第13話 御使い
「それで、ミウちゃんはお父様とお母様はどうしたのかしら」
モーガンが喋ると、美羽が警戒して喋らなくなるので、ジョディが代わって美羽に質問をすることになった。
ジョディに聞かれると、美羽もスルスルと答える。
「ママは……死んじゃった。パパはわからない」
ジョディは、まずいことを聞いてしまったと、顔を顰める。
「ごめんなさい。そうとは知らずに。辛かったわね」
「うん、気にしないでね」
「他に兄弟はいないの?」
「美奈ちゃんって言う妹がいたんだけど、ママが死んだ後、パパにうちから出るなって命令されて、うちから出られなかったの。ずっとずっと。最初はウチにあったママが残してくれたご飯を食べてたんだけど、それも無くなって、それでもパパは帰ってこなくて、美奈ちゃん死んじゃったの。私はもうすぐ死ぬ時に、フィーナちゃんが連れ出してくれたから助かったの」
「なんてことなの」
「美奈ちゃんはまだ3歳だったのに……。お腹空かせて可哀想だったの。何か食べさせてあげたかった」
美羽がまた思い出してボロボロと泣き出した。
ジョディが美羽の隣までくると、そっと抱きしめた。
「悲しかったわね。ミナちゃんを助けたかったのね」
「……うん、美奈ちゃんを守るって決めていたのに守れなかったの」
「よく頑張ったわ。えらいわ」
「うん」
「かわいそうなおねえさま」
レーチェルも美羽に抱きついてきた。
しばらくジョディが美羽のことを抱いていると、美羽が落ち着いてきたようなので放した。
「それで、フィーナちゃん? のところに行った後、どうしたの?」
「どのくらいかわからないけど、しばらくフィーナちゃんのところにいて、色々教わったの。
それから、街に送ってくれたんだけど、それがこの街で、ゴブリンに襲われてたの」
「そうなのね、フィーナちゃんはどこにいるの?」
「自分のうちにいると思うけど」
「? フィーナちゃんってこの街のそばに住んでいるの?」
「ん〜ん、フィーナちゃんは多分すごく遠い」
「もしかして、魔法か何かで来たのかしら?」
「うん、そう言う感じのものだと思う」
「転移の魔法なんて……フィーナちゃんって何者なのかしら? 大魔導師?」
「フィーナちゃんは大魔導師じゃなくて、神様だよ。女神様」
その場の空気が固まる。
モーガンは口をパクパクさせている。
ジョディも驚きのあまりポカンとしてしまっている。
レーチェルはどう言うことかあまりわかっていないようで、美羽を見つめている。
全員が顔を見合わせている。
モーガンが喋ろうとしたが、自分の今の状況を考えて、ジョディに聞くように目配せした。
ジョディが恐る恐る聞く。
「も、もしかして……フィーナちゃんって、女神レスフィーナ様のことかしら」
「あ、そうだよ。フィーナって呼んでって言うから、フィーナちゃんって呼んでるの。
フィーナちゃんは私のこと美羽ちゃんって呼んでくれるんだよ」
先ほど美羽を怒らせた、モーガンは青ざめた顔で脂汗を流している。
ジョディが掠れた声で、さらに聞く。
「もしかして、美羽ちゃん、あなたは、いえ、貴方様は女神レスフィーナ様の御使い様でいらっしゃいますか?」
「そうだよ、この髪と目の色は御使いの証明になるって、フィーナちゃんが変えてくれたんだよ」
「では、結界や治癒は魔法ではなく」
「うん、神気だよ。ほら」
美羽は目を閉じ、深く息を吸った。
すると、桜色の神気が彼女の体を包み込み、まるで空気が静かに震えるような感覚が広がった。
神気はやさしく、暖かく、しかしどこか冷徹な力を感じさせる。
まるで天から降り注ぐ光のように、その場を包み込む。
それは神々しくて、もはや疑う余地はない。
すると、モーガンはじめメイドに至るまで床に跪いた。カフィとレーチェルもそれに倣った。
美羽は驚いて目を瞠いている。
モーガンに変わり、ジョディが口を開いた。
「女神レスフィーナ様の御使い美羽様。知らなかったとはいえ、数々のご無礼、お許しください」
「え? 別にいいよ。失礼なことなんてしてないでしょ。あ、モーガンはしたか」
モーガンは青を通り越して、白い顔で叫ぶ。
「口をひらく無礼をお許しください。 美羽様、先ほどの無礼は重々承知で申し上げます!
