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女神様の使い、5歳からやってます  作者: めのめむし
第5章 崩れた日常

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第123話 極淵魔将アゼルファード

 スクリーンに外門の内側の光景が映っている。

支えであった騎士団長のレオナードが負傷して戦線を離脱した今、明らかに騎士団は劣勢に立たされていた。


 躁獣魔将のミューラが場違いな可愛らしい声で叫ぶ。


 『みんな、魔人たちが開けた防御の穴から、街に侵入するよー』


 そう言って、ミューラは自ら乗っている魔物を操り、デスサークルが開けた防御の穴に突撃していった。


 当然ミューラの周囲を魔物が守っていて、騎士たちを蹴散らしながら進む。


 騎士団はミューラと魔物の進行を阻みたいが、そちらに気を割くと、デスサークルにやられてしまう。

ミューラと魔物たちは容易に市街地に侵入を果たしてしまった。


 街中を守っている騎士団員たちはなすすべもなく、ミューラと魔物たちに蹂躙されていく。

帝都民は逃げ惑ってパニックになっている。


 それを城の中庭でスクリーン越しに見ていた勇者工藤蓮はおかしそうに笑い出した。


「勇者様? 何がおかしいのですか?」


 紅蓮騎士団配属になったばかりで、副団長に任命された騎士が咎めるように言った。

しかし、蓮は笑いを堪えきれないとばかりに笑う。

副団長は不愉快な顔を隠さずにいるので、蓮が仕方なく説明した。


「ふぅ。何がおかしいかってね、これだけ魔王軍が暴れてくれれば、僕が登場して魔王軍を蹴散らせば、僕は名実共に救世主だよ。だって、こんなスクリーンで見れるんだからね。帝都民は僕を英雄扱いするだろうねぇ」

「しかし、あんなに強い魔王軍をどうやって」

「強い? 君、僕の強さ知らないよねぇ。知らないのに、僕が魔王軍ごときを倒せないような言い方をするのやめてほしいなぁ」

「勇者様は、あれを倒せるのですか?」

「もちろんだよ。あの程度の敵、勇者の力を持ってすれば、簡単に倒せるよ」

「おお! そうでしたか。失礼しました」

「そうだよ。過小評価は気分が悪いよ」

「それでは、躁獣魔将を倒しに打って出るのですな?」

「いいや、まだだよ」

「しかし、街に被害が……」

「街はどれだけ被害が出てもいいんだよ。それさえも僕を引き立たせる舞台装置なんだから」

「……一体、いつ出るおつもりなんですか?」

「そうだな。魔王軍は必ず城に攻めてくるでしょ。皇族もピンチに陥った時に、僕は登場することにするよ。

 うん、それが一番かっこいい」

「それでは、被害が大きくなりすぎます」

「だから言ったでしょ。被害も僕のための舞台装置なんだって。演出だよ。僕が最高に輝くためのね」


 副団長は、小さな声でつぶやいた。


「そんなことのために……」


 そこに、近衛騎士がやってきた。


「作戦本部よりの伝令! 勇者工藤蓮様ならびに紅蓮騎士団はすぐに出陣し、躁獣魔将ミューラとその魔物の討伐にあたれとのこと」


 蓮がそれに渋い顔をして答える。


「作戦本部に言ってくれる? 今は向かうことができないって」

「な!? それでは命令違反ですぞ。これは宰相閣下の采配なのです」

「命令? うーん、でもなぁ。僕勇者なんだよね。勇者は勇者の勘で動くのが一番だと思うんだよ。

その勘が言っているんだよ。今動くと、国を守れないってね。

宰相は勇者じゃないでしょ。君も勇者じゃない。だから、勇者の勘はわからないよねぇ」

 

 副団長が苦い顔をする。


 (何が、勇者の勘だ。自分の見せ場を作りたいだけのくせに)


 その思いを読み取ったのか、蓮が副団長をチラと見て、ウインクをしてくる。

悔しいが、そういう姿は絵になる男である。


 騎士は報告をしなければならず、引き上げて行った。

蓮が満面の笑みで言う。

 

「ね」

(何が、「ね」だ。勇者でなければ、投獄ものだぞ)


 副団長は内心で毒付いたが、蓮の次の一言で凍った。

 

「僕は勇者だから、問題ないでしょ」

(!? 心が読めるのか?)


