第34話 リリとルル 第35話 司祭
1話投稿し忘れていたようですので、小説家になろうには途中からエピソードを割り込ませることができないので、この話を2話分にしました。
少し長くなってしまいましたが、途中で線を引いているところが34話と35話の境目ですので、よければ分けてお読みください
行列は20人いた。
「きんちゃん、結構いるね」
「そうですね。でも、並の治癒士なら大変な人数でしょうけど、美羽様にとっては余裕の人数でしょう」
「うん、簡単にできるよね」
美羽は自分の店まで行くと、集まっている人たちに声をかける。
「みんな、治癒をしてもらいたいってことでいいのかな?」
「ああ、噂を聞いてきたんだ」
「ナディアから聞いたの。腕がいいって聞いたから、私の腕の骨折治せるかしら」
「嬢ちゃん、腰を痛めちまってな。頼めるかい?」
「うちの子が2日前から高熱を出して、全然治らないんです」
それぞれ、症状を告げてくる。
多岐に渡った症状だが、美羽にはなんてこともない症状だろう。
その中に美羽をなじってくる者もいた。
2人の大人を連れた、右手に包帯を巻いている12歳くらいの赤髪の少年が美羽に詰め寄ってきて言う。
「お前、俺がせっかくきてやったのに、店を空けてどこに行ってたんだよ。俺は手首が痛えんだよ。早く治せ」
「いや」
「ああん?」
「そんな態度の人、治したくない!」
先ほどの脳筋脅し男よりも迫力がないから、怖くない。
余裕を持って言い返せた。
「はぁ、金なんか払ってやるから治せ。どうせ孤児の子供で、金に困ってるんだろ」
「お金には困っていないよ。それよりも口の利き方がなっていない人は治さないって言ってるの」
「お前、俺が誰かわかって言ってるのか?」
「知らないし、興味もない」
「俺はなぁ。帝都でも指折りのゴルディアック商会の三男のジェフ・ゴルディアック様だぞ」
そういうと、周りがざわめいた。
「おい、ゴルディアック商会だってよ」
「逆らうと、何をされるかわからないぞ」
周りの反応にジェフはご満悦の顔をしている。
しかし、美羽は全く反応しない。
「名前なんか言う必要ないよ。覚える気なんかないから。強いて言うなら、生意気レッドでいいんじゃない?」
「よくない! 大体なんだ。生意気レッドって」
「はい、それじゃあ、目障りだから早く帰ってね。生意気レッドくん」
「テメェ! 調子に乗りやがって。おい、こいつを痛い目に合わせてやれ」
すると、取り巻きの一人、スキンヘッドの大男が怒鳴った。
「おう! オメーが悪いんだからなぁ。ジェフ坊ちゃんに逆らったんだ。腕の1本や2本へし折ってやるぜ」
「ひっ」
取り巻きの迫力に、美羽が顔を引き攣らせる。
それを見た、もう一人の太った取り巻きもニヤニヤしている。
ジェフは笑い出した。
「ハッハッハッ、泣いて謝るなら今のうちだぞ」
「わ、私は、誰にも屈しないって決めたの」
美羽はブルブルと震えながら言う。
それを見て、ジェフはいやらしい笑みをさらに深める。
「そうかよ。もう後悔したって遅いからな。おい、やれ」
スキンヘッドが美羽の胸ぐらを掴もうと、手を伸ばしてきた時に声が上がった。
「待ちなさい!」
美羽とスキンヘッドの男との間に2人の人物が割り込んだ。
それは先ほど、りんごをくれた女の子とその子によく似た少し大きい女の子だった。
「て、天使様に乱暴するのはやめて」
「そ、そうよ。こんなに小さい子に、恥ずかしいと思わないの?」
ジェフが大笑いする。
「はーはっは、お前ら庶民が俺に逆らうって言うのか? ん? お前ら、結構かわいいな。二人とも俺の女になれ。
そうしたら許してやるよ」
「誰が、あなたなんかに! お断りよ!」
「わ、私も嫌よ!」
二人が拒否する。
すると、ジェフは怒りに顔を歪めた。
「おい、こいつらを宙吊りにしろ」
そう言われたスキンヘッドが、二人の胸ぐらを掴み中に持ち上げた。
「「きゃー」」
ジェフが得意げに二人に向かって言う。
「どうだ、俺の女になる気になったか?」
「ふ、ふざけないで! あなたみたいな情けない男、お断りだわ」
「ほ、本当に情けない男。じ、自分では、な、何もできないんだわ」
そう言われると、ジェフは逆上した。
「ふざけやがってー。おい、思い切り地面に叩きつけて、思い知らせてやれ」
「おおっ」
スキンヘッドの男は、二人を限界まで上に持ち上げてから、勢いよく地面に向かって振り下ろした。
地面に激突する寸前だった。
「女神の手」
