第10話 タダで治せ
美羽がドヤ顔で名奉行の真似をしている一方で、呆気に取られている者たちがいた。
戦っていた3人である。
得体の知れないが可愛らしい少女にどう声をかけたものかと思っていたところ、見知った顔であるスウリがだらしない顔で、少女を見つめていたので、とりあえずスウリに聞いてみることにした。
「スウリ、これはどう言うことなんだ?」
スウリは彼らに気づくと顔をキリッとさせて、振り向く。
「ギルドマスター。どうとは?」
ギルドマスターと言われた男は、体が大きく、短髪でいかつい顔をしている。
そのギルドマスターはスウリ変わり身に驚くが気を取り直して続ける。
「彼女は何者なんだ? あと、あの魚はなんだ? 魔物じゃないのか?」
「彼女はコザクラミウちゃんです」
「コザクラミウ? 聞きなれない名前だな。あの魚は?」
「きんちゃんと言うそうですが、詳しくはわかりません」
スウリはギルドマスターにこれまでの経緯を話した。
聞けば聞くほど驚愕するような内容にギルドマスターは驚きを隠せない。
すると、美羽が近づいてきた。
「スウリちゃん、怪我人はどうするの? 治す?」
「ああ、すまない。ギルド長、怪我人の治療は有料だが、どうする。腕は私が確認している」
「君。助けてくれたお礼が遅くなってすまない。助かった。ありがとう。私はギルドマスターのグインだ」
「私は小桜美羽だよ。こっちはきんちゃん。金魚だよ」
「コザクラミウ、その」
「美羽でいいよ」
「そうか、ミウ。そのキンちゃんは魔物なのか?」
「違うよ。きんちゃんは魔法生物なの」
「なっ、魔法生物だって」
「うん、ね、きんちゃん」
「はい、私は美羽様の魔法生物で美羽様のためだけに存在しています」
「御伽話のような存在だと思っていた。本当にいるとは」
「それで、怪我している人はどうするの?」
「ああ、お願いしたいのだが、あまり金を出すことができない。なんとか冒険者を1人銀貨1枚でできないだろうか」
それにはスウリが反対した。
「なっ! ギルド長、それではあまりにも少ない。治癒院で直した場合、最低でも金貨1枚はかかるだろう。
重症ならその何十倍もかかるぞ」
「今はそれほど払えないんだ」
「しかし」
いいすがるスウリを遮って、美羽が口を開く。
「銀貨1枚ってどれくらいの価値があるの?」
「なんだ、美羽ちゃんはお金の価値を知らないのか?」
「うん、お金の価値は教えてもらった知識には入ってなかったの」
「そうか。じゃあ、教えよう」
スウリによると、
通貨はこの大陸ではほとんどどこも共通で、シリルという。
100シリル=銅貨1枚
銅貨10枚=小銀貨1枚=1000シリル
小銀貨10枚=銀貨1枚=10000シリル
銀貨10枚=金貨1枚=100000シリル
金貨10枚=大金貨=1000000シリル
大金貨10枚=神貨1枚=10000000シリル
となる。
神貨は国同士での取引などに限定されるので、普通では一生目にすることはない。
ちなみに神貨は古代遺跡から出土されたもので、なんの金属かもわからない。
100シリルで、パンが1つ買える。
「じゃあ、銀貨1枚は1万円くらいってことなんだ」
「いちまんえん?」
「あ、なんでもないよ。それよりも銀貨1枚でいいよ」
「ミウちゃん、いいのかい? 治癒士はもっと稼いでるんだけど」
「うん、いいよ。私も治癒はたくさん使えって言われているしね」
「治癒士の先生に言われてるのかい?」
「ううん、先生はいないよ。フィーナちゃんに言われたの。お友達」
「フィーナちゃん、どこかで聞いたことがある気が……それよりも、それならお願いしよう。ギルドマスター」
「ああ、そうだな。美羽、何人くらいできるか? それによって重傷のものを集める」
「ん? 今見てきた感じだったら、みんなできると思うよ」
「いや、流石にそれは無理だろう。無理はいけない。そうだな、代官亭に怪我人を集めるから、そこで診てくれるか」
「怪我してる人を移動させるのも大変でしょ。ここで治しちゃうよ」
そういうと、壁にもたれたり、寝かされている冒険者のところに行って、一人ずつ治癒を行なった。
全部で7人いたが、あっという間に治癒を終わらせてしまった。
冒険者たちは大喜びだ。
「ものすごい腕だな」
「ええ、ここまでとは思いませんでした」
グインとスウリが驚いて言う。
美羽が、建物の中をのぞくと、300人くらいの人でひしめいていた。
グインに問いかける。
「中の人たちも怪我している人いるみたいだけど」
