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女神様の使い、5歳からやってます  作者: めのめむし
第5章 崩れた日常

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第125話 皇族最初の犠牲者

 皇城の広大な謁見の間は皇帝、宰相、貴族、近衛騎士団、貴族、魔人、魔将、そして魔王と大勢がいると言うのに、静寂に包まれていた。


 魔王は玉座に頬杖をつき、目を瞑っている。

そして、魔将以下魔王軍は直立して動かない。


 人間側の近衛騎士たちは、緊張状態で槍の構えを崩すことなく警戒して、貴族は脂汗を滲ませ静かに汗を拭い、宰相は目を閉じじっと何かを考えている。


 皇帝は近衛騎士団長のクラークに「何があっても手を出すな」と合図を送った。

クラークは拒否をしようとするが、すかさず「勅命である」と合図を出されてしまい、頷くしかなかった。


(ぐぬぅ、帝国の危機に手をこまねいているしかないとは……)

 

 クラークにとっては、この状況下で近衛騎士団長でありながら、何も行動することができない歯痒さを感じる状態だった。


 スクリーンを見ている帝都民たちもまた、固唾を飲んで見守っている。


 その中で、魔物や魔人たちと戦う騎士や兵士たちの怒号が聞こえていた。


 

 しばらく経つと、極淵魔将アゼルファードによって、皇妃イザベルをはじめとした皇族が謁見の間に連れてこられた。


「おお、お前たち」

「あなた」

「「「「お父様」」」」

 

 皇帝ウォーレンは妻と子供達と抱き合い無事を確認した。


 その再会に水を刺すように、魔王が喋り出す。


「役者は揃ったと言うところだな。

皇帝よ。そして、帝都の民たちよ。お前たちがなぜ殺されるのか? それを知りたいだろう。

今から話してやろう。我の深い恨みをな」


 そして、魔王は語った。

自らの生い立ちと船乗りをしていたこと。疫病によって、セセララビに寄港したこと。

問答無用で全員捕えられたこと。

病の母が皇帝と大勢の騎士に下劣な顔で死ぬまで犯され続けたこと。

父がなぶり殺されたこと。

乗組員が全員首を切られたこと。

その首を一つ一つ広場に並べさせられたこと。


「そして、それを指示したのは全てオルゴス・マーヴィカン皇帝だ。

我は父と母の体のなくなった頭部に誓ったのだ。


 必ずや、皇帝の血筋を根絶やし、帝国を滅ぼしてやるとな。


 故に貴様らも帝都民も、今日この場で死ぬのだ」


 その場の人間も、スクリーンを見ている人間も言葉を失っていた。

オルゴス・マーヴィカンのやったことは人間の所業ではない。

そして、国を守るはずの騎士のしたことは鬼畜にも劣ると。

 

 多くの帝都民が帝国に失望した。

自分たちを守るはずの皇帝がこんな非道なことをしているとは。

そのせいで、自分たちは今殺されそうになっている。


 そして、失望はやがて帝国に対しての怒りに変わった。


『なんで、俺たちまで殺されなければならないんだ!』

『そうだ、死ぬのは皇族だけでいいはずだ!』

『魔王軍は皇帝たちだけを殺せばいいじゃないか!』

『騎士も同罪だ! 騎士も殺してしまえ!』


 帝都民たちのその様子はスクリーンに映し出され、それを見た他の帝都民たちも同調しボルテージが上がる。


「そ、そんなことを……」

「ひ、ひどいわ」

「皇帝陛下が……」

 

