第14話 お風呂
「御使い様は今後はどういう予定なんでしょうか?」
ジョディがかしこまって言う。
それに美羽が不満顔で答える。
「美羽でいいよ。御使い様って私の名前じゃない」
「それでは美羽様と」
「ジョディちゃんには様って言われたくない。後、喋り方もさっきと同じにして」
「それじゃあ、美羽ちゃん。これでいいかしら」
「うん!」
美羽がそれを聞くと嬉しそうに笑った。
その笑顔があまりにも無邪気だったので、みんながほっこりした。
「おねえさま、かわいいですわ」
レーチェルが勢いよく抱きついてくる。
「きゃあ。もう、レーチェルってば」
美羽がレーチェルの顔を撫でまくる。
レーチェルの頭がぐしゃぐしゃになり、キャッキャッと2人で騒ぐ。
散々じゃれあって、我に帰った美羽がジョディに言う。
「ごめんねジョディちゃん。話してたんだった」
「いいのよ。レーチェルと仲良くしてくれてありがとうね」
「うん! レーチェルと仲良くなったんだ」
「うふふ。……それで、この後はどうするの?」
「うーん、決まってないの」
「何か御使い様としてのお仕事でもあるのかしら」
「普通の御使いはあるらしいけど、私の場合は楽しんでって言われてるだけ。あ、でも、たまにフィーナちゃんに祈ってほしいってだけは言われてる」
「直接言われている使命とかはないのね」
「うん、あとは早く神気を強くして神界に遊びにいけばいいみたい」
「え、神界に行けるの?」
「うん、今はまだ神気が強くないから、神界に行くと体が持たないんだって。
私もフィーナちゃんに早く会いたいから、できるだけ早く神気を強くしないと」
美羽はそう言いながら、自分の手のひらを見て、桜色の神気を少し出す。
ジョディはそれを眺めながら続ける。
「どうすればその神気は強くなるの?」
「神気をたくさん使えばいいみたい。だから、たくさんの人を安く治癒するんだ」
「そうなのね。それなら、人が多いところがいいわね。
やっぱり、うちの領都にくればいいわよ。そうすれば治癒が必要な人もたくさんいるわ。
治す人が少なくなってきたら、帝都に行くのも手ね」
「帝都は人がいっぱいいるの?」
「すごいわよ。人だらけね」
「どのくらい?」
「そうね、大きな道が人で歩けなくなるくらいよ」
そう聞くと、美羽が驚いた顔をする。
「東京みたいだなぁ。そっか、じゃあ、まずは領都に行ってみようかな」
「それじゃあ、一緒にいきましょうね。領都には、美味しいスイーツのお店もあるわよ」
そう聞くと、美羽は目を見開いた。
「きゃー、いきたーい」
すると、すかさずレーチェルは美羽の腕に抱きついてきた。
「わたしも、おねえさまといきたいですわ」
「じゃあ、一緒に行こうね。レーチェル」
「はい!」
レーチェルと顔を見合わせて笑顔になる美羽。
それを見てジョディは微笑んだ。
(ふふ、御使い様と言っても、まだまだ子供なのね)
「決まりね。あなた、いつ頃ここを出れるかしら?」
すっかり影が薄くなってしまったモーガンによると、元々はこの街にはもっとたくさんの兵士がいたらしい。
それはすぐ近くにある、漆黒の森には魔物が多いから備えられてのことだった。
しかし、ここ最近さらに増えていると言う報告を受けて、領主一家は視察に来ていた。
ちょうど、3日前から、兵士団が森に魔物を間引きに行っているところをゴブリンに襲われたということだった。
だから、兵士団が戻るまで、この街を離れることができないとのこと。
遅くとも明後日までには戻ってくるらしい。
「それでは3日後に出発にしましょう。それでいいかしら美羽ちゃん」
「いいよ」
美羽はそれほど興味なさげに答えた。
レーチェルのほっぺをツンツンするのに夢中だ。
「いいわね、あなた」
「ああ、それでいい」
本来舵取りをするはずのモーガンはついでに聞かれるだけになってしまった。
これ以降、ルッツ伯爵家では、モーガンの発言力は弱まり、ジョディとレーチェルの発言力が強まっていくことになる。
モーガンの自業自得ではあるが、使用人たちは哀れな目で見るのだった。
執事が来て、ジョディに耳打ちした。
執事も誰を立てるべきか心得ている。
モーガンは苦笑いを浮かべる。
「それじゃあ、ディナーに行きましょう。美羽ちゃん、好き嫌いはないかしら」
「ないよ。あ、苦いのはだめ」
「苦いのはないわよね」
ジョディが執事を見ると、執事はすぐに答えた。
「ないはずですが、念のため確認しておきます」
その後、食べたディナーは欠食児童だった美羽にはとても美味しかった。
美羽の食べる勢いは凄まじく、細い体のどこに入るのかと、感心してみられた。
その後、ジョディとレーチェルとともに風呂に入った美羽。
2週間放置されていたからガリガリである。
神界ではお腹は空かなかったが、太るための栄養もなかったので、餓死寸前だった状態のままだ。
顔だけは、かわいそうだと、フィーナが神気でふっくらとさせていたのだった。
あまりもの姿にジョディが驚いていた。
「なんてことなの」
「ご飯ずっとなかったから。もうすぐで、死んでいたところをフィーナちゃんが助けてくれたから、その時のままみたい」
ジョディが涙を流しながら、美羽を抱きしめる。
「ご飯いっぱい食べようね。いっぱいわがまま言ってね」
「うん、ありがとね。ジョディちゃん」
「おねえさま、わたしのぶんもたべてください」
「レーチェル、それはダメ。ちゃんと食べないと。レーチェルは小さいんだから」
「わかりましたわ。それじゃあ、たくさんよういしてもらいましょう」
「うん。それはお願い」
美羽とレーチェルが顔を見合わせて笑う。
久しぶりのお風呂は気持ちよかった。
体の芯から、じんわりと疲れがお湯に溶けていくようだった。
美羽とレーチェルはジョディに左右に抱えられた。
「ここの邸にお風呂があってよかったわ。美羽ちゃんが入れるんだから」
「え、ないウチもあるの?」
「ええ、あるわよ。と言うか、ほとんどのうちがないわね。体を拭くだけよ」
「そうなんだー」
「りょうとのおやしきにもおおきなおふろがありますわ」
「わぁ、それは楽しみ」
「またいっしょにはいりましょうね。おねえさま」
「うん、いいよ」
お風呂を上がると、部屋を用意されたが、レーチェルがおねえさまといっしょがいいと甘えてきたので、美羽とレーチェルはいっしょに寝ることになった。
美奈と寝ているみたいで、美羽は嬉しかった。
(美奈ちゃんが死んでどのくらい経ったんだろう。神界にいたからわからないんだよね。
あ、フィーナちゃんにお祈りしてないな。お祈りするのに何か欲しいな。仏像みたいな。今度作ろうかな。神気で作れるよね。……ママに会いたいな。でもジョディちゃん、ちょっとママみたいだった。
モーガンは……やっぱり大人の男は嫌いだし、怖い。貴族だから余計になのかな。
そうだ……明日の朝起きたら……歩きながら……張れる結界の練習し……よ)
美羽は取り止めもないことを考えているうちに寝てしまった。
寝ている美羽の体が淡く桜色に光り、美羽とレーチェルを包んでいた。