桜色の手が4本現れ、2本は少女二人の背中へ、残り2本はスキンヘッドの男の両手首を掴んで止めた。
おかげで、少女は地面に激突しないで済んだ。
「な、なんだこれ」
スキンヘッドの男は桜色の大きな手に驚いている。
そこに美羽が冷たい目で言う。
「離しなさい」
ミシ、ミシ、バキン。
「うぎゃあああ」
スキンヘッドの男がのたうち回る。
美羽が容赦無く両方の手首を折ったのだ。
ジェフも取り巻きの太った男も何が起こったかわからず呆然としている。
美羽は、二人の少女の元へ行くと、優しく声をかけた。
美羽の周りには桜色の淡い光が溢れている。
「大丈夫?」
「あ、天使様。大丈夫です」
「ほ、本当に天使様。ルルの言った通り」
「二人ともありがとうね。私を守ろうとしてくれたんだね。嬉しかったよ」
美羽がにこりと笑う。
その姿は桜色の光と相まって、神々しく輝いていた。
「天使様、きれい」
「天使様、美しい……」
二人がぼーっとして、美羽を見ている。
美羽は首を傾げる。
「大丈夫?」
「「かわいいー」」
大丈夫だと判断した美羽は二人から離れる。
そして、ジェフに言う。
「あなた、本当にひどいことをしようとしたのわかってる?」
美羽が聞くと、すっかり及び腰だが、ジェフはなんとか言い返す。
「しょ、庶民がどうなろうが知ったことか」
「じゃあ、私もあなたがどうなろうと知らない。女神の手」
美羽は女神の手で、ジェフを平手打ちする。
ジェフは吹き飛んで倒れた。失神してしまっている。
美羽は太った取り巻きに言う。
「この邪魔な二人を早く連れ帰って。じゃないとあなたも同じ目に遭うよ」
「は、はい〜」
太った男は慌ててジェフを抱えて、スキンヘッドの男を連れて逃げていった。
「「「おおおおおお」」」
周りから拍手が湧き起こった。
「おおーよくやった」
「スカッとしたぞー」
口々に褒めてくれるのだが、美羽は釈然としない思いがあった。
(助けてくれてもよかったのに……)
二人の少女のところに向かうと、少女が困った顔で笑っていた。
「天使様、私たちが余計なことをしてしまいましたか?」
「天使様、一人でなんとかできたみたいなので……」
それを聞くと、美羽は笑顔になり首を振った。
「ううん、本当はね、すごく怖かったの。
だから、二人が庇ってくれて、本当に嬉しかったんだよ。ありがとうね」
そう言うと、二人は恍惚の表情になった。
「「天使様」」
「私の名前は小桜美羽だよ。美羽って呼んでね」
すると、大きい方の少女が答える。
「私はリリ14歳です。この子はルル12歳です。家は果物屋をやっています。よろしくお願いします」
「ミウ様、よろしくお願いします」
「そっかぁ。果物屋さんだから、ルルはさっきりんごをくれたんだね。おいしかったよ」
「ミウ様にそう言ってもらえるなんて、嬉しいです」
「そうだ、今からあの人たちを治癒するから、二人も癒されてね」
「私たちは怪我というほどではないですよ」
「いいからいいから。こっち来て」
美羽は20人の並んでいる怪我人のところに行くと、声をかける。
「それじゃあ、みんな治すよ。もう少しこっちに集まってくれる?」
集まってきたところで、神気結界を発動する。
桜色の結界が張られ、あたりに桜の花びらが舞う。
「綺麗」
「ミウ様、すごいです」
リリとルルはじめ、結界の中にいる者、外にいる者、異口同音に感動している。
神気結界内では美羽の神気を使った術は効力が大幅に上昇する。
美羽は一人一人の肩に触れていく。
それだけで、骨折をしている者、魔物に爪でざっくりと引き裂かれた者、腰痛を持っているもの、病気のものまで、等しく回復した。
リリとルルも少し痛かったところも、強張っていた体もほぐれて、リラックスできた。
「「気持ちいい〜」」
「みんな。もう治療は終わったけど、この中にいれば、気持ちいいから、しばらくいればいいよ」
結界内にとどまっていた患者たちは、身も心もリフレッシュして、帰っていった。
治癒では銀貨20枚を手に入れた。
「きんちゃん、今日は少し早いけど帰ろうか」
「はい」
「あの、美羽様」
「何、リリ?」
「そのお魚みたいな方はいったい」
「ああ、きんちゃん。私が作った魔法生物だよ」
「ええ! 美羽様は生き物を作れるのですね。やっぱり天使様です」
「美羽様、すごいです」
姉妹はすっかり美羽に魅了されている。
なんでも肯定してしまう。
とはいえ、神気浴びることによって神性を感じ、さらにさまざまな術を見せられると、神気に馴染みのない人間が感化されても仕方ない。
