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女神様の使い、5歳からやってます  作者: めのめむし
第5章 崩れた日常

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第104話 あらすじ3 神々の鑑賞 全5回

 治癒の神セリスと愛の神ラヴィア、戦神アルモスは「美羽ちゃんのこれまで」をやってるスクリーンに食い入る様に見ている。


「それで、戦いはいつなんだ? レスフィーナ」

「あなたじゃないから、戦いなんかしないわよ、戦神アルモス。見たくないなら、見なくていいわよ」

「いや、ミウは可愛いから、見たいけどな。そうだ、美羽に戦いの仕方を教えるのはどうだ?」

「あの子には戦闘技術も記憶に植え付けてあるから、その気になったら自分で身につけるわよ」

「しかしだな。知ってるのと、実践するのでは大違いだぞ」

「いいのよ、あの子が必要になったら、その時に覚えれば。

それにあの子には私の世界で楽しく生きてほしいと言ってあるのよ。

できれば、戦闘とは無縁でいてほしいわ」

「しかし、戦いとは急に起こるものだ。身につけておくのに越したことはあるまい」

「それはそうだけどね。それに、これから起きるかもしれないし」

「何? 戦闘が起きるのか?」


 だから、なんでそんなに目を輝かせるのよ。戦闘狂め。

 

「私でも読めない未来があるのよ。もしかしたら、そこで何か起こるかもしれないわ」

「読めないと言うと、奴が関わっているのか?」

「多分ね。そうじゃないと、私が読めないのはおかしいわ」

「それはいつの話だ?」

「二日後よ」

「むぅ、それなら、尚更教えるべきではないか?」

「そうね。でも、美羽ちゃんなら乗り越えてくれるわよ」

「うーむ、そうだろうか?」


 何よ、歯切れの悪い返事は。

気になっちゃうじゃないの。


 スクリーンに目を戻すと、シープゴートの串肉屋を美羽ちゃんが見ていた。

まあ、美味しそうね。私も食べたいわ。


 買おうとしてるけど、躊躇しているみたい。

ああ、なるほど。問題は串肉屋が2枚目ってところね。


 美羽ちゃんは柏原という保育士に性的虐待を受けてから、2枚目に対して自然に恐怖を覚えるのよね。

無理しないでいいと思うけど……、やっぱり買うみたいね。


 串肉屋が爽やかな笑顔を浮かべて美羽ちゃんに声をかける。


『いらっしゃい。お嬢ちゃん、可愛いね』


 串肉屋、可愛いとか余計なこと言うのやめなさい。

それだけで、美羽ちゃんは嫌悪を感じるんだから。

 

『串肉が食べたいのかな?』

『……うん』

『シープゴートはとってもおいしいよ。お金はあるのかな?』

『……ある』

『そっか、小さいのにすごいね。何本欲しい?』

『1本』

『じゃあ、四百シリルだね。銅貨4枚だ』


 美羽ちゃんは、一つ一つのやり取りの中で、だんだん顔を青くしていく。

美羽ちゃんがお金を渡すと、男が必要以上に美羽ちゃんの手に触り、お金を返した。

やめなさい、串肉屋。女の子みんなが喜ぶわけじゃないのよ。


『ひっ』


 美羽ちゃんが顔を青くさせて、顔を逸らした。


『こうやるとみんな喜ぶんだけどなぁ。君、変わってるね』

『……』


 美羽ちゃんは言葉も出せずに硬直している。


『まあ、いいや。はい、これ』

『ぁりがと……』


 串肉屋が手のひらを返すような態度でそっぽを向く。

こんな態度も美羽ちゃんのトラウマを刺激するのに……。

美羽ちゃんは串肉を受け取ると、急いで走ってその場を後にした。


 美羽ちゃんがベンチに座って、串肉を食べ始めていた。


 スクリーンを通して、美羽ちゃんの気持ちが伝わってくる。

 

