第109話 オーガ討伐編入
冒険者ギルドに行くと、セリアの列が少し並んでいたが、セリアに話を通す方がいいと思い、その列に並んだ。
それに、空いている列はあの2枚目男だった。美羽は覚える気がなかったので覚えていないが、レオンという。
レオンが担当していた、冒険者がちょうどいなくなったところで、美羽のことを見たレオンは、嬉しそうに美羽に声をかけた。
「お嬢ちゃん、また来たんだね。お兄さんのところがちょうど空いてるから、こっちにおいで」
(またか。本当に気持ち悪い、これ終わったら、ここにくるのやめよう)
レオンが大きな声を出すから、周りの注目を集めた。
「あの受付のナンパ野郎、あんな小さな子にまで手を出そうとしてるぞ」
「いや、でもあの子はものすごい可愛いぞ。今から唾つけときゃあ」
「あの子可愛いわ。お姉さんが声かけちゃおうかしら」
周囲の注目を集めて、鬱陶しいと感じていた頃、カウンターから出てきたセリアに声をかけられた。
「ミウ様、ようこそいらっしゃいました」
「あれ? 並んでいた人たちは?」
「それは、あのナンパ男の方に行ってもらいましたから」
「あ、ほんとだ。恨めしそうに見てる」
「もし美羽様が来た場合、最優先でギルド長室に通すように言われていますので、よかったらきていただけますか?」
「うん、私もそのつもりだからいいよ」
「ありがとうございます。それではこちらに」
ギルド長室に行くと、相変わらず質素な内装の部屋に、ギルドマスターのガルドがいた。
「おお、御使い様。先日は大変失礼をしてしまいました」
ガルドとセリアは同時に頭を下げた。
「ううん、いいよ。私の状況なんてわかるわけもないんだし。それにガルドは自分のために言っていたわけじゃないってわかってるしね。私こそごめんね。あれは、勝手になっちゃうから、コントロールが効かないんだ」
「そう言っていただけると助かります。それと、ミウ様が謝ることなどありません」
「じゃあ、おあいこってことでいいね」
「そうですな。そう言っていただけて、心底安心しております。何せ、御使い様にとんだ無礼を働いてしまったので、生きた心地がしなかったのですよ」
「あはは、それじゃあ、これで終わりね」
「はい」
ガルドは美羽にソファーを勧め、自分も座る。
セリアが紅茶を出してくれたので一口飲んだ。
(苦い……コリルフラワーのお茶が普及してたらなぁ)
少し飲めるようになったとはいえ、やはり苦い。
メイドのサシャが用意してくれたコリルフラワーのハーブティーが懐かしい。
(そういえば、しばらくサシャに会っていないな。今度会いに行かないと)
紅茶からサシャまで連想していると、ガルドも一口紅茶を飲んでから、話し始めた。
「それで、ミウ様。今日はどういったご用件で?」
「うん、私もオーガ討伐に参加しようかなって思って」
「なんと……、大丈夫なのですか?」
「うーん、怖いけどね。特務中隊だっけ、そこのロイドって人が来て参加しろって言われて、流れで参加することにした」
「ロイドですか。やめておけと言ったのですが、申し訳ありません」
「ううん、やっぱり見捨てるのも後味悪いしね」
「ミウ様の安全は我々が保証しますので、よろしくお願いします」
「うん、よろしくね」
その後、進軍は翌未明と決まった。
20キロほど進んだ先にオーガ部隊が陣を敷いているらしい。
「なんで、オーガはそんなところにいるの?」
「それは分かりません。我々を待っているようにしか思えないのですが……」
「じゃあ、行って確かめるしかないんだね」
「それしかないのです。ミウ様には負担がかかってしまい申し訳ありませんが……」
「うん、大丈夫。もう行くって決めたから。
まあ、決めたからって、この間みたいにはならないとは言えないんだけどね。あはは」
美羽が自嘲する。
(このお方に、こんな笑いは似合わないな。屈託なく笑って欲しいものだが、今は縋るほかない)
ガルドは幼子に頼るしかない自分の無力さを嘆いた。
冒険者ギルドを出た美羽は皇城に向かいながら、テレフォンでレーチェルとオーガ討伐のことを話したら、レーチェルも皇城に行くことになった。
軽く昼食をとったが、レーチェルと待ち合わせの時間まではまだ時間があった。
そこできんちゃんが提案してきた。
「美羽様、食料を購入しませんか?」
「食料?」
「はい。ずいぶんお金も溜まってますし、いざという時のために食料を私の収納魔法と美羽様の収納リングに入れておきましょう。パンや果物など、どれだけ入れても腐らないので、無駄にはなりません」