 クララや他の皇女たちは唖然としながら涙を流した。

正義は魔王軍にあると思ってしまったのだ。


 何代も前の皇帝のしたことだが、魔王は今も生きていて、実際にされたことの復讐を果たしにきただけなのだ。

そんなに酷いことを自分の先祖が犯してしまったことが、恥ずかしく悲しかった。


 騎士たちも苦い顔をしていた。

自分たちが描いていた理想の騎士像が壊されたのだ。


 帝都の騎士、全ての士気が下がり切ってしまった。


(むう、オルゴス・マーヴィカンか。余の4代前の、今では暴君と呼ばれている皇帝だ。

なんと言うことをしてくれたのだ。これでは、例え、この危機を乗り越えても人心は離れてしまうだろう。

しかし、それよりも厄介なのが魔王の復讐心。

完全に人間全体を恨んでいる。なんとか余の命だけで済ませる方法はないものか)


 皇帝ウォーレンは、表情こそ変えないが、内心では必死に魔王の納得いく打開策を考えていた。


 帝都民の怒りと糾弾の声はやがて帝都中に広がった。


『皇帝を殺せ!』

『皇族を殺せ!』

『騎士を殺せ!』

『俺たちは関係ない!』

『俺たちは許してくれ!』

『私たちは何もしてないわ!』


 魔王はその様子を玉座で頬杖をつきながら、スクリーンを通して黙って見ていたが、全てのスクリーンが魔王に切り替わる。

そして、ゆっくりと肘を玉座から離し、スクリーンを睨んだ。


『黙れ!』


 スクリーンを通してなお発動された魔言は、一瞬にして帝都民を黙らせた。

多くの帝都民が、体を震わせ顔を青くしながら、スクリーンを見つめる。


 魔王が、ゆっくりと、しかし力のある声で話し始めた。


「汝ら、まさか皇帝とその一族だけが悪いと思っているまいな?

だとしたら、勘違いも甚だしい。


 我と父母と仲間が受けた所業は人間の所業。

人間全体に責があるのだ。


 自分はそんなことしないと言いたいか?


 では、皇帝が変わったら、そのようなことがなくなると言いたいのか?


 魔族に対して友好になって、我のような思いをする者がいなくなると言うのか?


 答えは否だ。


 人間は、有史以来醜く争い続けている。

魔族も戦いはするが、同じ種族で戦争などしない。


 魔族のする力比べと違って相手を蹂躙し奪い尽くす戦争は無益だと知っているからだ。


 人間はどうだ? 戦争が起こらなくても、差別、裏切り、略奪、搾取、をするだろう?

 

 人間同士で奴隷がいるのがいい例だ。


 汝らは、我ら魔族が助けを求めたら、手を差し伸べるか?


 恐れ、迫害をするではないか。

そして、魔族に対抗するべく戦力を整える。


 力をつけた汝らは、魔族の国に攻め入り、蹂躙し、全てを奪っていくだろう。


 我ら魔族は、いつまで経っても安心することができぬ。


 故に、人間。汝ら全てが悪なのだ。

 汝らは滅びなければならない。


 帝都とともに『死ね』」


 魔王は最後の死ねの言葉に魔言を込めた。


 帝都の民たちは、再び心を折られて、膝をついた。


 実のところ、魔族も戦争も差別も裏切りも略奪も搾取もする。

だから、魔王の語っていることは真実でもなんでもない、帝都民を絶望に落とすためだけのただの詭弁だった。


 しかし、魔王軍の圧倒的な武力と魔王の魔言の力によって、それがあたかも真実のように帝都民や帝都騎士たちは感じてしまった。

 

 それは、謁見の間の騎士や貴族や皇族たちも同じだった。

故に、魔王の次の言葉に反論ができなかった。


「皇帝よ。汝には我と同じ苦しみを味合わせてやろう。今から、皇族を1人ずつ殺す。

自らの無力を嘆くが良い。安心するが良い。我は貴様ら下劣な人間と違って、辱めたりなどしない。ただ、殺すだけだ」


 そういうと、魔王は皇族たちを1人ずつ見ていく。

そして、1人に目が止まった。


「お前だ。前に出ろ」

 

 魔王が指名したのは、皇族の中で一番小さい少女……第三皇女クララだった。

 

