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女神様の使い、5歳からやってます  作者: めのめむし
第5章 崩れた日常

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第108話 恩知らず

 一瞬の浮遊感の後、地に足がついたら、そこはいつもの教会だった。

美羽が祈りに来る度に一緒に祈っている信者たちがいるのだが、彼らはほっとした顔をしている。


 心配していたのだろう。

だから、美羽は声をかけておいた。


「みんなごめんね。心配かけちゃったみたい。ちょっとフィーナちゃんに呼ばれていたんだ」

「おお、女神レスフィーナ様に呼ばれるとは、さすが御使い様。私たちのことはお気になさらないでください」


 信者の一人が代表で答える。


 すると、金魚ちょうちんで魔法生物のきんちゃんに声をかけられる。


「美羽様、お身体の方は問題ありませんか?」

「きんちゃん、大丈夫だよ。話はここを出たらするからね」

「はい」


 美羽は教会を出て、人通りが少ないところで、きんちゃんに神界であったことを説明する。

きんちゃんは黙って聞いていたが、やがて口を開く。


「レスフィーナ様や運命神様はなぜ、そこまで心配をされているのでしょうか?

美羽様は最強の神気の力を持って、その上無限に近い魔力もお持ちです。さらに私も美羽様のおそばにいます。

恐れることなど何もないというのに」

「さあ、どうしてだろうね。それこそ、神のみぞ知るだね」

「美羽様は怖くないのですか?」

「それこそ、私には神気もあるし、魔力もある。神刀コザクラもある。あと、一番はきんちゃんがいるから大丈夫だよ」


 そう言いながら、きんちゃんの頭を撫でる。

きんちゃんは嬉しそうに手に頭を擦り付けてくる。


「美羽様、お任せください。私は連日、美羽様の無限に近い魔力を極限まで注いでいただいているのです。最近では余った神気まで注いでいただいて、神気の骨格もかなり強くなりました。私を倒せるものなど、この世にはいないでしょう。

ですから、必ず美羽様をお守りします。美羽様はこの世界を楽しむことだけを考えていただければ良いのです」

「きゃー、きんちゃんが頼もしい〜」


 美羽が冗談っぽく言いながら、きんちゃんを強く抱きしめた。


「ああ、美羽様〜。真面目にいってるんですけど〜」


 美羽に抱きしめられてデレデレしながら、きんちゃんは抗議の声をあげる。


 美羽はきんちゃんを掴んで、自分の顔の近くに持ってきて、微笑みながら言う。


「分かってるよ、きんちゃん。この世界に来てから、きんちゃんに助けられたことなんて数えられないほどなんだよ。

きんちゃんがいなかったら、もしかしたら死んでたかもしれない。そうじゃなくても、心細くて一歩も動けなかったかも。

トラウマが出た時も、いつも真っ先に助けてくれて、安心させてくれた。


 私はきんちゃんがいないと何もできないただの子供なの。


 だから、感謝してる。いつもありがとうね、きんちゃん。


 そして、これからも私を守ってね」


「もちろんです。この身にかけて誓います。私、きんちゃんは美羽様から、全ての苦しみを遠ざけ、敵を排除し、美羽様が全力で人生を楽しめるように尽力します」

「うふふ、きんちゃんは過保護だなぁ」

「美羽様は、これまで十分苦しみました。ですから、これからは楽しんでいただきたいのです」

「ありがとう、きんちゃん。これからもよろしくね」

「はい! 必ず誓いを果たします」


 