 蓮は、素知らぬ顔でスクリーンを眺めていた。




 作戦本部と化している謁見の間。


「申し上げます。 勇者クドウレン様、伝令を伝えたところ、勇者の勘が、今動いては国が守れぬと告げているため、出陣できないとのことです」


 宰相セルヴァン・クロウリーはその報告を聞いて驚く。


「なんと、命令無視か。今すぐ動かなければ、騎士団の任を解いて、投獄すると伝えよ」

「待て、セルヴァン」

「陛下?」

「勇者殿は間違いなくこの国のトップクラスの戦力。今ここで争うわけにはいかぬ。

聞けば、動く時は勇者の勘が決めるようではないか。

今はその勘に期待することにしよう。

 

 ミューラへは他の者を当てるようにするのだ」

「陛下がそうおっしゃるのなら」


 丸く収めた、ウォーレンだったが、内心は複雑である。


(あの勇者は、独断専行するタイプだ。そして、それをするタイプの人間は大抵功名心が強い。

どうせ、自分の見せ場には相応しくないとでも思っているのだろう。

しかし、その手のものの勘は往々にして優れているものだ。ならば、この先に必要な時が来るのかもしれぬ。

こちらが感情で動かないようにしなければ)





「魔王様、外門付近の敵はほぼ壊滅状態ですが」

「うむ、我々も出るぞ。このまま進み、城まで進軍しろ」


 魔王軍本体も進軍を始めた。

外門付近では、帝都騎士団の残党が必死の抵抗をしていたが、屈強な魔族により悉く討たれていく。


 その光景をスクリーンで見て、帝都民は戦慄していた。


「いやあああああ、私の旦那がーーーーー」

「おとうさーーーーん」

「私の、私の息子がーーーーー」


 騎士たちも、家庭を持っている。

誰かの夫であり、誰かの父であり、誰かの息子である。

自分の愛する人がスクリーンの向こうで殺されているのを見てしまい、半狂乱になる者が続出した。


 その光景を見る帝都民はますます絶望の色を濃くしていった。


 躁獣魔将ミューラの魔物と統軍魔将ヴィルトランのデスサークルによって、帝都内の騎士団の抵抗は局地的なもののみとなった。


 魔王軍本体は無人の野をいくが如く、進軍を続けた。


 そして、皇城の前にたどり着いた。


 スクリーンには再び魔王ガルヴォートが映し出された。

 

 『帝都セセララビの人間どもよ。我ら魔王軍はついに皇城の前に来た。しかし、見ての通り、城門には騎士どもが大勢陣取っている。これも破城将軍エルガなら、一撃で吹き飛ばすこともできるが、同じことをしても興がのらない。

 そこでだ。我らは、騎士団の守備など意味がないと思い知らせてやろうぞ。

 紹介しよう。極淵魔将アゼルファードだ』


 スクリーンが1人の男を映し出した。

浅黒い肌、尖った耳、美しい顔、すらっとした体つき。ダークエルフだった。


 『ダークエルフも我々同様迫害される身だ。貴様ら人間とエルフによってな。

アゼルファードのお前たちに対する憎しみはなかなかのものでな。お前たちに復讐したがっているのだよ。

アゼルファードにはあとでたっぷり復讐の時間をくれてやるが、ちとお前たちに奴の力がどの程度のものか見せておいても面白いだろう』


 魔王がそういうと、アゼルファードは手を城門に向けた。


 『虚食』


 すると、城門の中程あたりに黒い帯電したような球が現れ、それが急激に巨大化。

その大きさは城門を軽々と飲み込むほどの大きさになり、一瞬で収縮して消えた。


 その場には、城門は最初からなかったように消失していた。

城壁は綺麗に円を描いて切断したようになっている。

当然、そこにいたはずの兵士たちもいなくなっていた。 


 帝都民たちはそれをスクリーンで見て絶句していた。

あれは、破城将軍エルガとはまた違った怖さがあった。


 魔王軍にはまだそれ以上の恐怖が残っていたのだ。



 『どうだ人間ども。アゼルファードの力は。お前たちもアゼルファードに殺されるなら、一瞬で消えることができるから、楽だぞ。魔物に噛まれなぶられ殺させるのもいいがな。それはこれからのお前たち次第だ。大人しくしていれば、アゼルファードに殺させてやろう。しかし、抵抗するなら、魔物に嬲らせよう』