「待って! 罪なら皇妃である私にあるわ。その子はまだ子供なのよ。罪はないわ。殺すなら私にしなさい」

「いや、余を殺すのだ、魔王よ。全ての責任は余にあるのだからな」

「お母様、お父様……」

 

 皇妃イザベルと皇帝ウォーレンが、クララの前に立って反論した。


 すると、魔王が声を上げて笑い始めた。


「フハハハハ。お前は皇妃なのだろう? 殺すとも、殺さなくてはな。だが皇帝と皇妃は自分の子供が殺されていく様を見て、苦しまなければならない。さあ、前に出ろ。でないと、皆が苦しんで死ぬことになるぞ」


 ただ殺すことを考えているだけの魔王にはなんの駆け引きも通用しなかった。


 それでも、ウォーレンとイザベルはクララの前に立ち続けた。


「では仕方ないな。他の皇族から、苦しませて殺すことにするか」


 魔王がそう言った。

このままでは皇族全員がただ殺されるだけでなく、苦しまされた挙句に殺されることになる。


 しかし、だからと言って、クララを見殺しにすることなどできない。


 ウォーレンとイザベルはその場を動かなかった。


 その様子を見たクララが口を開いた。


「お父様、お母様。私は大丈夫です。庇ってくれてありがとうございます。先に行きますね」


 そう、微笑んで、ウォーレンとイザベルの横をすり抜けて、クララが魔王の元に歩いて行こうとする。


「ダメよ、クララ。待ちなさい」


 イザベルがクララの腕を掴むと、クララは震えていた。


「お母様、今行かないとみんな苦しむことになっちゃうの。お願い、行かせて。決心が鈍っちゃうの」


 クララが、恐怖を必死で抑えた涙声を振り絞って言った。

 

 そんなクララを見て、イザベルが思わず手の力を抜いてしまうと、クララはその隙に歩き出してしまった。


「クララ、待って、お願い」

「待つんだ、クララ」

「お母様、お父様、今までありがとうございました」

 

 軽く振り返り、微笑んで告げると、前を向き魔王の前に行ってしまった。


 魔王に対峙したクララは小刻みに震えながらも堂々と立っていた。

 

 その姿を見た魔王は感心したような顔になり、


「汝、いまだ童という見た目の割には見上げた心意気。

その心意気に免じて、苦しまずに逝かせてやろう。アゼルファード」

「ハッ」


 アゼルファードが一歩前に出て、手をかざし、躊躇なく、


『虚食』


 その瞬間、クララの前に帯電したような黒い光の玉が出てきて、一瞬で膨張し、クララを飲み込んだ。


「「クララー!」」


 ウォーレンとイザベルの悲痛な叫びが虚しく謁見の間に響いた。




 —————————— 同時刻の美羽 ———————————


 黒髪の少女と美羽は手を繋いで一緒に草原を歩いていた。


「お姉ちゃん、楽しいね」

「そうね、一緒だと嬉しいわ」


 美羽は少女をお姉ちゃんと呼び、完全に懐いていた。


 「そうだ、あなたは私のことお姉ちゃんって呼んでいるけど、私はあなたのことをなんて呼べばいいかしら?」

 「? 何かな? 妹ちゃん?」

「うふふ、その呼び方ってあまりなさそうだけど、でもいいわね。妹ちゃんって呼ぶわ。よろしくね、妹ちゃん」

「うん!」

「……」

「……」


 少女も美羽も黙り込んでしまった。


「……どうしたの、お姉ちゃん」

「うん、多分妹ちゃんと同じことよ」

「妹ちゃんがなんかおかしい?」

「ええ、そうなのよ。なんかしっくりこないのよね」

「えへへ」

「どうして嬉しそうなの?」

「お姉ちゃんと同じこと考えてたから〜」

「うふふ、そうね」


 二人は、そんな会話をしながら、歩いて行くと、草原で大の字に寝ている少女を発見した。

この少女は綺麗な緑の髪だった。

 