「じゃあ、リリ、ルル帰るね」
「ミウ様、次はいつ来るんですか?」
「うーん、明日は買い物に行くからね。明後日かな。でも、来れれば明日も来るよ」
「待ってますね、ミウ様」
「うん、じゃあねー」
「さようなら、ミウ様」
「ミウ様さようなら」
美羽が去った先を、リリとルルはボーッと見ていた。
「お姉ちゃん」
「何? ルル」
「私ね、ミウ様の役に立つことをしたい」
「ルルはなんでそう思ったの?」
「ミウ様は、本当に神様の使いだと思うの。それに、すごくかわいいの。もう、いつも一緒にいたいと思って」
「うん、私もよ。ミウ様に会えたことは運命だと思うのよ。会った瞬間ビビッときた気がしたの。
私はまだ何ができるかわからないけど、ミウ様のために尽くしたいのよ」
「お姉ちゃん、ミウ様のために頑張ろうね」
「うん、ミウ様のためにね」
「お父さんとお母さんに話さないとね」
「そうね、説得しないとね」
美羽の神性はまだ若い姉妹をとらえて離さなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それでね、歌を歌ったら、おじさんが帽子をくれたの。なんでだと思う?」
「えー、何かなぁ」
市場での治癒の仕事を終えた後、教会に来ていた。
帝都の中でも中堅どころの教会で、人の姿もそれなりに見る。
そこの神像の前で美羽は跪いて祈っていた。
まだ、レスフィーナの姿は見えないが、声だけは聞こえるので、会話をしている。
美羽自身は気にしていないが、先ほどから、美羽の周りには、桜色の光と桜の花びらが舞っていて、幻想的な光景になっていた。それを見た多くの人達が集まってきて、注意深く見守っている。
「おじさんがね、帽子をひっくり返して、そこにお金を入れたの。
そうしたら、」
「わかった、他の人もお金入れてくれたんでしょ」
「わー、フィーナちゃん! 言っちゃダメだよぉ〜」
「あはは、ごめんね。美羽ちゃん」
「もう。でもそうなの。みんなお金入れてくれてね、嬉しかったの」
「美羽ちゃんの歌かぁ。私も聴いてみたいなぁ」
「そっかぁ。聞かせてあげたいけど、お祈りの姿勢じゃあねぇ」
「あ、でもでも、教会で歌ってくれたら、私も簡単に聞くことができるよ。
どこにいても聞くこと自体はできるけど、地球で言うとテレビを見ているみたいなんだ。
ちょっと臨場感がなくなっちゃうの。
教会は一緒にいるみたいなんだよ。
だから、すぐそばで聴いている感じになる教会がいいな」
「そうなんだ。じゃあ、お話が終わったら歌えばいいのかな」
「うん、楽しみ」
「私の神気が強くなって、フィーナちゃんと会えたら、一緒に歌おうね」
「うん、そうだね。私も歌に自信があるんだー」
「わぁ。フィーナちゃんの歌。すごく楽しみだよ」
「早く、神気を強くしてね」
「もちろんだよ。……あれ? と言うことは、私はフィーナちゃんの声だけしか聞こえないけど、フィーナちゃんからは私が見えているってことだよね?」
「うん、教会にいるときはよく見えているんだよ。さっきも言ったようにそばにいるみたいなんだ」
「えー、フィーナちゃんばっかりずるい」
「えへへ、美羽ちゃんが見れるのは嬉しいよ」
「そっか〜、見えてるのかぁ。フィーナちゃん、ここだよぉ」
「うふふ、わかってるよぉ〜」
「えへへー。……じゃあ、今日はここまでかな」
「うん。歌、歌ってね」
「うん、わかった。じゃあね、フィーナちゃん」
「じゃあね、美羽ちゃん」
意識が浮上していく感覚がある。
すると、違和感を覚える。人の気配が多い気がするのだ。
美羽がそうっと目を開けると、多くの男女に囲まれていた。
「え? 何?」
「美羽様がお祈りしていたら、集まってきました。
おそらく、美羽様の神気に惹かれてきたようで、害意はないと思い、放っておきました」
きんちゃんが状況を説明する。
すると、上等の服を着た男が前に進み出た。
「失礼致します、お嬢様。私はこの教会の司祭をしています、マドリックと申します。以後お見知り置きを」
「え……っと、私は美羽っていうの」
「美羽様というのですね。名乗っていただきありがとうございます」
「うん。それで、大勢で一体なんの用なの? 怖いよ」
「これは、申し訳ありません。怖がらせる気など全くありませんでした。どうかご容赦ください。
……実は、おり言ってお聞きしたいことがありまして」
「聞きたいこと?」
美羽は不思議そうな顔をして、首を傾げる。
その美羽の姿が、可愛くて集まっている男女がほっこりとする。