 帝都民の多くが立っていられずに膝をついた。

いつの間にか、選択肢が生きるか死ぬかから、楽に死ぬか苦しんで死ぬかにすり替わっている。

多くの者が、その選択肢を前にして、自らの逃れられない死を受け入れ始めていた。



 『さて、マーヴィカン皇帝陛下に謁見してもらうか』


 魔王ガルヴォートの顔が邪悪に歪んだ。






 —————————— 同時刻の美羽 ———————————


 「なにやってるんですの!」


 そこには、ライトブラウンに輝く髪に同じ色の瞳のレーチェルが、堂々と立っていた。


 柏原は怯む。


 レーチェルは美羽と柏原の間に身を割り込ませて、目を怒らせながら言った。


「おねえさまに、てをださないで!」

「ぼ、僕は何もしようとしていないよ」

「それでは、なんでこんなひとのいないところにつれてきたんですの?」

「それは、ミウちゃんのために」

「もう、けっこうですわ。これいじょういうならえんちょうせんせいにはなしますわ」

「い、いや、それは」

「はやくどこかにいってくださいまし」

「あ、ああ」


 柏原は足早に去って行った。


 レーチェルが美羽を見て微笑む。


「おねえさま、だいじょうぶですの?」


 美羽はレーチェルを見て安心して、抱きついて泣き出してしまった。


「ふえーん、レーチェル〜」

「まあ、おねえさまったら、またないてしまいましたわ。でも、これはこれでうれしいですわ」


 ニコニコとレーチェルが美羽の頭を撫でる。


 美羽とレーチェルはひとつ美羽が年上で背も高いのだが、レーチェルが一生懸命頭に手を伸ばして、美羽の頭を撫でる。


 美羽が泣き止むまで、レーチェルが美羽の頭を撫で続けた。


「えへへ、ごめんねレーチェル」

「わたしは、おねえさまにたよられてうれしいですわ。もっと、たよってくれていいですわ」

「ありがと。ねえ、レーチェル」

「なんですの?」

「今日、うちに遊びにこない?」


 そういうと、レーチェルが目を輝かせた。


「いいんですの?! おねえさまのおうち。いきたいにきまってますわ!」

「えへへ、決まりだね」


 そして、その日は美羽の家にレーチェルも招待した。


 美羽、美奈、レーチェルの3人はおやつを食べながらカートゲームを始めた。


 美羽は、お髭の赤い服のおじさんを選び、美奈はきのこを選び、レーチェルはお姫様を選んだ。


「きゃー、おっこっちゃいましたわ」

「キャハハ、バナナ〜バナナ〜バナナ〜」

「わあ、美奈ちゃん、バナナ落としすぎー、ああ! 滑っちゃったー」


 3人で大騒ぎしながら、カートのゲームを楽しんだ。


 少し落ち着いたところで、美羽がレーチェルに言う。


「レーチェル、守ってくれてありがとうね」

「おねえさまをおまもりするのはわたしのやくめですわ」

「ふふ、ありがとう。私もレーチェルを守るからね」

「うれしいですわ、おねえさま」


 そこに美奈が入ってきた。


「レーチェルちゃん、おねえちゃんをよろしくね。おねえちゃん、さみしがりやだから」

「もちろんですわ。おねえさまをぜったいにさみしがらせませんわ。まかせてください、みなちゃん」

「うん! おねがいね」


 美羽が二人に抱きつきくすぐる。


「もー、私だって大丈夫だよー」

「きゃー、おねえちゃんくすぐったいー」

「お、おねえさま〜、ひ、ひー」


 じゃれあっていたら、いつの間にか3人で寝てしまっていた。



 「うーん……」


 目を覚まし、周りを見回すと、怒号が飛び交う戦場の、美羽の結界内だった。


「ふぁあ。夢だったかぁ。レーチェルに助けられちゃった。でも、私にとって、レーチェルは本当に大切なんだな。

うふふ、あと美奈ちゃんも可愛かった」


 

 同時刻、戦場となっている皇城の一室でレーチェルは目が覚める。


「あら、レーチェル起きたのね」

「おかあさま、おはようございます」

「スッキリした顔をしているわね」

「そうですわ。おねえさまといもうとのみなちゃんのゆめをみましたの。とってもしあわせでしたわ」

「そう、この状況だし、夢でも幸せになってくれているのはうれしいわ」


 レーチェルの母のジョディは、はかなく微笑んだ。


 スクリーンには極淵魔将アゼルファードの「虚食」によって綺麗に無くなった城門跡が映っていた。

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