 どことなく、黒髪少女に似ている。年齢の感じも黒髪少女と同じくらいだ。


「お姉ちゃん、この子と姉妹なの?」

「え? 初めて見たわよ」

「そうなんだ。でも、お姉ちゃんに似ている気がする」

「そうかしら、私は妹ちゃんに似ていると思ったのだけど」

「ええー、そうかなぁ。でも、ちょっと守ってあげたいかも」

「それは私も思うわ。あなたもだけどね、妹ちゃん」

「えへへ、嬉しいな〜」


 しばらく見ていると、緑髪の少女が瞼をゆっくり開いた。

眩しそうに目をすがめている。


 緑髪の少女がまだ寝ぼけている様子で、顔を二ヘラと緩める。

 

「おはよぉ」

「お、おはよう」

「おはよう!」


 緑髪の少女の挨拶に二人が合わせた。

少女は、むくりと起き上がり、美羽を見るなり抱きついてきた。


「お姉ちゃんー」

「きゃ! え、ちょっと、何? ……でもちょっと嬉しい」


 美羽は、腰のあたりに抱きつく少女の頭を撫でる。

 

「あれぇ、ちっちゃい。お姉ちゃんじゃないやぁ」


 少女は立ち上がると、やはり美羽よりもかなり背が高い。


「うふふ、これでお姉ちゃんって言われるのはなんかビミョー」

「あはは、本当だね。間違っちゃったー」


 美羽とその少女は笑い合ったが、黒髪の少女だけは難しい顔をしていた。


「妹ちゃんとこの子。なんか、偶然じゃない気がするのよねぇ」


 呟いている黒髪の少女に美羽と緑髪の少女はきょとんとする。


「どうしたの、お姉ちゃん?」

「ううん、なんでもないの。それより、あなたも夢を見てるの?」

「うん、そうだよ。寝たら、いつの間にかここにいたの」

「そうなのね。私たちも夢の中なのよ」

「わぁ、すごい。夢の中で会ってるの」

「そうみたいなのよ。あなた、お名前はわかる?」

「うん! 私は……あれ、なんだっけ?」

 

 緑髪の少女は元気に応えようとするが、答えに詰まる。


「もしかして、あなたも名前がわからないの?」

「うん。あなたも?」

「私たちもよ。だから、私はこの子にお姉ちゃんって呼ばれてるの」

「私は妹ちゃんだよ」

「ええ、いいな。あ、そうだ。ねえねえ、妹ちゃん。私のこともお姉ちゃんって呼んでよ」

「いいよ。お姉ちゃん」

「……」

「……」


 美羽と緑髪の少女は二人で難しい顔して考え込む。


「ねえ……私のことをお姉ちゃんって呼んでよ」


 美羽が、自分をお姉ちゃんと呼ぶように言うと、緑髪の少女はすぐに答える。

 

「うん、わかった。お姉ちゃん」

「「これだ!」」


 二人で、声を揃えて喜ぶ。


「お姉ちゃん」

「なあに、妹ちゃん」

「「えへへへへ」」


 そこに、黒髪少女が口を挟む。


「でも、困ったわね。この呼び方だと、お互い混乱するわ」

「それもそうだね」

「ねー」


 美羽の返事に緑髪の少女も合わせてくる。

みんなで悩んだところで黒髪少女が提案してくる。


「じゃあ、私がクロで妹ちゃんがサクラちゃん、あなたがミドリちゃんでいいんじゃないかしら」


 美羽が嬉しそうに返事する。


「さんせーい」

「せーい」


 黒髪少女もといクロは微笑ましそうにする。


「うふふ、身長も年齢も違って、ちぐはぐだけど本当の姉妹みたいね」


 そう言われて、美羽とミドリは顔を見合わせて嬉しそうに笑った。


「ほんとねー」

「ねー」


 美羽は夢の中だが、妹ができたみたいで嬉しかった。

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