司祭のマドリックも同じくほっこりしていたが、一度コホンと咳払いをして、話し始める。
「ミウ様は、もしや女神レスフィーナ様の元からいらしたのではないでしょうか?」
「うん、そうだよ。よく分かったね」
美羽はあっさりと答える。
それに対しマドリックは大きく目を見開き、続けた。
「おお、やはりそうでしたか。わかりますとも。
ミウ様が祈っている時に輝く神気はまさしく伝え聞く女神様の桜色でした。それに桜色の髪と瞳はまさに女神様そのもの。
それに、女神様の神像も桜色に輝いていました。これでは、疑う方が難しいでしょう」
「そうなのね」
「美羽様は、御使い様ということでしょうか?」
「そうだよ」
それを聞いた途端、この場の全員が跪いた。
「うわっ、びっくりした」
「御使い様、お目にかかれて光栄です」
「もう、面倒だから立ってよ。話したいんでしょ」
「……それでは、失礼致します」
マドリックは立ち上がるが、他の者は立ち上がらない。
美羽もそれ以上は何も言わなかった。
「恐れながら、御使い様。何かレスフィーナ様より、使命をいただいているのではないですかな?」
「ううん。私には特にないの。楽しく生きてね、って言われてるんだ。
あとは時々お祈りしてだって」
「そうなのですね。楽しく生きることが使命とも言えるわけですな」
「あはは、そうかもね」
美羽は、開いた手を口に当てて笑う。
その愛らしさに皆が魅了された。
見惚れていたマドリックは聞きたいことはまだ聞けていないために、気を取りなおす。
「御使い様、どちらに滞在されているのですか?」
「今はルッツ家にいるよ」
「ルッツ……モーガン・ルッツ伯爵ですかな?」
「そうだよ」
「それは、ルッツ家が後ろ盾についたなどと言ったことですかな?」
「うーん、頼んだことはないよ。帝都に一緒に来ないかって言われて、私も帝都に来たかったから着いてきたの」
「そうですか。
ところで、このマーヴィカン帝国のレスフィーナ教をまとめる大司教様が帝都にいるのですが、よかったらお会いになりませんか?」
「うーん、会いたくないかな」
「なぜか聞いてもよろしいですかな?」
「面倒だから。ねえ、それよりもさっきフィーナちゃんと約束したんだけど」
「フィーナさんとは……め、女神レスフィーナ様ですか?」
「そうだよ。歌を歌う約束してるの。ここで歌ってもいい?」
「ま、まさか、女神様が見ておられるのですか?」
「うん。教会だったら、すぐそばで見ている感じになるんだって。さっきから見ているみたいだよ」
「な、なんと」
マドリックは再び跪いた。
元々跪いていた男女はさらに小さくなり、床に着いてしまいそうだ。
「そんなにしないでも大丈夫だと思うよ。フィーナちゃんは優しいから」
「いえ、そういうわけにはまいりません」
「じゃあ、いいや。フィーナちゃんに歌を歌ってあげるからね」
「わ、我々も拝聴してよろしいのでしょうか?」
「いいよ。じゃあ、始めるね」
美羽はバラードを歌い始めた。
すると、桜の淡い光が漏れ始めて、桜の花びらが舞い始めた。
幻想的でしかも心の琴線に触れるような歌声だった。
その天上とも言える歌声に皆酔いしれた。
美羽が数曲を歌い終わる頃には、涙していないものはいなかった。
マドリックも感動を口にする。
「これほどの感動を未だかつて味わったことがありません。
御使い様の声には神聖な力があります。
そして、歌の最中、女神様をより近くに感じることができました。
今日は良い日です。
ありがとうございました」
美羽は褒められて、照れ臭くなり、はにかんだ。
「えへへ、みんな喜んだならよかったよ」
美羽はそういうと、その場で目を瞑った。
レスフィーナと交信する為だ。
「フィーナちゃん、どうだった?」
「すぅぅぅっごく良かったよ。美羽ちゃんに抱きつきたい気分だよぉ」
「えへへ。私も〜」
「早く一緒に歌おうね」
「うん! それじゃあ、またね」
「またね」
美羽は、目を開くとまだ跪いている人々がいた。
美羽は気にしないことにして、声をかける。
「マドリック、私はもういくね。また来るかもしれない。じゃあね」
言うが早いか、美羽はすでに走り出してしまった。
「あ、美羽様、お待ちください。……行ってしまわれたか」
しばらく、多くの者がそうしているように、美羽がさった後に舞っている桜の花びらをぼーっと眺めていた。
「おお、大司教様に報告しなければ」
我に帰って、司祭室に戻っていくのだった。




