第28話 バカにしてー
二人の男は、針を出して攻撃してきた上に喋り出した生物に驚愕した。
大男が搾り出すような声を出す。
「なんだお前は……」
「貴様などに名乗る気はない」
そういうと同時に、きんちゃんの周りに無数の剣や斧、拳大の石が浮かび上がってくる。
二人の男は青ざめてくる。
「な、なんだそれは」
「これか? 今からお前たちの体に風穴を開けるものだよ」
無慈悲にきんちゃんが答えると、そのうちの一本が大男の足元に飛んできて、地面に深々と刺さる。
「ヒィィィ」
悲鳴を上げながら、慌てて後ろを向いて逃げようとする。
しかし、振り向いた先にも剣がずらりと並んでいる。
「「うわあああ」」
すると、剣が一本ずつ男たちの喉元に突き立てられる。
「黙れ」
きんちゃんが言うと、二人は頭を上下に振る。
そこで、美羽が口を開く。
「大きなおじさん、その子を下ろしてよ」
「あ、ああ。分かった」
大男が少女を手放す。
「キャッ」
どさっと、少女は地面に落ちた。
「ちょっと、なんでそんなに乱暴にするの?」
美羽がそういうと、剣が大男の周りに集まってきた。
「す、すまねえ、そんな気はなかったんだ」
「ふう。本当にひどい。
ねえ、あなた、とりあえずこっちに行こ」
「え、ええ、分かったわ」
少女を離れた場所に連れて行く。
きんちゃんのおかげで震えはすでに収まっている。
それから、二人に振り返り、問い詰めた。
「おじさんたち、なんであの子を連れて行こうとしたの?」
「そんなことしてねえ! 道に迷っていたから助けてやっただけだ」
「きんちゃん」
痩せた男がそう言うと、美羽がきんちゃんに声をかけた。
それだけで、きんちゃんは美羽の意図を理解する。
無数の剣が二人の男の全身に5ミリだけ刺さる。
「「うぎゃあああ」」
「暴れると、余計に刺さるよ。黙りなよ」
「やめてくれ。ガキがなんてことするんだ」
そう言われると、美羽は顔を怒りに歪める。
「じゃあ、大人の男は何してもいいっていうの? 私は何もしていないのに気を失うまで首を絞められたことあるよ。
それは大人の男だからいいの? そんなの許せない」
美羽の怒りに呼応して、剣がさらに深く刺さる。
すでに1センチほど刺さっている。
「うぎゃああ。話す。話すから、許してくれ」
「そのまま話しなよ」
「お、俺たちは人身売買の組織の人間だ。今回は身なりのいい貴族のガキだったから高く売れると思って攫った」
「売ってるのは子供だけ?」
「若い女も売れるから誘拐することもあるが、捕まえるのが大変だから、ガキが多い」
「他に仲間は何人いるの?」
「10人だ」
「どこにいるの?」
「スラムの一軒家にいる」
「どのくらいの人が捕まっているの?」
「今はガキが5人 若い女が1人だ」
そこまで聞くと、足音が聞こえてくる。
「ミウ様ー」
見ると、モーガンと護衛の兵士が走ってきた。
全身に剣が刺さっている二人の男を見て驚いた顔をする。
「ミウ様、この者たちは?」
「人攫いよ。私はあの子の回復をするから、そのおじさんたちを捕まえて」
「はい、承知しました」
「きんちゃん、おじさんたちが逃げないように、うまく兵士さんに引き渡してね」
「はい、美羽様」
美羽は少女に近寄る。
少女は疲れた顔で、こちらを見るが目が合うとニコリとする。
「助けてくれてありがとう」
「うん、どういたしまして。痛いところあるでしょ」
「うん、殴られた頭と落とされた時にぶつけた膝と肘が痛いかな」
見ると、膝は血が滲んでいた。
「かわいそうに。あいつらひどいことするよね。すぐに治すね」
「え? 治癒魔法でも使えるの?」
「うん、そう言うのができるよ」
そう言うと、ミウは治癒をした。
少女の体が桜色に光、傷がみるみるうちに治っていった。
「ああ、すごく気持ちいい」
「どう、他に痛いところある?」
「もうないわ。ありがとうね」
「どういたしまして」
「あなた、まだ小さいのにすごいのね」
「うん、得意なんだよ」
「そうなのね。あのお魚はあなたの使い魔?」
「あれは金魚ちょうちんのきんちゃん。魔法生物だよ」
「魔法生物なの? 初めて見たわ。すごく強いのね」