 一口食べた瞬間に広がる肉汁の旨みと共に広がる、嫌悪感。

串肉屋の男の2枚目の笑顔が蘇り、悍ましく感じる。

それは串肉屋の男というより、柏原の笑顔そのものだった。


 それでも我慢して咀嚼しようとする美羽ちゃんに、体が食べてなるものかと抵抗してくる。

一気にあの日の悍ましい光景が目の前に広がる。

逃れられない密室。散らかった自分の服と柏原の服。

美羽ちゃんの体を這う、柏原の蠢く手の感触。

あの悍ましい笑顔。


『うっぷ、うげえ』


 美羽ちゃんは四つん這いになって、串肉どころか、胃の中のもの全て吐いてしまった。


『ひぐ、ひぐ、ふえ〜ん』


 きんちゃんは何も言わずに美羽の胸の前にきた。

美羽はきんちゃんをガバッと抱きしめながら、泣いた。


『きんちゃ〜ん。ふえ〜ん』


 柏原につけられた傷はそう簡単には癒えないわ。

むしろ時間が経てばもっとひどくなる可能性もあるもの。


 それでも、頑張って乗り越えようとしたのよね。

逆効果になっちゃったけど……。

 

 本当に、柏原が憎いわね。

加害者本人が思っているよりも被害者はずっとずっと苦しんでいるのだから。


「レスフィーナ? 目を瞑って何しているのかしら?」

「ちょっと、触れたもの全てを腐らす神呪を作ってるのよ」

「ちなみに何に使うの?」

「あの串肉屋に使うのよ。2度と串肉が焼けないように」


 ラヴィアったら、何を当たり前のことを言ってるのかしら?


「やめなさいって。そんなことしたら、そいつ2度とご飯が食べられなくなっちゃうでしょ」


 なんでいちいち止めるのよ。仕方ないわね。でも、この作った神呪、何に使おうかしら。


「美羽ちゃん、大丈夫かしら? トラウマを刺激されたら、最悪の行動をする時もあるのよね」

 

 セリスが心配そうに言っているけど、その心配を裏付けるように、美羽ちゃんは呆然として歩いてる。



 『私、一人だし、生きている意味ないよなぁ。もう……どっか行こう』


 まずいわね。

 

 美羽ちゃんの頭の中で柏原の性的虐待や父親の賢治の殺意のある暴力、母の美玲と妹の美奈の死が重くのしかかってきているわ。 そして、自分にはもう守るものもないと思っている。



『ミウちゃん!』

『おねえさま!』


 クララとレーチェルに会ったみたい。

今は友達といることが大切ね。


『何があったの?』

『ううん、何もないの。私が弱いだけなんだから』


 美羽ちゃんは、二人に立ち入るなという雰囲気で答える。

でも、クララはめげずに尋ねてる。

 

『ミウちゃん、何があったか話してくれる?』

『なんでもないったら! ほっといて!!』


 美羽ちゃんがこの二人に声をあげるなんて、ないことね。

やはり、相当病んでいるわね。

クララとレーチェルも困惑しているわ。

 

『……ごめんね、もう行くね』


 美羽ちゃんは本当に帝都を出ていくつもりなんだね。

誰も知らないところに行きたいって考えているみたい。


 それがいいことではないけれど、今の美羽ちゃんにはそれしか考えられない。

美羽ちゃんがクララとレーチェルに背を向けて遠ざかっていく。


 クララは別れを感じたのね。自分の無力を感じて、もうすぐにでも泣きだしそう。


 そんな時、突然レーチェルが叫んだ。


『やだーーーーーーーーーーーーー』


 レーチェルが美羽に向かって全力で走って、ちょうど振り返った美羽ちゃんのお腹に頭から突っ込んだ。


『ウゲェ』


 美羽ちゃんは地面に尻餅をついた。

やっぱり、こういうとき動くのはこの子ね。


『やだやだやだやだやだやだやだ……やだーーーーーー』

『うぐぐ、レーチェル?』

『おねえさま、いなくなったらやだーーーーーーーー』

『いなくならないよ』

『うそ! いま、いなくなろうとしたもん。おねえちゃんのバカーーーー』

『……』


 美羽ちゃんは「おねえちゃんのバカ」という言葉にショックを受けたみたい。

ここにも守るべき相手がいるのに捨てようとしていたと思い知ったの。


(私はなんてひどいことをしようとしていたんだろう。)


『ごめんね、レーチェル』

『おねえちゃん、おねえちゃん、おねえちゃん、うわああああん』


 クララがやってきて、二人を包むように抱きしめた。


『美羽ちゃん。私だってバカって言いたいよ。私を置いて行こうとしたでしょ。

あなたには私なんてどうでもいいかもしれないけど、私には大切な友達で大切な妹なのよ』


(私は一人じゃなかったんだ)


