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女神様の使い、5歳からやってます  作者: めのめむし
第5章 崩れた日常

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第126話 勇者登場

 クララの前に、帯電したような黒い光の玉が出てきて、一瞬で膨張し、クララを飲み込んだ。


 そして、その光は今までの『虚食』同様、収縮して消え去り、その場にはクララの姿は残っていないと、誰もが思った。


 パァァァァァァン……。

 

 が、黒い光は収縮せずに弾け飛んだ。

 

 その後には、胸に手をやり何が起こったのかわからない、と言った感じのクララが無事な姿を現した。


「なっ! 馬鹿な!」

 

 極淵魔将アゼルファードが驚愕の声を上げる。

今まで表情を一切崩さなかった、魔王も驚きの顔をしていた。

 

「「クララ!」」


 ウォーレンとイザベルは安堵の声を上げる。


「お父様、お母様、私……」


 クララはそう言いながら、胸元で桜色に光る三日月型のペンダントに気がつく。


(ああ、ミウちゃんが助けてくれたのね)


 この三日月型のペンダントは、イザベルにもらったものだが、クララが初めて美羽に出会った時に、美羽が神気を入れ神具にしてくれたものだった。

美羽の話によれば、結界の効果と身体強化の効果と治癒の効果がついているらしい。


 もらった時は国宝ものだと驚いたものだった。


 魔王が、不審な顔をしながら指示を出す。


「ヴォルグ」


 炎斬魔将ヴォルグはそれだけで意図を察し、クララに一瞬で近寄り、抜き打ちで刀の斬撃を繰り出す。


 ガキィィィィィン。


 ヴォルグの刀はクララの体ギリギリのところで結界に弾かれた。


「ぬぅ」


 自らの刃が通らないことにヴォルグは悔しそうな声を上げる。


(あれ、ミウちゃんにもらった時、きんちゃんに試しに攻撃された時は、もっと離れたところで弾いていたと思うんだけど、なんで体ギリギリなんだろう。神気が弱くなってるのかな?)


 魔王がクララの胸元で光るペンダントに気がついた。


 『漆黒の手』


 魔王の右手から黒いモヤのような腕が伸び、クララの全身を掴むように取り囲んだ。そして、握り込む。


 パァァァァァァァァン……。


 漆黒の手は弾け飛んだ。

魔王は再び驚きをあらわにしながら、クララに問う。

 

「まさか、我が漆黒の手さえ防ぐとはな。娘よ。その胸で桜色に光るペンダントが結界を作っているのか?」

「……」


 クララは、魔王を睨む。


(きっと、ミウちゃんの名前を出さない方がいい)

「我の漆黒の手は大概の魔道具なら無効化する。もしや、それは神具か?」

「……」

(答えるもんか!)


 クララは魔王を睨んだままだ。


 魔王の側近が魔王に告げる。


「魔王様、あれが神具だとしたら、御使いの作ったものでしょう。

それは、御使いの作る結界がそれだけ強固ということの証左かと。

オーガの陽導に引っかかっている御使いが戻ってきたら厄介でございます」


 魔王は苦い顔になる。


「天使か。この結界は確かに厄介だな。天使が来たら目的が果たせなくなるやもしれぬ。その前に」


 魔王は、ミウの力の存在を実感してからの決断が早かった。


「聞け! 皇族よ。本来、1人ずつ殺してやるところであったが、全員まとめて仲良く殺してやろう」

「ちょっと待ったーーーーー!」


 魔王の言葉を遮るように、謁見の間に入ってきて叫ぶ者がいた。


 謁見の間の全員とスクリーン越しの帝都民全ての目がそちらに注目する。


 そこに立っていたのは、勇者工藤蓮だった。

紅蓮騎士団500人は自分が目立ちたいがために、別任務と称して置いてきたのだった。


「「「「「勇者工藤蓮殿!」」」」」


 謁見の間の貴族たちは、期待の気持ちを込めて叫んだ。


 対して、魔王は興味を持たずに玉座に座ったままだった。

蓮には完全に背中を向けている。


 蓮はそれが不服だったのか、大股で魔王の玉座を周り、正面に立つ。


 そして、魔王に語りかけた。


「へえ、君が魔王か。確かに迫力あるねぇ。でも、僕ほどじゃない」


 魔王は何も反応しないで、玉座に頬杖をついて目を瞑っている。

実は魔王はこの時、勇者蓮の力を魔力で測っていた。


 それには気が付かずに、蓮は続ける。


「僕にビビってダンマリかな?」


 そういうと、皇帝ウォーレンの方を見る。


「皇帝陛下。今からこの勇者工藤蓮が、魔王とその一党を討伐しましょう。その暁には褒美をもらいたいと思います」


 ウォーレンは怒鳴りたい気持ちをグッと堪え、冷静に聞き返す。


「褒美とは何かな? 勇者殿」

「公爵の地位と皇女のどなたかとの婚姻。いや婚姻は皇女全員でいいんですけどねぇ。とりあえず、1人を先に決めたいなと思って。他の子は後ほど。ねっ」


 そう言って蓮は、いまだ魔王の正面に立っていたクララに向けてウインクをした。


 クララは、魔王の前に立っているのだ。それどころではない。蓮のウインクには全く反応しなかった。

決まったと思った連が、無視をされて不服そうにしながらも、再びウォーレンを向き返事を催促する。


「陛下、それでいいですか?」

「……うむ。いいだろう」

(本当はこやつに公爵の地位も娘たちも預けたくはないが、こやつが本当に勇者の力を持っていて、この状況を打破できるなら、縋るしかあるまい。それに、この魔王のプレッシャーの中でこんなことを言えるのなら、あるいは期待できるやもしれぬ)