 きんちゃんを上に投げてキャッチして遊びながら歩いていると、前から男がやってきた。


 そして、美羽の前に来ると膝をついた。


「御使いコザクラミウ様、先日はこの命を救っていただき、ありがとうございました。

それどころか、無くなった腕も再生していただき、我が誇りの耳まで元に戻していただいたこと、感謝の念が絶えません」

「ああ、サブリナの店の前で倒れていた、エルフさん」

「はい、申し遅れました。私はハイエルフのルシェルと申します。以後、お見知り置きを」

「それじゃあ、話しにくいから立ってよ」


 そういうと、ルシェルは立ち上がった。やはり背が高い。美羽は小さいから、見上げるような高さになる。


「サブリナの店で働いて、お金は返せたの?」

「はい、サブリナ殿にはよくしていただいております。治癒費はすぐに返し終わったのですが、行くあてがなかった私をみかねて、そのまま働くように言っていただきました」

「そうだったんだ。よかったね。いつまで働く予定なの?」

「まだ、決まっておりませんが、お金が貯まったら、故郷に帰ろうかと」

「故郷はどこなの?」

「巨大樹の森です」

「おお〜、巨大樹の森きたー」

「ミウ様?」

「うん、巨大樹の森に行こうって、友達と話していてね。それと、違法奴隷になった獣人たちも巨大樹の森を目指して出発したんだよ」

「そうだったのですね。しかし、いや、大丈夫か。」

「なに? どうしたの?」

「いえ、大丈夫だと思います。獣人たちなら受け入れてもらえるかと」

「そう? それじゃあ、今度ゆっくり話そうよ」

「はい、ミウ様」


 ルシェルと別れたあと、美羽は市場の治癒院に向かった。


 今日はかなり少ない方で20人ほどしか患者がいなかった。


(って言っても銀貨20枚。日本円で20万円くらいの儲けなんだよね。5歳の私にはかなり多いよ。お金はいくらあってもいいけど。)

 

 銀貨をレスフィーナにもらった収納リングに入れた。


「お金いっぱいー、お金いっぱいー、なんでも買えるよ。何を買おうか、わっはっは」


 美羽が即興で「お金がいっぱい」という歌を作って歌っていると、声をかけられた。


「お取り込み中失礼します。御使い様」

「うわっ! 聞いてたの?」

「はい、とてもユニークで可愛らしい歌でした。それに相まって美しい声に聞き惚れてしまいました」


 そう言われて、美羽は真っ赤になる。

誰もいないと思って、適当に歌っていたのだ。

 

「もう、恥ずかしいよ。えっと、あなたはロイド」

「はい、帝都騎士団第5大隊特務中隊中隊長ロイドと申します。先日は中隊並びに冒険者、傭兵たちの治癒をしていただき、ありがとうございました」

「いいよ、お金もらってるんだし。それよりもどうしたの? 何かあった?」

「はい、我々特務中隊は他二つの中隊と合わせ、さらに冒険者、傭兵を合流させ、明日オーガの討伐にまいります」

「そうなの。大変ね。ん? わざわざ、それを言うためだけに来たわけじゃないよね」


 そう言うと、ロイドは咳払いをしてから、意を決して美羽に言った。


「御使い様、オーガ戦は激しいものになることが予想されます。

負傷者も多数出るでしょう。

ですから、御使い様のお力をお借りできないでしょうか?」


 すかさず、きんちゃんが間に入り、長い針を出して、ロイドの首元に突きつける。


「貴様、ギルド長から聞いていないのか? 美羽様を貴様らの事情に巻き込むな」


 きんちゃんの殺気にロイドどころか、周囲で買い物していた客まで凍りつく。

しかし、市場だからきんちゃんが殺気を抑えていたのもあるが、ロイドは殺気に耐える。


 そして、美羽に言い続ける。


「ギルド長から聞いています。それでもなお、お願いしたいのです。来ていただけないと、大勢が死んでしまうかもしれません。その中には御使い様のように小さな子を抱えている騎士もいるのです。確かに御使い様に討伐に参加する義務はありません。しかし、御使い様が行かないことで、大勢が悲しみの涙を流す可能性があるのです。


 御使い様は、御使い様は、それでいいのですか!