「うん、私、大人の男が怖いから、動けなくなっちゃうんだけど、きんちゃんが守ってくれるの」
「頼もしいわね。私にもいたら、こんなことにならなかったのに」
「そっか……あ、そうだ。ねえ、そのネックレスって大切なもの? いつも身につけているの?」
少女の胸に輝いている、三日月のペンダントを指差して言う。
「え、ええ、お母様に三日月が好きだって言ったら、下さったの」
「そうなの? ちょっと貸して」
「え、ええ。いいわよ」
少女からペンダントを受け取り、両手で包み込む。
すると、美羽から桜色の光が眩く光り、桜の花びらが舞い始めた。
「きれい……」
少女は美羽とその周りの幻想的な光景に見惚れていた。
しばらくすると、光が美羽の手に収束してペンダントだけが光った。
美羽は、ペンダントを少女の手に戻す。
三日月の真ん中にある宝石が淡く桜色に光っている。
「はい、返すね」
「何をしたの?」
「魔法生物は無理だけど、お守りにしてあげたの」
「お守り?」
「うん、その宝石が桜色に光ってる限り、暴力から守ってくれるよ。
あと、力を強くしてくれるから、悪い人をやっつけることもできるし、走って逃げることもできる。
それにね、そのネックレスをつければ、怪我も治っていくよ」
少女は呆気に取られている。
「そ、それが本当なら、国宝クラスの魔道具よ」
美羽は不満そうに頬を膨らまして言う。
「本当だよー。嘘なんかついてないよ」
「あ、ごめんなさい。疑っているわけじゃないけど、びっくりして」
「あ、そうだ、きんちゃん」
「はい、美羽様」
人身売買の二人を兵士に引き渡したきんちゃんが戻ってきた。
周りにはまだ剣が浮かんでいる。
「その剣をこの子に向けて撃ってくれる」
少女が青くなる。
「ちょ、ちょっと待って。その、きんちゃんの剣って、さっき地面に突き刺さるほど威力あったよね。」
「うん、それくらいないとわからないでしょ」
「え、だめ、怖いわ」
「大丈夫です。美羽様の神気結界は私の魔法よりも強度が強いですから。
そのペンダントもそれに近い力を発揮するはずです」
「え? 神気結界? 神気なの? いや、それどころじゃないわ」
少女が神気という言葉に反応して混乱している隙にきんちゃんが剣を射出した。
「きゃ〜〜〜」
少女が目を瞑って叫ぶ。
ガキーン!
耳障りな大きな音を立てた。
しかし、何も衝撃がなかったので、少女は目を開けてみる。
すると、折れた剣が足元に落ちていた。
美羽が満面の笑みで言う。
「ねっ。大丈夫だったでしょ」
少女はプルプルしている。
「やはり美羽様の神気結界は素晴らしいです。私には破れる気がしません。それだけ安心できますので、私としては嬉しいです」
まだ少女はプルプルしている。
「そうだね、きんちゃん。私もここまで上手くできるとは思わなかったよ。私、神気の使い方が上手くなってきたね」
「はい、とても上手になっております」
まだまだ少女はプルプルしている。
そんな少女に美羽が気がつく。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃないわよー! 死ぬかと思ったじゃなーい!」
少女は美羽の両肩を掴んで、ガクガクと揺さぶる。
「わ、わ、でも大丈夫だったでしょ」
すると、少女はさらに揺さぶってくる。
「大丈夫じゃないよ! 全然。もう、もう」
今度は美羽のことをポカポカと叩いてきた。
全然痛くないので、美羽は遊んでいると思って、楽しくなってきた。
「キャハハ、おもしろーい」
「キャハハじゃなーい! 全然おもしろくなーい」
「キャハハハハ。こっちだよ〜」
美羽は持ち前の脚力を使って、その場から走り去る。
「もう! バカにしてー」
少女は美羽を追いかける。
が、美羽には追いつけない。
「年下のくせに、なんでそんなに早いのよ〜」
「キャハハ、早くおいでー」
「待て〜」
いつの間にか路地裏で追いかけっこをしていた二人。
美羽は満面の笑みだったが、いつの間にか少女も笑っていた。
きんちゃんはそんな二人を見守って、ポツリとつぶやいた。
「いい友達になれそう。良かったですね、美羽様」