 蓮はその答えを聞いて、上機嫌になる。


「あははははは、いいねえ。公爵の地位も皇女たちも僕に相応しい」


 皇妃も皇女たちも複雑な顔で蓮を見ている。


 そんな視線に気が付かず、蓮は魔王に振り返る。

魔王はいまだに頬杖をつき、目を閉じている。

 

「それじゃあ、改めて名乗ろうか。僕の名前は勇者工藤蓮。魔王! 君を滅ぼす者だ」


 帝都では勇者の登場に安堵の空気が広がった。


「勇者様がやってきてくれた」

「勇者様がなんとかしてくれるかもしれない」

「勇者ならきっと魔王軍を追い払ってくれる」

「勇者様バンザーイ」

「クドウレン様バンザーイ」


 帝都民がスクリーンに映った勇者に期待を寄せた。

その様子に蓮はますます気を良くする。


(僕の登場は完璧なタイミングだったな。これで、魔王を倒せば……)


 そんな中、魔王が一言。


「5人」


 そう言うと、魔人が5人出てきて蓮の前に立った。


「なんだい? 君たちは。僕とやろうと言うのかい? 僕は魔王に用があるんだけどなぁ」


 すると、魔王の側近が話した。


「魔王様はお前の力を測った上で、5人の魔人を用意した。

この5人に勝てないようでは。魔王様と話すことさえ不敬だぞ」

「なっ! へ、へえ。随分と余裕なんだねぇ。僕の実力を測るなんてねえ」


 蓮が顔を引き攣らせながら言った。


 「でも、いいよ。まずはその5人の相手をしてあげるよ。

魔王に口を開かせてあげようじゃないか」


 蓮は5人の魔人に相対した瞬間に右手を出し叫んだ。


「メキロ!」


 炎の球が魔人の1人に襲いかかりその魔人を火だるまにした。

完全に不意打ちだった。

 

 魔人は転がりまわりながら、火を消そうとするが消えない。

蓮の炎魔法メキロの火力に魔人はあっという間に消し炭になってしまった。


「僕を舐めるんじゃない! 魔王! すぐにこいつらを倒して、その次はお前だ!」


 勇者工藤蓮が魔王を指差し叫ぶが、魔王は頬杖をつき目を瞑ったまま何も答えなかった。



 —————————— 同時刻の美羽 ———————————


 美羽とクロ、ミドリは散歩をしていた。

 

 すると、公園があった。

 

 夢の中の公園。夢の中だけにすごい遊具がたくさんある。


 超巨大な滑り台やこれまた超巨大なブランコなど巨大だったり、見慣れない不思議な遊具がたくさんある。


「サクラおねえちゃん。すごい楽しそうだよ」

「本当だね、ミドリちゃん」


 美羽よりも背の高い、年齢も上と思われるミドリが、目線を下げて屈託なく笑いかけてくる。


 ミドリと同じくらいの年齢と思われるクロは、そんな二人のやり取りを嬉しそうにニコニコ見ている。


「ミドリちゃん、あの滑り台をしようか」


 美羽に提案されて、クロとミドリは巨大な滑り台を見上げる。


 螺旋階段を大聖堂の鐘楼よりも高い位置くらいまで登っていくと、滑り口がある。

滑りはじめは10メートルのフリーホールから始まり、途中で一回転。360度捻り、10メートルの滑り台がない区間があって、落差5メートルの位置に再び滑り台がある。


 要するに危険だった。


「ね、ねえ、サクラちゃん。他のでもいいかなって思うのだけど」


 クロが言うと、ミドリも続く。


「そ、そうだよ、サクラお姉ちゃん。違うのにしようよ〜」

「え〜、あれがいいよ〜」

「サクラお姉ちゃん、ブランコにしよう。あのブランコすごく楽しそう。二人乗りしようよ」

「ミドリちゃんと二人乗り? いいね、やろうよ」


 それを聞いて、クロとミドリはほっと息を吐く。

しかし、思い出したようにミウがまた口を開く。

 

