしてですか!」

「あなたはまだ小さいくて危ないし、身の回りのことも自分でできないでしょ。

それに貴族の娘がずっと宿にいるのは問題だわ」

「そんなぁ……おねぇさま、いかないでぇ」


 見るからにレーチェルが落ち込み、啜り泣く。

美羽もさすがに罪悪感が湧いてきた。


(困ったな。電話でもあればいいのに。……あ、神気使えばできるかな?)


「レーチェル、何かお気に入りのアクセサリーか石とかある? 二つ必要なんだけど」

「? ありますわ。とってきてもらいます」


 レーチェル付きのメイドにとりに行かせたのは、二つのビー玉大の水晶だった。


「じゃあ、レーチェル。これ使っていい?」

「いいですよ」

「何するか聞かないの?」

「おねえさまがやることがわるいことのはずありませんわ。」


 そう言って、にこりと笑う。

美羽もつられてにこりと笑い、水晶を一つずつ左右の手に握る。

モーガンとジョディも興味深げにみている。


 目を閉じ集中すると、桜色の光が溢れてくる。


(左右の水晶が伸び縮みする紐で繋がるイメージで、最後は二つを包み込むように神気を入れる)


 すると、美羽の両手を桜色の光が覆い、光り輝く。

すぐにその光は止むと、美羽は手を開いた。


 そこにあった水晶は先ほどとは違い、中心部あたりが桜色の淡い光で揺らいでいた。


「できた!」

「ミウちゃん、何を作ったのかしら」

「使ってみればわかるよ。レーチェル、これを持って声が聞こえない部屋に行って、この石を私だと思って話しかけてみて」

「? わかりましたわ」


 レーチェルは、食堂を出ていった。

美羽の水晶はテーブルの上に乗せた。


 みんなが見守る中、水晶から声が聞こえてきた。


『おねえさま、レーチェルです』

「な、なんと。レーチェルが喋っているのか?」

「どう言うことかしら? ミウちゃん」

「説明するね。レーチェル、聞こえる?」

『え? おねえさま? き、きこえますわ。どういうことですの?』

「この水晶同士を、神気で繋げたんだよ。フィーナちゃんと話す時も神気で繋げるんだ。

神界には強い神気じゃないとつながらないけど、地上だったら、弱くても繋がるんじゃないかなって思ったの。

えへへ、上手く行っちゃった」

『すごいですわ』

「これで、私がこの屋敷から出ていっても、話せるでしょ」

『おねえさま、わたしのためにつくってくれたんですか』

「そうだよ。もう寂しくないでしょ」

『……』


 その返事はなかった。


「あれ? 切れちゃった?」


 美羽がそう言ったと同時に食堂のドアがドンッと開いた。

そして、レーチェルがすごい勢いで走ってきて、美羽のお腹に飛び込んだ。


「グエッ」


 美羽が可愛くない声を出して悶絶する。

レーチェルは気にしないで、美羽のお腹に頭を埋めて泣きじゃくる。


「おねえさま! だいすきですわ。わたしのために、わたしのために、えーん」


 美羽はレーチェルの突撃に文句を言おうかと思ったがやめて、泣き止むまで微笑みながら頭を撫でてあげた。


 泣き笑いするレーチェルと包み込むような笑顔で頭を撫でる美羽の光景が美しく、周囲の人は誰も言葉を発しないで見つめていた。

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