 御使い様としてそれでいいのですか!」


 ロイドの言っていることは、本来美羽には一切関係のないことである。

美羽は御使いとしての義務も与えられていない。強いて言うなら楽しんで生きることこそが唯一女神から与えられた使命と言える。


 そんな美羽に、出来るからといって、御使いだからといって、大勢の人間の悲しみという質をとって、強要するのは完全なお門違いである。


 だから、きんちゃんは決めた。


 静まった市場の中、きんちゃんが冷徹に言葉を発する。


「もういい、お前は死ね」


 ズブリ。


 ロイドの喉に針がゆっくりと半ばほどまで刺さる。


 ロイドの口から、血が溢れる。


(ああ、まずい。私は本当に死ぬんだ)


 ロイドがそう思った時に、声が響き渡る。


「待って、きんちゃん」

「美羽様……」

「抜いてあげて」

「……はい」


 きんちゃんが針を抜いたら、ロイドが仰向けに倒れる。


 そのロイドに美羽が右手をかざす。

手のひらから桜の花びらが一枚、のどの開いた穴に当たると、その部位に溶け込んで立ち所に治してしまった。


「かはっ」


 ロイドが息を吹き返す。


「た、助かってる」

「大丈夫?」

「はい、大丈夫です。しかし、御使い様。騎士団の中隊長である、私を殺してしまっては御使い様もタダでは済まなかったのではないですか?」


 ロイドは、全く空気を読めていない。

その愚昧さにきんちゃんがイライラして言う。


「ほざくな下郎が。美羽様は皇帝より上の立場のお方。本来なら貴様のやったことは不敬罪だ。今すぐこの場で殺しても何かあるわけがあるまい。もしあったら、私がこの帝国を丸ごと滅ぼす。だいたい貴様は、美羽様に恩があると、先日言っていたはずだ。こういうのを恩を仇で返すというのだ。恥知らずめ!」


 ロイドは、俯いてしまった。言い返す言葉も見つからないのだ。

今度は美羽が話し始める。


  「『御使いコザクラミウ様、このご恩は生涯忘れません。御使い様に何かあった時、必ず駆けつけお守りすることを誓います』って言ってたよね。守ってくれるどころか、戦地に引っ張って行こうとしているあなたは、恩知らずのろくでなしね。

 その場の感情だけで、覚悟もないのに大きな約束をする。信用されないタイプの人間だわ」


 ロイドは美羽と目を合わせられない。

図星だからだ。


 ミウは続ける。


「でもね、感情だけで動くのも時にはいいこともあるの。スプーンいっぱいほども理性があれば、私の話を聞いてなお、私にこんな依頼しに来れないはずだもの。依頼しに来なければ、可能性はゼロのままだわ」


 ロイドが顔を上げ、ミウを見る。


「オーガの討伐。行ってあげるわ。私だって、好きで見殺しにしたいわけじゃないもの」


 ロイドが喜色満面といった顔になった。


「おお、御使い様。ありがとうございます! このご恩は」

「待ちなさい!」

「は?」

「その先を言うことは許さない。どうせ、一生忘れませんとか何かあったら今度こそ駆けつけますとか言うんでしょ」

「は、はい……」

「あなたは、一度私を裏切ってるの。舌の根も乾いていないうちにね。だったら、今後も裏切るわ。

裏切るくらいなら、最初からそんな誓いなんか立てないで」

「申し訳ありません……」

「冒険者ギルドに行けばいいのね」

「はい、冒険者として参加していただければ」

「わかった。これから行くから。それと、あなたは早くこの場を去ったほうがいいわ」


 美羽が周囲を指差して言う。

 

「はい?」


 ロイドが周囲を見ると、市場の住人たちが睨んできている。一人が叫んだ。


「天使ちゃんを裏切りやがって」

「そうだそうだ」

「この恥知らずの騎士団が」

「ミウちゃんに傷一つでもつけさせてみなさい。わたしら、騎士団に殴り込みかけてやるさね」


 市場の人間は美羽の味方だ。

美羽を危ないところに連れて行こうとする騎士団の人間が許せないのだ。


「そ、それでは、御使い様、失礼します」


 慌てて去ろうとするロイドに美羽がにっこり笑って一言。


「治癒代、銀貨一枚だよ」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「あっはっはっはっは」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


 市場のみんなが笑い、ロイドが銀貨を美羽に渡して、そそくさと帰っていった。



「さ、冒険者ギルドに行かないとね、きんちゃん」

「仕方ありませんね」


 美羽ときんちゃんは冒険者ギルドに向かった。

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