「そっか、何かあった時に食べ物なかったら困るもんね。いっぱい買っておこうか」
「はい。それと、寝具なども欲しいのですが、美羽様の収納リング。女神様がいうほど収納力は小さくないですよね」
「そうだね。フィーナちゃんは女神基準で喋るから、小さいって言ってたけど、かなりたくさん入るよ。
あはは、そういうとこフィーナちゃんだよね」
「ふふふ。女神様らしいですね。それでしたら、いっそのことベッドを買いましょうか?」
「え? ベッド? 持ち歩くの?」
「はい。天蓋付きのベッドです。 虫除けのカーテンをつけておけば、いつでもどこでもお昼寝もできるし、そのまま野営もできます」
「ええ、大袈裟じゃない?」
「大袈裟じゃありません。正直言いまして、私は美羽様が5歳の割にはあまり寝てなくて心配しているのです。
まだお昼寝も必要なお歳なのに、気にせずに行動するから、ゴルディアックの時のように倒れてしまうのです。
ですから、これからはしっかりとおやすみできるように、天蓋付きのいいベッドを買いませんか?」
「あはは、倒れちゃったのはごめんだね。きんちゃんが言うなら、そうしようかな」
「ありがとうございます」
「あはは、使うのは私なのに、きんちゃんがお礼を言うなんて、おかしいよ」
「いえ、心配が一つ減りますので、ありがたいですよ。ついでと言ってはなんですが、ベッドに屋根とテントの布を周囲に張れるようにしましょう」
「ふふ、それは家みたいだね。きんちゃんに任せるよ」
以前に椅子や治癒用のベッドを購入した家具屋に行くと、なんと、きんちゃんの要望通りの屋根付きで周りにテントの布を貼れる天蓋付きベッドがあった。
しかも、折りたたみ式のテーブルもついているから、食事もできる。
「おじさん、これって売ってるの?」
「おや、天使ちゃんじゃないかい。この間は腰の治癒ありがとうね」
店主は美羽の患者だった。
「いいよ。お金もらってるんだから」
「それで、このベッドかい? これも売り物だよ。売れないけどね。とある貴族様が別荘の湖の辺りで昼寝がしたいって言うことで、ご要望に合わせて作ったんだけどねぇ。急にキャンセルになってしまったんだよ。
こんなもの、安くしても買う人なんかいないし、邪魔だし困ったものだよ」
「いくらなの?」
「おや、天使ちゃん買いたいのかい? なんてことはないだろうけど、もし買うんだったら、金貨20枚でいいよ」
「そんな安くて大丈夫なの?」
「こんな大きいものを処分するのも一苦労だからね。買ってもらえるだけ御の字だよ」
「じゃあ、買うよ」
「え? 天使ちゃん、大丈夫なのかい?」
美羽がきんちゃんを見ると、承知しているとばかりに、きんちゃんが金貨20枚を浮遊魔法で浮かせて、店主の手にまで運んだ。
美羽はベッドをさっさと収納リングに入れてしまった。
「き、金貨が浮いて、え? ベッドが消えた。収納魔法? ……驚いた」
「美羽様、あちらのテーブルセットとパラソルも購入しましょう」
「うん、分かった」
美羽もきんちゃんも店主の驚きなど気にしないとばかりに、気になったテーブルセットなどを見に行った。
「うん、これもいいね。おじさん、これもちょうだい」
「そんなに入るのかい?」
「うん大丈夫」
そんな調子で、いくつか家具を買い足した美羽だった。
お店を出て、次は雑貨屋で魔導ランプなど、野営に必要なものを片っ端から買った。
「おっかねがあるから、いっぱい買えるよー。おっかねがあるって、楽しいねー」
美羽が即興で作ったお金の歌を歌っていると、果物屋があった。
そこのお店の女性は誰かに似ていた。
「あっ、もしかして」
美羽は果物屋に寄って声をかける。
「こんにちは〜」
「はい、いらっしゃい。え、もしかして、御使い様?」
「そうだよ。小桜美羽っていうの。もしかして、リリとルルのうち?」
「ああ、やっぱり御使い様ですか。そうです。リリとルルは私の娘です。
ご挨拶に行かなければと思っていたのに、行けなくてすみませんでした。
騎士団学校の入学金までお世話になったのに」
「私がしたかっただけだし、挨拶もしなくていいって言ったのは私の方だから、気にしないで」
美羽はリリとルルの両親が挨拶に来たいと言っていると聞いたが、気にしないでくれと断っていた。
「リリとルルは元気?」
「ふふふ、週末に帰ってくるのですが、帰ってくるとミウ様ミウ様って言っていますよ」
「えへへ、そうなんだ」
「そうだ。何か果物をもらってください」
「あ、ううん。いいの。それよりも果物を買わせて」
「それなら、差し上げますよ」
「ううん、たくさん欲しいから」
「どれくらいですか?」
