第21話 も……しちゃった
「ここまでか」
スウリが決死の覚悟を決めて、立ち向かおうとした時に声をかけられた。
「ねえ、スウリちゃん」
この緊迫した状況で、あまりにものんびりした声に毒気を抜かれてしまう。
「え? 美羽ちゃん、何? 今から奴らと決着を」
「私ときんちゃん、手伝おうか?」
「そ、そうだ。美羽ちゃんなら……できるの?」
「うん、大丈夫だよ。今、ちょうどいい」
「ちょうどいい? それなら頼めるかな」
「いいよ。神気結界」
美羽から桜色の光が溢れ出して、周囲一体を淡い桜色の光で包み込む。
桜の花びらが舞い始め、その花びらがスウリに触れた。
(ああ、気持ちいい。さっきまで緊迫した思いだったのに、冷静になれる)
先ほどまで苦しそうに呻き声をあげて、倒れていた前衛たちも、少し楽になったように見える。
反面、結界内にいるゴブリンソルジャーはじめゴブリンたちは苦しみ出した。
だんだん苦しみ方も激しくなってくる。
スウリが不思議に思って美羽に聞く。
「美羽ちゃん、これは一体どういうことなの?」
「うん、神気結界は敵を中に入れないけど、私が敵だと思っているものが中に入ったら、苦しみながら生命力を吸われて最後は死んじゃうんだよ」
「ああ、それでさっきちょうどいいって言ったんだね」
「うん、結界を張る範囲にゴブリンがいたからね。でもね、結界内の敵も生命力は吸われているけど、自由には動けるんだよ。だから気をつけないとね」
そう言った時にゴブリンソルジャー達が苦しみながらも一斉に美羽に向かって襲いかかってきた。
美羽が術者だと気づいたのだ。
「きんちゃん」
「はい、美羽様」
きんちゃんの周りにたくさんの氷の尖った棒が出てきて、一生掃射した。
グサグサグサ
「「「グギャアアアア」」」
氷の棒はゴブリンソルジャーたちに無数に刺さった。
ゴブリンソルジャーたちはよろよろとふらつくが、まだ美羽を狙っていた。
「美羽様に危害を加えようなんて不埒者ははじけなさい」
ボン!
きんちゃんがそういうと、氷の棒が弾け、ゴブリンソルジャーたちの体も弾け飛んだ。
「きんちゃん、ホブゴブリンもお願いね」
「はい、美羽様」
きんちゃんは返事をすると、結界内で苦しんでいるホブゴブリンに向けて、氷の刃を飛ばした。
氷の刃は正確にホブゴブリンの頭を切り裂きあるいは首を切り落とし、ホブゴブリンたちは力尽きた。
これで、結界内の敵は一掃した。
美羽は、倒れている前衛たちのところに行き、一人一人に治癒をした。
神気結界内で神気の術を使うと結界の強さによって、神気の術の力が増す。
今の美羽の結界の力だと、治癒の力はおおよそ2倍になる。
瀕死のものばかりだったが、ものの数秒から数十秒で回復した。
今は気を失っているが、目が覚める時には体の調子はかなり良いだろう。
残るはゴブリン20匹にゴブリンメイジ2匹ゴブリンジェネラル1匹が結界の外にいるだけだ。
「美羽ちゃん、ゴブリンジェネラルは強敵だ。一緒に協力して倒そう」
「うーん、大丈夫だよ。今結界がきちんとできているから危なくないし、あれぐらいの数はきんちゃんが簡単にやっつけてくれるから。スウリちゃんも危ないからここにいて」
そういうと、美羽は結界のはじまで歩いていく。
ゴブリン20匹が集まってくるが、結界に阻まれて手を出してこれない。
「きんちゃん、一気に片付けちゃおうよ」
「はい、わかりました美羽様」
きんちゃんがそういうと、きんちゃんの周りに無数の大剣や剣 斧 石が現れた。
街の襲撃の時にゴブリンから回収したものと今いたゴブリンソルジャーたちとホブゴブリンたちの武器だ。
「よーし、きんちゃんいくよー。ラッテ-ラーラッテーラー」
「ラッテ、ラッテ、ラッテーラー」
いつもの美羽の好きな掛け声に合わせて、武器や石が高速でゴブリンに殺到した。
「「「「「「「「「「「グギャアー」」」」」」」」」」」
ゴブリンたちが断末魔をあげて、四散していく。
ボシュ
そこに炎魔法が結界に当たった。
ゴブリンメイジたちが撃ったものだが、結界はそれぐらいではびくともしない。
きんちゃんはゴブリンたちに攻撃しながら、ゴブリンメイジたちにも剣を飛ばした。
ザクザク
「「ウゲェ」」
ゴブリンメイジが断末魔をあげる頃、ゴブリンも全て倒していた。
残るはゴブリンジェネラルのみになった。
「美羽様、このままゴブリンジェネラルも倒してしまっていいですか?」
