第22話 きちんと断るんだよ
スウリはきんちゃんから敵がいないと聞くと、男性陣に洞窟の調査を指示し、女性陣だけで外に出た。
「美羽ちゃん、着替えは持ってる?」
「ううん、私持ってないの。買おうと思ってたんだけど、すぐにこっち来ちゃったから」
「そうなのね。じゃあ、私のでいいかな」
「あ、ううん。今洗っちゃうから大丈夫」
「え? 洗うの」
「うん、乾かせるよ。でも、体も洗いたいなぁ。……そうだ、みんなでお風呂入らない?」
「え? お風呂?」
「うん、じゃあきんちゃん、ここに外から見えないように壁を作れる?」
「はい、お安いご用です」
そう言うと、きんちゃんの体が銀色に光った。
すると、周囲の土が盛り上がって、土の壁ができた。
「念の為に神気結界を張って」
土壁の向こう側からドーム状の桜色の結界が現れた。
「きんちゃん、この辺にお風呂の穴を掘って、それを石で覆って」
「はい、美羽様」
普段浮いているきんちゃんが地面に降り立ち銀色に光る。
地面がゴゴゴと音を立てながら、ウニャウニャと土が動く。
それが止むと、大人10人ほどが入っても大丈夫そうな穴が掘られた。
その上、その表面が石に覆われていた。
「最後にお湯を入れてくれる?」
「はい、お任せください」
浴槽の底からまるで湧いているようにお湯が溢れ出した。
「す、すごい」
「こんなことするのにどれだけ魔力がいるんだろう」
「すごいわ、美羽ちゃん。とても気持ちよさそう」
魔法の嗜みのある、スウリとコニーは開いた口が塞がらない。
ユミィは魔法が使えないため、この凄さを分かっていなく、純粋に喜んでいる。
「便利だよね。魔法って。早く入ろう」
そう言って、美羽は服をさっさと脱いで、全裸になってしまった。
ユミィもすぐに服を脱いでしまう。
スウリとコニーは目の前の状況に呆然としている。
美羽とユミィは風呂に入っていく。
「うわぁ、気持ちいいー」
「いいねぇ」
じんわりと暖かさが体に染み渡っていく。
昨日の移動と野営、ゴブリン退治で溜まった疲れがほぐれるようだった。
「スウリちゃんとコニーちゃんは入らないの?」
首を傾げて、美羽が言う。
スウリとコニーはそれを聞いて、ようやく我に帰り、慌てて服を脱いで入ってきた。
「ああああ、気持ちいい」
「本当、最高だわ」
「美羽ちゃん、ありがとうね」
「「美羽ちゃんありがとう」」
「いいよ。私が……その……漏らしたから……入りたかったから」
「もう、美羽ちゃん、恥ずかしがらなくていいのよ」
そう言って、スウリが慰めてくる。
「ほんとに?」
上目遣いで、美羽が言う、その姿が風呂で上気した頬と相まってとても可愛い。
「もう、美羽ちゃん可愛い」
スウリが抱きしめてくる。
「きゃー」
美羽は抱きしめられるのが好きなので、ニコニコ嬉しそうにする。
ユミィとコニーがじっとそれを見ている。
「「私も〜」」
「ダメよ」
「スウリさん、ずるいです」
「私も美羽ちゃん抱っこしたい」
「だから、私が先だったんだからダメよ」
「「やっぱりずるいー」」
しばらく美羽の取り合いで大騒ぎしていたが、美羽は子供なので長く浸かっていることはできない。
「もう、出る〜」
「あ、ごめんね、美羽ちゃん」
「大丈夫。みんなはまだ入っててね」
美羽がフラフラして上がると、きんちゃんが服を洗って、乾かしてくれていた。
「美羽様、服の準備はできております」
「きんちゃん、ありがとう」
服を着たら、きんちゃんが土魔法で作ってくれたデッキチェアのようなもので休む。
きんちゃんが胸鰭で器用にコップを掴んで、美羽に渡す。
「美羽様、お水をどうぞ」
「ありがとうきんちゃん」
お風呂に浸かりながら見ていたユミィが言う。
「きんちゃん、執事さんみたいだね」
「うん、気になっていたんだけど、きんちゃんって何者なのかな。戦闘力も高いし」
「ああ、美羽ちゃんが作った魔法生物なんだよ」
「「ええ」」
「まあ、驚くのもわかるよ。魔法生物なんて、文献でしかないし、文献でもあんなになんでもこなせる魔法生物はないようだしね」
「それに、あんなに自我があるなんて信じられない」
コニーが不思議に思っているが、この世界の魔法生物は古代には存在したのだが、戦闘特化型だった。
そして、基本的に指示されたことだけをこなすのみで、自分から主人に尽くすと言うことはなかった。
それは、魔力だけで作られた魔法生物だからで、きんちゃんは神気をベースに作られているので、ほとんど魂と同じものが作られているからである。
美羽は知らないうちに生命を創造していたのだ。
全員が風呂を上がると、すでにきんちゃんは全員分の服を洗濯して乾かしていた。
ユミィが感激する。
「きんちゃんありがとう。すごく気持ちいい」
「こんなことお安いご用ですよ」
ここでも、不思議に思っていたのはスウリとコニーである。
スウリが質問する。
「どうやって洗濯して乾かしまでしたの?」
「水魔法で水を出して、水流を起こした中に服を入れました。
洗い終わった後は、温度を上げた風魔法で温風を出して、乾かしたのです。」
「き、器用ね。私もできたら便利なのに」
「慣れれば簡単だと思います」
そこで、コニーが言う。
「帰ったら、私にそのやり方を教えてくれないかしら」
「約束はできませんね。私は美羽様に仕えていますので、美羽様の行動を阻害するわけにはいきません」
「じゃあ、美羽ちゃんにお願いしようかしら。他にも色々教えて欲しいことがあるのよ」
コニーは美羽のところに行き、きんちゃんから魔法を教わる許可を求めた。
「無理かな。……私は帰ったら、ルッツ家の人と移動することになってるし、そうじゃなくてもやりたいことは色々あるからね。
きんちゃんは私の護衛だから、離れてもらったら困るの。ごめんね」
コニーはまさかここまでキッパリと断られるとは思っていなくて、驚いた。
それを見たスウリはコニーに言う。
「ははは、多少仲良くなったくらいで、魔法まで教えろって言うのは虫が良いだろう。自分の立場だったら、コニーだって嫌だろう?」
「はい、おっしゃる通りです」
コニーはがっくり肩を落とした。
続けて、スウリは美羽に言った。
「美羽ちゃんは小さいのに、よくきちんと断ることができたね。偉いよ。引き受けるより、断ることの方が難しい時もあるからね。特に、こうやって仲が良くなった時なんかは。
君はこれから、いろいろな人にお願いされるだろうけど、今みたいにできないことや、やりたくないことはきちんと断るんだよ」
「うん! スウリちゃん、ありがとう」
にっこりと笑顔でスウリにお礼を言う美羽。
その笑顔でだらしない顔になりながらスウリは一言付け足した。
「うふふ、断っても君の可愛さは全く損なわれないからね」
「私……、断っても可愛いの?」
「うん、すごく可愛いよ」
美羽がパァッと花が咲いたような笑顔になった。
「やったぁ。ありがとう」
(ふふふ、この笑顔がたまらないわぁ)
スウリは美羽にアドバイスした自分を褒めてあげたいと思った。
美羽はニコニコしながら、結界を解除する。
きんちゃんが土の壁を消すと、突然なくなった壁に男性冒険者たちが驚いた顔でこちらを見ていた。