 そう思った美羽ちゃんの目には、涙が溢れていた。

でも今の涙は喜びの涙。


『ご、ごめんねぇ。ごめんねぇ』

『もう。突然いなくなろうとなんてしないでよ』

『うん、うん、ごめんね、おねえちゃん』


 美羽ちゃんはクララとレーチェルのことをしっかり見ながら言った。

 

「クララ、レーチェル……大好き」


 治癒の女神と愛の女神と戦神が目に涙を溜めている。

私も涙が出ちゃった。


 その後、クララとレーチェルは美羽ちゃんの過去を包み隠さず聞いて、泣いたり怒ったりした。

そして、その後、


『二人のことは私が守るからね。だから、私も二人に守られるね』

『ええ、約束よ。どんなことがあっても、ミウちゃんとレーチェルのことは守るわ。だから、私のこと守ってね』

『やくそくですわ。わたしもおねえちゃんとクララおねえさまのことをぜったいにまもりますわ。だから、わたしのこともまもってください』


 3人は固い友情を確かめ合ってた。

3人とも、これからどんな困難が起きようとも、お互いのことは守り抜いてやるという覚悟でいたの。


 よかったね、ミウちゃん。


 


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 

 ビュン


 横なぎ。袈裟斬り、斬り上げ、再び横なぎ……。


 美羽ちゃんの動きは止まらない。

攻め続けてる。


 今、スクリーンでは美羽ちゃんが近衛騎士団長のクラーク・クレオと模擬戦をしている。


 次第に周囲で訓練していた騎士たちの注目も集まる。


『あの子、ずっと団長に切り掛かってるぞ』

『あんなに小さいのによく持つな』

『あれ、なんだか花びらが舞ってるぞ』

『ああ、本当だ。あの子から出ているような気がするが』


 美羽ちゃんは斬り続けながら、神気を発動して回復をしている。

体力を回復して、できるだけ長く模擬戦の経験をしようとしてるのかな。


「ふむ、美羽の動きが洗練されてきている。動きが最適化されていっている。

 今日初めて剣を振ったのは見たが、とてもそうは見えないな」

「ふふ、アルモス。美羽ちゃんは私が物事を身につける力をアップさせてるから、熟練するのも早いし、この世の知識も植え付けてるから、体験している間に自分で修正できるのよ」

「それは、かなり入れ込んでいるのだな」

「ええ、もちろん。美羽ちゃんには幸せになってもらわないといけないからね」


 模擬戦はしばらく続いたけど、相変わらずクラークは避けるだけね。

でも、それもそろそろ終わりね。


 美羽ちゃんが切り上げから、横凪に行くと見せて突きに行った。


 『ガキーン……カランカラン』


 クラークが回避だけでは間に合わないで、木剣を振り上げて、美羽ちゃんの木剣を弾き飛ばした。


『あてて、負けちゃったね。降参。と言っても、クラークは本気じゃなかったもんね』

『……』

『おーい』

『ハッ……あ、その、ミウ様、素晴らしいです。

この私に剣を使って受けさせるとは』

『でも、負けちゃった』

『5歳の子に剣を使わされた時点で私の負けなんですが、そう言うのも嫌ですよね。

それでは、こう言いましょう。最後の攻撃は良かったですが、詰めが甘かったですね。

フェイントを入れていましたが、中途半端だったのでしっかり入れてください。、こちらを完全に崩しておけば避けられない一撃でしたぞ』

『そっかぁ、もっと強いフェイントかぁ。練習してみるね』

『ええ、また来てください。空いている時ならばいつでもお相手いたしますぞ』

『うん、今日は楽しかった。またよろしくね、クラークちゃん』


 美羽ちゃんが花が開いたような笑顔になった。可愛い。

それを見た硬く引き締まったクラークの顔が赤くなって、不器用に笑った。


『クラークちゃんはちょっと……』

『なんで、可愛いよ。クラークちゃん』

『ぐふふ』

『……クラークちゃん、その笑い方は可愛くない』

『ぐ!』


 クラークが顔を引き攣らせてるけど、美羽ちゃんはそれを見て開いた手を口に当てコロコロと笑っていた。


 美羽ちゃんが男の人間にちゃん付けをしているのは初めてね。

信用できる人だと思ったのね。それはいいことだわ。



 別の日、美羽ときんちゃんは帝都の外で巨大な魔法の実験をして、死にかけたりしながら、帝都の外門にたどり着いた……けど、焦ったわ。本当に死ぬところだったんだものね。美羽ちゃんの魔力は無限に近いほど大きいから、扱いに慣れるまで、大きい魔法は使わないで欲しいわ。