「彼らは街の住人で、冒険者じゃないからな。ギルドが負担することはできないが、自費で受けたいと言う者がいたら、直してもらっていいか?」
「いいよ」
「じゃあ、声かけるな」
グインがギルド全体に聞こえるような大声で話し始める。
「街の皆さん、聞いてくれ。ゴブリンどもはこの子、ミウが殲滅してくれた」
すると、驚く街の人々。
「こんな小さな子が?」
「本当なのか?」
「それじゃあ、助かったのね」
「ありがとう」
300人が口々に言うから、何言ってるかよくわからないが、ゴブリンの脅威が去って、ほっとしているようだ。
グインが続ける。
「それで、怪我人もいると思うが、この美羽が銀貨1枚で直してくれるそうだ。腕は今確認したから、確かだぞ」
すると、明らかに不満そうな顔をした男が抗議する。
「なんだよ、金取るのかよ。俺たちは襲われた被害者だぞ。それぐらいタダで治してくれ」
「そうだ、そうだ」
「がめつい子供め」
「親の顔が見たいぜ」
「黙ってなおしゃあいいんだよ。早く治しやがれ」
「タダで治せ」
文句が思った以上に上がった。
子供だと思って舐めているようだ。
「きんちゃん、今言った人達覚えておける?」
「バッチリ記憶済みです」
「ありがと。きんちゃん」
あまりの勝手な言い草に、怒りで肩を振るわせているスウリに美羽が声をかける。
「スウリちゃん、ここはいらないみたいだから、今度は教会に行こうか?」
「ああ、そうしよう」
背を向ける、二人に罵声がかけられる。
イライラする二人は、足早に去ろうとすると、
「お金は払いますから、どうか治してください!」
そう言われたので、そちらをみると、30代くらいの女性がいた。
「うちの子を、どうかうちの子を治してください」
「いいよ」
美羽はにっこりと笑った。
女性についていくと、10歳くらいの男の子で、全身に何箇所も刺し傷があった。
苦しそうに呼吸をしている。
ここまでよく持っていた。ほっといたらすぐに死んでしまうだろう。
美羽は、素早く男の子のそばにより、治癒を使った。
桜色の光が溢れ、男の子に集まっていく。
その光に包まれて、それが消えると男の子の傷は1つも残らず治っていた。
今は穏やかに呼吸をしている。
「ああ、ああ、ありがとうございます」
「おお、奇跡だ」
「こんなにすごいなんて」
母親から、銀貨を受け取ると、その場を離れようとする美羽の前に立ちはだかる人がいる。
先ほど文句を言っていた連中だ。
スウリが吠える。
「なんだ貴様ら! 道を開けろ」
「そのガキをよこせ!俺は怪我をしているんだ」
「そうだ! 早く治せ」
先ほどは我慢をしていたが、美羽は大人の悪意に弱い。
ガタガタと体を振るわせ恐怖する。
その様子を見て調子に乗った住人たちが手を伸ばし美羽を掴んでくる。
「おら、早く治せよ」
「こっち来い」
「きゃー」
「待て、貴様ら」
強引に引っ張る住人。悲鳴をあげる美羽、それを止めようとするが住民に遮られて、身動きが取れないスウリ。
美羽は、床に投げられた。
「痛い!」
顔を上げると、住人たちの酷薄な顔が美羽を取り囲んでいた。
口々に早く治せと迫ってくる。
美羽は見ないように耳を抑え、下を向いた。
涙がこぼれ、床にシミを作る。
1人が手を伸ばしてきた時、グサっとその手に針が刺さった。
美羽の頭の上にきたきんちゃんが美羽がいる真下を除いて、全身から、1メートルほどの無数の針を生やしていた。
ちょうど、針の長いハリセンボンのようだった。
「いてええええ」
「それ以上近づくと、この針で全身に穴が開きますよ」
「や、やばいぞこれ」
きんちゃんは続ける。
「スウリさん、グインさん、何しているのですか? 早くこいつらを追っ払わないと、私が全員殺しますよ」
「すまん」
「おう、冒険者ども、こいつらを拘束しろ」
「「「「「「おう!」」」」」」
不満を言っていた住人たちを冒険者が拘束した。
まだ下を向いていた美羽にきんちゃんが声をかける。
「美羽様、もう大丈夫ですよ」
「きんちゃーん、怖かったよぉ」
「申し訳ありません。住人を傷つけていいかどうか判断に迷いました」
そこに、先ほど治癒した子の母親が近づいてくる。
「ごめんね。あいつらが。あいつらは普段から素行が悪いんだよ。この街の住人みんながそうと言うわけじゃないんだよ」
そう言って、抱きしめてきた。
美羽は、ほっとして泣き出した。
「うえーん、嫌だったよう」
「そうねぇ、ごめんね」
美羽はしばらく女性の胸を借りて泣いた。
(やっぱり、男は怖いよぉ)