私の命など差し上げますので、どうか家族と使用人たちとこの領に神罰を落とすのだけはお許しください」
伝承では、女神レスフィーナの怒りを買って、国が滅んだと言う記述がある。
モーガンはそれを知っていたので、自らの軽率さを呪った。
「え、命なんてもらえないでしょ。それより喋りにくいから、座ってよ」
それでも、みんなカタカタ震えている。レーチェルだけが不思議そうにしていた。
「もう、こんな小さな子に何をさせてるの。レーチェル、こっちにおいで」
「はい、おねえさま」
レーチェルはニコニコして美羽の隣に座る。
そして、ハタと顔を曇らせる。
「おねえさま、みつかいさまとおよびしたほうがいいでしょうか?」
「え、別に今まで通りでいいよ。美羽でもお姉様でも」
「それじゃあ、おねえさまっておよびしますね」
そう言って、レーチェルが抱きついてきた。
それをニコニコと受け入れていたが、跪いている面々を見て、ため息を吐いた。
「はぁ、やりにくいよ。でも、緊張状態?っていうやつなのかなぁ。それならこれでどうかな」
美羽は部屋全体に神気結界を張った。
部屋が淡い桜色に染まる。
「それから、こうしてみる」
美羽が手を広げると、桜色の花びらが空中に舞い散り、まるで時間が緩やかに流れていくような感覚に包まれる。
花びらは、ただ美しいだけではなく、触れると心の奥に温かな安堵をもたらすように感じる。
そのひとひらひとひらが、目に見えぬ疲れや痛みを静かに溶かしていき心が落ち着く。
神気を使うと溢れた神気が光になって現れる。それを桜の花びらの形に半物質化したのだ。
レーチェルが感嘆する。
「うわあ、きれいですわ。おねえさま」
「うん! すごくきれいだね。これからはいつもこれをやるよ」
「おねえさま、このはなびらきもちいいですわ」
「ねー。私も気持ちいいよ」
ジョディはその美しい桜色の神気に包まれると、心の中で抱えていた重荷が少しずつ軽くなるのを感じた。
まるで心の中に隠していた暗い雲が晴れ渡っていくようだった。
モーガンも、最初はその神気に圧倒されていたが、今では穏やかな安心感に包まれ、自然と呼吸が深くなった。」
それはここにいる者みんな感じていた。
「……みんな、気持ちは落ち着いたでしょ。いい加減立ち上がってよ」
そういうと、跪いていた者たちは立ち上がる。晴々とした顔をしていた。
ジョディが言う。
「これが御使い様の奇跡なのね。とても気持ちいいわ」
「ああ、先ほどまでの気分が嘘のようだ」
モーガンとジョディとカフィはソファーに座り、メイドや執事はそれぞれの仕事に戻った。
「レーチェル、手で触れるようにしてあるから、何枚取れるか競走しようか」
「わかりましたわ。おねえさま」
美羽とレーチェルはキャーキャーはしゃぎながら、花びらを集め回った。
ニコニコ笑顔で走り回る美羽を見て、レーチェルは思った。
(みつかいさまとかそんなのかんけいありませんわ。おねえさまはおねえさまというだけで、すてきですわ)
大人たちとカフィは幼女達が走り回る幻想的な光景を恍惚とした気持ちで眺めていた。




