第101話 とある男の悲劇
玉座で片肘をついて眠る者が1人。
大きな体に、頭の左右に捩れた大きなツノを持っている。
大きな窓の外は、どんよりとした黒い雲に稲光が見える。
稲光のたびに薄暗いその部屋を照らし、赤いカーペットを映し出す。
部屋は天井が高く、広さもかなりある。
何百人も入れそうな広さだ。
壁際にはガーゴイルと思しき石像が台座に並んでいる。
何体かおきに、3〜5メートルもありそうなゴーレムも立っている。
玉座の主人が目を覚ます。
夢を見ていたようだ……。
ずいぶん古い夢だ。
しかし、今の我の原動力につながっている。
当時の我は取るに足りぬほど弱かった。
子供とはいえ、我が種族の中でも最弱と言えただろう。
しかし、そんな我を父も母もうとみもせずに可愛がってくれた。
父も母も船乗りだった。
だから、我も物心ついた時には船の上にいた。
たまに陸地による時は、楽しかった。
市場で飴や焼き菓子を買ってもらったり、的にボールを当てて景品をもらう遊びなど、楽しみにしていたものだ。
陸に上がると、母がよく料理を作ってくれた。
「ガルちゃん、なんでも食べたいもの言ってね。お母さん、なんでも作っちゃうわ」
それが、母が私に言うときの口癖だった。
言った通りなんでも作ってくれた。
走竜のステーキでも、ビッグオクトパスの煮物でも。
後で知ったが、ビッグオクトパスは柔らかく煮るのが難しいらしい。
母よりも上手にビッグオクトパスを煮ることができる者を我は知らない。
父はよく剣術を教えてくれた。
「ガル、子供の今、腕っぷしが強いかどうかなんて関係ない。最後に生き残ってるやつが本当に強いやつだ。
その生き残る確率を上げるのが剣術だ。愚直に続けることによって、必ずお前に応えてくれる」
父はよくそう言っていた。
だから、我は剣術の練習を今でも欠かしたことはない。捕虜になっている時を除いて。
ある船旅の時、最悪なことが起きた。
我が種族にだけ広がるという疫病が広がってしまったのだ。
この疫病は他の種族には広まることはないが、我が種族にとっては致命的だった。
特効薬は船に積んであったが、疫病の広がりが早すぎて、足りなくなってしまった。
速やかに陸地に降りて、特効薬の原料になる薬草を集めて、薬作りをしなければならない。
我々はたまたま通りかかった、普段交流が全くない港に寄港するしかなかった。
これは賭けだった。我々の種族を敵として見る種族は多い。
特に一番多い人間族は我らを見たらすぐに戦いを仕掛けてくる。
この港が人間のものでないことを祈って、寄港した。
しかし、我々は賭けに負けたのか、その港は人間族のものだった。
しかも、国の首都だという。
我々は病人が多数いたため、抵抗することもなく捕縛されて、全員牢に入れられた。
我は心配なことがあった。
それは、母も疫病を発症してしまっていたことだ。
早く薬を用意しなければ、母の命に関わる。
我は決死の思いで、牢番に頼み込んだ。
「薬草をとってこないといけないんです。そうでないとお母さんが死んでしまうんです」
他の仲間も頼み込んだ。
すると、父と我だけ牢の外に連れ出された。
馬車に乗せられ、ついた先は大きな城だった。
そこで、ある部屋に通されると、そこには豪華な服を着た男がいた。
その男に聞かれるままに答えた。
自分たちの種族から、疫病のことまで微に入り細を穿つことを話した。
男は、疫病は人間族にはうつらないと聞いた時に、いやらしくニヤリと笑った。
猛烈に悪い予感がした。
そして、その予感は最悪な形で当たった。
男が合図をして通されたのは、病に苦しむ母だった。
今すぐに薬を飲ませないと、死んでしまうと思うほどに弱りきっていた。
男は母を見るなり、ニヤリと笑った。
嫌な予感が強くなる。
男の合図で、父は拘束を強められた。身動きが全く取れない状況だ。
そして、男は言った。
「お前たちの種族にしておくには惜しいくらい、いい女だ。今から余がこの女に天国を味合わせてやろうぞ」
そして、母は男に犯された。何度も何度も。我や父の目の前で。
母は父の名を何度も呼び、我に心配しないように優しく声をかけ続けた。
父は怒り狂った。しかし拘束が強められているので、どうすることもできなかった。
我は、やめるように懇願した。懇願すればするほど、男は強く母をせめた。
男は母に飽きたら、騎士たちに母を犯すように命じた。
「やめてくれ! そんなことをしたら、お母さんが死んじゃう」
そう言うと、男はさらに激しくするように騎士たちに命じた。
騎士たちは喜び、悍ましい表情で、母を犯し続けた。
父は、長い時間をかけて、拘束を少しずつ抜け出していた。
しかし、後一歩のところで、騎士にバレてしまった。
父は両腕を切り落とされた。
「お父さん! お願いだ。手当てをさせてください」
我は力の限り叫んだが、その度に母へのせめが激しくなる。
「……お願いです。……あの人を……助けて、ください」
母も息も絶え絶えに頼むが、騎士たちを喜ばせるだけだった。
そして、母を犯す騎士が100人を超えた頃、母は息を引き取った。
最後の瞬間に犯していた騎士は下品な顔で、
「最高だったぜ」
とほざいていた。
しかし、それだけでは飽き足らず、母の亡骸はその後も陵辱され続けた。
我は血の涙を流しながら、奴らに罵声を浴びせかけた。
しかし、それはかえって奴らを興奮させるだけにしかならなかった。
そして、父に声をかけられた。
「ガル……」
「お父さん!」
「……生きろ」
「もう生きたくない!」
「生きて、こいつらに復讐をしろ!」
「お父さん……」
「生きてこいつらを、この国を滅ぼせ。殺し尽くすんだ! こんな国はこの世から消してしまえーーーーーーーー」
ザシュ!