「あ、私が倒そうかな。魔法の練習もしたいし。ここで待ってて」
「お気をつけください」
「うん、ありがとうね」
美羽は結界から出て行こうとするとスウリに止められる。
「美羽ちゃん、ゴブリンジェネラルはBクラス冒険者でも単独では危険と言われているんだ。
一緒に力を合わせよう」
「ちょっと試したいことがあるの。大丈夫だから待っててね。スウリちゃん」
「わ、分かったわ」
美羽がニコッとしていうと、あまりの可愛さに頷いてしまうスウリ。
美羽は振り返り、結界の外に躊躇せずに出ていった。
ゴブリンジェネラルと対峙する。
ゴブリンジェネラルは醜悪な顔を歪ませて笑う。
「グゲ、グゲ、グゲ」
「じゃあ、勝負だね。ゴブリンジェネラルさん」
そういうと、ゴブリンジェネラルが美羽に猛スピードで突進してきた。
「ひっ」
覚悟の足りていない美羽はあまりの迫力に悲鳴をあげて尻餅をついた。
ニヤリと笑ったゴブリンキングが剣を振り上げる。
慌てた美羽が先端が尖った氷の棒を放つがひょいと避けられてしまう。
「グギャグギャグギャ」
ゴブリンジェネラルは大声で笑いながら、もう一度剣を振り上げる。
美羽は恐怖のあまり、股間から温かいものが流れる。
それは、美羽の周りの地面に広がった。
それを見たゴブリンジェネラルは嗜虐的に喜んで、美羽の胸ぐらを掴み持ち上げる。
ゴブリンジェネラルは大きな口を開けて、美羽の顔を齧ろうとしてきた。
「いや……」
「美羽ちゃん!」
「美羽様!」
スウリときんちゃんが慌てて、こちらに向かってくる。
しかし、間に合わない。
ゴブリンジェネラルの牙が今まさに美羽の顔に触れそうな瞬間、美羽の口から言葉が漏れる。
「女神の手……」
その瞬間、桜色の大きな手が現れ、ゴブリンジェネラルの体が拘束され、美羽の体が解放されて、地面に落ちた。
美羽はガタガタと震えている。
「美羽様!」
「美羽ちゃん、大丈夫?」
しかし、美羽にはその言葉が届いていなかった。
「もう……、もう……、もう! 怖かったんだからーーーーー」
美羽の言葉と共に女神の手は岩の地面にゴブリンジェネラルを叩きつけた。
そのまま、壁にぶつけ、また地面にぶつけ、次は天井にぶつける。何度も何度も……。
ゴブリンジェネラルは瀕死でぐったりしている。
最後に、女神の手の指がゴブリンジェネラルの首を切り落とした。
そして、体を投げ捨てた。
美羽は無言で俯いている。
スウリときんちゃんが心配して声をかける。
「大丈夫? 美羽ちゃん」
「大丈夫ですか? 美羽様」
まだ、美羽は俯いていたが、ポツリと一言言う。
「……しちゃった」
「え? 何しちゃったの」
「も……しちゃった」
「何?」
美羽が顔をあげる。
その顔は涙にまみれ、そして泣きながら言った。
「もらしちゃったのー」
「え、え、そうなのね。だ、大丈夫よ。美羽ちゃん」
「そうです。美羽様の可愛さはそんなことでは損なわれませんよ」
「ふえーーーん」
そのような慰めは、漏らした本人には通じない。
美羽は余計に泣いてしまった。
この後、コニーとユミィも来て、一緒に慰めたが、なかなか泣き止まない。
途中、男性冒険者が近づいてきて、
「おう、どうしたんだ。美羽ちゃんが泣いてんのか? 俺に任せろ」
などと言うので、女性陣ときんちゃんが氷点下の目で、
「寄るな、役立たず」
「デリカシーのない男は死ね」
「美羽ちゃんを見るな。目をつぶすぞ」
「ここで死んでもゴブリン戦で死んだってことでいいですよね」
女性陣プラスきんちゃんにけちょんけちょんに言われる。
男性冒険者はタコ殴りにされた上で殺されそうだったので、すごすごと退散した。
3人は漏らしてしまっていることも気にせずに美羽を抱きしめた。
「グスッ、私、汚いよ」
「美羽ちゃんは汚くなんかないよ」
「そうだよ。みんなのために頑張ってくれてありがとうね」
「それに美羽ちゃんはとっても可愛いよ」
「グスッ、ほんとうに?」
「「「本当よ」」」
「ありがと……」
美羽は涙を顔に貼り付けながら、笑顔でお礼を言った。
(((やっぱり、美羽ちゃん可愛い)))
思わずスウリが頬にキスをする。
「あ、ずるい私も」
「私も」
そう言って、ユミィとコニーも頬にキスをした。
「えへへ、くすぐったいよぉ」
嬉しそうにしている美羽を見て、きんちゃんはほっとしていた。