「あ、でも、クロお姉ちゃんが一人で寂しいから、ミドリちゃんとクロお姉ちゃんでブランコやってなよ。

私は滑り台に一人で行ってくるから」


 再び、クロとミドリが慌て出す。


「わ、私はいいのよ。サクラちゃんとミドリちゃんでブランコ乗ってよ」

「そうだよ、サクラお姉ちゃん。お姉ちゃんは立ってこいでよ。私は座るから。クロお姉ちゃんは後ろで押してね」

「わかったわ! 押すわよ〜。めちゃくちゃ押してあげるわよ〜」


 二人の勢いに押される形で、美羽はミドリとブランコをすることになった。

ブランコは崖に向けておいてあって、眺めがよさそうで楽しそうだ。


 ブランコは金属製のフレームでできた10メートルくらいの超巨大なものだった。

二本の棒が梁から垂れ下がって、ブランコの座板につながっている。

座板は大きめだった。


「あ、これ大きいから、クロお姉ちゃんも私と一緒に立って3人乗りしようよ」


 美羽の提案にクロは困惑顔だ。


「ええ〜、私は押すだけでいいわよ」

「みんなでやったら楽しいよ。だめ?」

「うう、分かったわ。私も乗るわ」


 美羽の押しに何故だか弱いクロだった。


 巨大なブランコだったため、重くて動きにくいかと思ったが、夢のせいなのか、不思議な金属でも使われているのか、普通のブランコのようにすんなりと動き出した。


 美羽とクロが勢いをつけていくと、ブランコはどんどんスイングしていく。


 地面から70度くらい上がったあたりまでいくと、遠くの景色がよく見え、飛んでいるように感じた。

見渡す限りの美しい草原で、遠くに鳥の群れが飛んでいる。


「きゃあああ」

「すごいすごい」

「まあすごい高さね」


 後ろに引かれるスピードも相当速くなって、一番下がった時、地面と水平になった。

そして、一瞬止まってすごい勢いで落ちながら前に進む。


 三人の楽しげな声は止まらない。


 前に行くと、今度は水平どころでなく、地面から160度くらいまで上がった。

これくらい上がると、ほとんど逆さまに感じる。


 3人はブランコにしがみつく。


「「「きゃーーー」」」


 今度は下に引っ張られ、反対まで勢いよく上がった。


 後ろから上に上がり、今度こそ180度に達したかと思った時、そこで勢いが止まり、前にスイングした。


「「「きゃーーー」」」


 ものすごいスピードで前にスイングするので、もはや景色などと言っていられなかった。


 頂点に達したかと思ったのも束の間、そのまま後ろ側に倒れ込んでいった。


 ブオン。


 勢いをつけて一回転をしてしまったのだ。


「「「きゃーーーー」」」


 3人は絶叫しかしていないが、もはや自動で勢いがついていく。


 前に周り、2回転目をする。


「きゃーーー。サクラお姉ちゃん、止めてーーーーー」

「きゃーーー。どうやってーーーーー。クロお姉ちゃんーーーーー」

「きゃーーー。わからないよーーーーー」


 都合5回転して、ブランコはやっと勢いを弱めて、止まった。



 3人はフラフラしながら、草の上に座り込む。


「ひえーーー、怖かったよーーー」


 ミドリが怖がっている様子を見て、美羽が思わず、


「ぷっ」

「ああ! サクラお姉ちゃんひどい」

「ぷぷぷ」

「ああ! クロお姉ちゃんまで……ぷぷ」


 しかし、ミドリもおかしくなって吹き出してしまった。


「「「あははははは」」」


 3人で心の底から楽しく笑ったのだった。


「怖かったけど、楽しかったね。サクラお姉ちゃん。クロお姉ちゃん」

「楽しかったね、ミドリちゃん」

「楽しかったわね、ミドリちゃん」

「うん!」


 ミドリはニコニコしていた。


(ミドリちゃんは年上なのに妹みたいに可愛いな〜)


 美羽は、ミドリの笑顔につられてニコニコした。

クロも同じでニコニコしていた。


『起きてください! 寝ている場合じゃないです』


 美羽の頭の中に誰かの声が響いた。


 きっと、もう起きることになるのだろう。


「二人とも、私は起きないといけないみたいなの」

「ええー、サクラお姉ちゃんいっちゃうのー。ここにいようよー」

「ほら、ミドリちゃん、サクラちゃんを困らせたらダメよ」

「はーーい」


 ミドリは不満そうに返事をするが、気を取り直して、美羽に確認する。


「サクラお姉ちゃん、また会えるよね」

「うん、きっと会えるよ」

「ええ、きっと会えるわよ」


 美羽の返事にクロも同意する。


「じゃあ、お姉ちゃんたち、また遊んでね」

「うん、ミドリちゃんもクロお姉ちゃんもまたね」

「またね、ミドリちゃんサクラちゃん」

「「「また会おうね」」」



 美羽は、目をぼんやり開ける。

すると、コリンが焦った様子で声をかけてきた。 

 

「御使い様! 外の様子が変なんです。ちょっと様子を見てきますから、起きてベッドをしまっておいてください」

「わかった〜」


 美羽は起きて、ノロノロと天蓋付きベッドを収納リングにしまった。


 すると、血相を変えてコリンが戻ってきて、言った。


「御使い様、お逃げください。オーガが迫ってきています!」

「オーガ? 来たの? 怖いなぁ」

「言ってる場合じゃありません。すぐ逃げないと危険です」


 ともすると、美羽の呑気な返しにコリンが焦れながら言う。


「じゃあ、とりあえず外に出よう」


 こうして美羽は、夢の余韻に浸る間もなく、ブラックオーガとの戦いに向かうのであった。

 

 

 

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