「お父さん!」
父の声を聞いたあの男が自ら父の首を落とした。
「余の国を滅ぼすだと? 面白いことを言ってくれるじゃないか」
全ての元凶。最悪の悪魔よりもタチの悪い男。
「なんで……こんなことをするんだ」
男はニヤリと笑う。その笑みは今まで見た中で一番悍ましい。
「余は、オルゴス・マーヴィカン。このマーヴィカン帝国の皇帝だからだ。全ては我の思い通りになるのだ」
我は、憎悪を込めて奴を、オルビスを睨んだ。
「オルゴス・マーヴィカン。僕は、いや我は種族のトップになって必ずこの帝国を滅ぼしてやる!」
「わっはっはっはっは! やってみろ、小僧。貴様如きにできるわけがないがなぁ」
その後、父と母の首は切られ、他の乗組員たちの首も全て切られた。
我は、隷属の首輪をつけられ、大衆の見物の中、広場に一つ一つ並べることを命じられた。
なんと言う残酷な仕打ちだろうか。
皇帝オルゴスが我に敗北感を感じさせて悦にいり、我が種族を我に晒させることで自分の力を誇示するためだったのだろう。
しかし、我は一人一人の頭部に誓ったのだ。
必ず、復讐を遂げると。帝国を滅ぼしてみせると。皇帝の血筋を根絶やしにしてみせると。
我は父の頭部を抱きしめた後、母の頭部のおでこにキスをして、そっとおいた。
そして、自らの首を刎ねた。
首は落ち、隷属の首輪も転がり体はばたりと倒れた。
見物に集まっていた大衆はパニックになった。
その様子を我は興味を示さずに眺めた後、首だけの体で呟いた。
『再生』
すると、体と首の血がつながり、体に引っ張られるようにして首が体につながった。
我の固有能力『再生』
魔力が続く限り、肉体を再生できる能力だ。
これで、隷属の首輪は外れ、我を縛るものは無くなった。
我は、混乱に乗じて帝都を抜け出した。
まだ弱いから捕まるわけにはいかなかった。
復讐を遂げるためには強くならなければならない。
我は数年かけて我が種族の多く住まう大陸に帰ってきた。
そして、何十年も強力な魔物を倒し喰らい続けて強くなり、何十年もかけて種族のいる各地を周り、時には説得し、時には力ずくで配下を増やし、ついに種族の王になった。
配下の1人が部屋に入ってきた。
「陛下、勇者が帝都に入りました。また、ゲートの方も準備万端です。
兵士の士気も十分でございます」
「そうか、では二日後の朝、帝都セセララビを攻める」
「12の将はどういたしますか」
「6人連れて行く。残りは防備にあてろ」
「ハッ」
「女神の側のものはいるのか?」
「はい、報告では帝都にいるようです。御使いというとか」
「御使い、天使か。あのお方が興味を持っておられる」
「それでは、御使いはあのお方が?」
「いや、我に任せるとのことだ。見物を楽しみたいようだ」
「あのお方のおかげで、女神にも動きが知られずに済んだでしょう。御使いも驚くでしょうな」
「そうだな。今回障害になるとしたら、その天使だけだろう。それも不意をつけば容易かろう」
「左様でございますな。勇者は力に溺れた愚か者とか。実に容易い話です」
「二日後、帝都は終わる。我を冷酷と思うか?」
「とんでもございません。陛下の御心のままに」
「あとは任せたぞ」
「ハッ! 魔王ガルヴォート陛下と共に魔族はあります。全ては御身のために尽くす所存です」
我は、マントを翻し、部屋を出た。
いよいよ明後日だ。父母の霊前に報告をしよう。
それが終わったら、あのお方にも報告をしなければ。