「このお店の果物全部」
「ええ、そんなにたくさん持てるんですか?」
「うん、大丈夫だよ」
お店の果物を全て買って収納してしまったのを見た、リリとルルの母親はびっくりしていた。
そして、リリとルルのことも含めて、何度も何度もお礼を言って美羽を辟易させた。
その後、パン屋、食材屋、肉屋、魚屋などを回って、店のすべての品を買って満足した美羽だった。
美羽がたくさん買ってニコニコして言う。
「これが、大人買いって言うんだね」
「これは、どちらかというと買い占めっていう気がしますけど、お店の人は喜んでいたからいいですね」
「これで、大体必要なものは揃ったかな?」
「ええ、数十日荒野を彷徨っても問題ないはずですよ」
「こんなに使う時が来るのかなぁ?」
「備えあれば憂いなしと言いますので」
「あ、知ってる。日本の言葉だよ」
美羽はレーチェルと合流をして皇城に行った。
ティールームでお茶をしていると、クララもやってきた。
「クララ、早かったじゃない」
「何言ってるの、今日はもう遅い時間よ」
「おねえさま、きょうはじかんのかんかくがずれてますわ。まちあわせにもそうとうおくれてましたから」
レーチェルがツンとして言う。
「あ、そうだったの? 買い物が楽しくてつい。ごめんね」
「ふふふ、おねえさまがたのしければ、それでいいですわ」
一言謝られるだけで、レーチェルは笑顔になって許してしまう。
「うふふ、相変わらずレーチェルはミウちゃんに甘いわね」
そう言いながら、席につくクララ。
出された紅茶を一口飲むと口を開く。
「レーチェルからテレフォンで聞いたの。ミウちゃん、オーガ討伐に参戦するんですって?」
「あ、うん。そうなんだよ」
「あ、うん、じゃないですわ。おねえさま、オーガはきけんなのです」
「そうよ、オーガ1体に10人の一般騎士が付かなければ安全に倒せないのよ」
「それは知ってるよ」
美羽が答えるが、尻すぼみの言葉になる。
自分も怖いから、自信を持って答えられないのだ。
「それがひゃくたいもいますのよ」
レーチェルも被せてくる。
「うん」
「それだけじゃないわ。オーガは盾と大剣で武装をしていて、統率までされているっていうわ。
そんなところに行ったら危険よ」
「それはそうなんだけど〜」
「それに、オーガっておにですわよ。こわいかおでおいかけてきますのよ」
「うう〜」
美羽が涙目になってしまった。
それを見たクララとレーチェルはやりすぎてしまったと反省した。
「ミウちゃん、ごめんね。脅すつもりはないの。ミウちゃんに危ないことしてほしくないって思って、つい言ってしまったの」
「ごめんなさい、おねえさま」
「ううん、心配してくれてありがとう」
そこへ、イザベルが入ってきた。
「ミウちゃん! オーガ討伐に行くって本当なの?」
「あ、うん。お母さんも聞いたの?」
「ええ、侍女が特務中隊の中隊長が大騒ぎしていたって聞いたわ」
「あいつか」
美羽のこめかみがぴくぴくと動く。
ロイドの性懲りも無く喜ぶ姿が目に浮かぶ。
(やつに喜ばれるのは釈然としない)
「やっぱり受けなければよかった」
「そうよ、ミウちゃん。こんなの受けなくていいわ」
イザベルが美羽の手を取って言う。
美羽はイザベルが心配してくれるのがとても嬉しい。
つい顔を綻ばせる。
「お母さん、心配してくれてありがとうね。私は治癒班だから、前には出ないんだよ。
あと、私ね、本当はとっても強いの。オーガにだって負けないんだよ。
それにきんちゃんもいるしね。
きんちゃんを倒せる魔物はいないってフィーナちゃんが言ってたよ。
だから、心配しないで。必ず帰ってくるからね」
フィーナが言っていたというのは嘘だが、きんちゃんを倒せる魔物がいないというのはあながち間違いでもない。
だが、これらは優しいイザベルたちを安心させるためについた美羽の嘘だった。
(怖がってるところはみんなには見せたらいけないな。しっかりしよう)
「もう、ミウちゃんは娘失格だわ」
「ええ、やだよ〜」
「母親を心配させるなんてことするものじゃないのよ」
「うん、ごめんね。お母さん」
「じゃあ、許してあげるから、ちゃんと帰ってきてくれる? 約束して」
「うん、約束する。ちゃんと帰ってきて、お母さんにただいまって言うね」
「それを聞けて嬉しいわ、ミウちゃん」
イザベルがぎゅっと抱きしめる。
美羽もイザベルをぎゅっと抱きしめた。
ドタタタタタタ。
騒々しい足音が聞こえる。ドアが閉まっているのに聞こえるなんてよっぽどである。
(ああ、この足音は誰か分かった……)
バターーーーン!