「レスフィーナ、美羽ちゃんに魔法の扱いを練習させなかったの?」

「ここでぐずぐずとやってたら、美羽ちゃんが神界の神気の強さにやられちゃいそうだったから、長居させられなかったのよ。ラヴィア」

「それはそうね。神気が強くなったら呼べばいいわ。私が手取り足取り教えてあげるわ」

「ダメよ! あなたに美羽ちゃんを任せるわけないわ。美羽ちゃんの貞操が心配よ」

「貞操までは大丈夫よ。感触だけ楽しみたいわぁ」

「ダメー」


『君、そんなに小さいのに一人で外に出ていたのかい?』


 彼は門将ローガン。

美羽ちゃんを心配している風だけど、美羽ちゃんの可愛さに惹かれてるのが丸わかりなのよね。


『はい、これ』

『君、Cランク冒険者なのか!?』


 あーあ、あんな大きい声出してみんな注目しちゃってる。


『あはは、声おっきい』

『すまない。見せてくれてありがとう』

『どういたしまして』


 美羽ちゃんがにっこりと笑顔になって受け取ろうとするけど、ダメね。

ローガンが美羽ちゃんの笑顔に釘付けになっちゃって、美羽ちゃんが受け取ろうとしているカードを放さない。


 美羽ちゃんはきょとんとして首を傾げる。そういう仕草で余計に惹きつけちゃうのよね。


 『おじさん? 具合悪いの?』


 ローガンは美羽ちゃんの言葉に、ようやく我にかえった。


 そのあと、ローガンは自己紹介をした。よっぽど、美羽ちゃんが気になるのかな?


『それじゃあね、おじさん』

『あ、待って。お茶を飲んでいかないかい? もう名前も知ってるし、僕の娘で君くらいな子がいるんだよ。だから、話が聞きたいな』

『あはは、おじさんお仕事中でしょ。いくら偉いって言っても、サボっちゃダメだよ』

『そ、そうだな』

『またね、おじさん』

『ああ、またね』


 美羽ちゃんが街に消えていくまでローガンは見ていた。


『振られちゃいましたね。そんなにあの子が気に入っちゃいましたか? 可愛かったですもんね。

でも、手を出したら流石に俺も引きますよ』


 ローガンは部下に茶化されるけど、本当にその通りよ。

 

『バカ言うな。ちょっと可愛くて、太陽みたいな笑顔に目が奪われて、気になっただけだ』

『めちゃくちゃ気に入ってるじゃないですか』


「このローガンって男はロリコンかしら?」

「ちょっとそういう気はありそうなんだけどね、セリス。

 でも、この後も、美羽ちゃんに適切な距離を保ちながら、色々気をつかったりするから、一概に悪いとは言えないわ。

 美羽ちゃんも珍しく気を許すのよね」

「へえ、じゃあ大人の男では、この門将ローガンと近衛騎士団長クラークに気を許したってこと?

 トラウマを抱える美羽ちゃんにしては大きな進歩ね。このまま良くなればいいわね」

「そうね。でも、問題はあるんだけどね」

「え? 問題?」


 私の意図に気がついた、セリスとラヴィアとアルモスが目を瞑る。

そして、3人が渋い顔をして目を開ける。

未来をのぞいてきたみたい。

 

「これでは美羽が可哀想ではないか。レスフィーナ、教えてやらないのか?」

「アルモス、ダメよ。美羽ちゃんが体験して乗り越えないといけないの。私は力を与えたけど、心の強さは自分で獲得するしかないの。私たちが苦しみの全てを取り除いてしまったら、力だけの人の痛みもわからない化け物になってしまうわ。

そんな風になってもらいたくないの……」


 やるせ無い気持ちになってきて手を思い切り握る。

本当は全ての苦しみから遠ざけたい。でも、ダメなんだよね。人間である美羽ちゃんは、きちんと苦しみを味あわないと。


 手を握って、白くなった手を温かい手が包む。


「そうね、あなたが言ってることは正しいわ、レスフィーナ。地上の子は苦しみを乗り越えなくちゃいけない時もある。

それは地上の子にとって、大切な成長の機会。だから、見守りましょうね」

「ラヴィア……うん」


 私は信じる。何があっても美羽ちゃんは必ず乗り越えてくれることを。



 

 

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