「ミ!? もがもが」
予想通り皇帝ウォーレンだった。
美羽が女神の手で口を塞いだため、言葉が出せないでいる。
「黙れ、皇帝」
氷点下の目でミウが睨む。
ウォーレンが顔を縦に振る。
ウォーレンの口に女神の手を当てながら、冷たい目で美羽は言う。
「私がオーガ討伐に行くから来たの?」
ウォーレンが首を縦に振る。
「止めに来たの?」
首を縦に振る。
「でも、私は行くの」
ウォーレンはしゅんとする。
「心配なの?」
ウォーレンはまた首を縦に振る。
そこで、美羽は女神の手を解除し、ウォーレンを見る。
ウォーレンは美羽に見つめられて照れながらも見つめ返す。
そして、美羽が花が開いたかのように笑顔になってウォーレンに言った。
「心配してくれてありがとう。お父さん」
そしてウォーレンの腰に抱きついた。
ウォーレンは雷に打たれたかのように硬直したが、やがて事態に気がつき、しっかりとミウを抱き返し、
「うおおおおおお、ミ!?モゴモゴ」
叫べなかった。女神の手で。
「黙れ、皇帝」
美羽が再び氷点下の目で言った。
しかし、皇帝の目には涙が溢れていた。
「「「フフフフフ」」」
それを見た、クララ、レーチェル、イザベルは微笑ましく笑った。
その晩は、レーチェルは帰ったが、皇妃イザベル、エレオノーラと皇女のアメリア、シャルロット、クララの3人と美羽できんちゃん風呂に入った。
第一皇妃の大きな部屋で作ったきんちゃん風呂は特大になった。
3姉妹はキャッキャッと騒いでいる。
「ミウちゃん、これは気持ちいいわね」
「ノーラちゃん、気持ちいいでしょ」
「また入りたいわね」
「いいよ、討伐から帰ったら、また入ろうね」
「まあ、いいわね」
イザベルが髪を掻き上げる時に美羽の目がその指に止まる。
「お母さん、お風呂入る時もその指輪つけているんだ。ローズクォーツだね」
「ふふふ、分かった? ミウちゃんとお揃いのものが欲しくて用意してもらったの。
本当はミウちゃんと同じペンダントが欲しかったのだけど、手に入らなかったから指輪にしたのよ」
「え、お母さん、私とお揃いにしたかったの?」
「ええ、ミウちゃんといつも一緒にいる気になりたかったの」
「えへへ、嬉しい。じゃあ、離れていても一緒だね」
「そうよ。私たちはいつも一緒よね」
「そうだ、クララと同じように神気を入れて結界を作れるようにしてあげるよ」
「まあ、嬉しいわ。でも、帰ってきてからでいいわ」
「なんで?」
「もう、夜も遅いからね。ミウちゃんは明日の朝早いでしょ。私のために無理はさせたくないわ」
「もう、お母さんはー。遠慮しなくていいのに」
「戻ってきた時の楽しみよ」
「分かった。そうだ、その時ノーラちゃんにも作ってあげるね」
「まあ、ミウちゃんありがとう。嬉しいわ」
「「「ミウちゃーん」」」
と、そこで、皇女たちに呼ばれた。
「今行くよー」
「「「一緒に遊ぼう」」」
「うん!」
きんちゃん風呂で楽しく遊んでいたら、3人姉妹と美羽はのぼせてしまった。
夜はいつものようにイザベルと一緒にベッドに入った。
「ミウちゃん、おやすみ」
「おやすみ、お母さん」
イザベルが美羽のおでこにキスしてくれた。
美羽は安心して、眠りに落ちていった。




