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奇跡

 その時、薄れていく意識の中、廊下から何かが走る音が聞こえた。耳がぴくっと動く。その音は段々と近づいてくる。すると、バンッと扉を破る大きな音がした。

 ふと上を見上げると、白い大きな生き物が宙を舞っていた。

 それは・・・白い大きな犬だった。

 恐らく僕だけではなく、ここにいる全ての猫が思っていたであろう。猫のいざこざに犬が介入することは、絶対にない。しかし、いま、その常識が覆された。

 よく見ると、その犬は天音。背中には松虫が乗っている。


「・・・え」 


 松虫はちらりと僕の方を見た。


「よく耐えたな、山田電機!」


 その言葉と同時に、右京、左京が部屋に駆けこんできた。

 右京と左京はあっという間に、ウルフキャットと向かい合った。身体の大きさはほぼ同じ。猫の爪と犬の牙が相対する。まず、ウルフキャットが飛び掛かった。

 四匹のウルフキャットに対して、右京と左京は互角・・・いや、それ以上だった。犬の牙の力にウルフキャットたちは明らかに苦戦していた。

 その隙に天音は花音のもとに駆け寄った。

 優しく首の根を噛んで京極様のもとへと運んだ。


「観音町の犬か? 何故・・・」


 京極様でさえ唖然としていた。

 花音の代わりに松虫が説明した。


「スフィンクスに襲われる前・・・観音様が交渉していたようです。自分に何かあれば、一度だけ力を貸して欲しいと」

「爺が・・・」


 京極様は一瞬、言葉に詰まった。

 しかし、すぐにゆっくりと前に向かって歩き始めた。ウルフキャットは右京と左京が相手をしていて、完全に動きを封じられていた。

 京極様の後ろには天音、カオマニーと続いていた。相対するのは・・・徳川家と観月様だ。


「さて、どうする?」


 京極様はゆっくりと歩き続けた。


「勘違いするなよ、京極」


 観月様が呟いた。


「本気で徳川家とやり合うつもりか? 犬の協力は想定外だが・・・もはや、お主、一匹でこれから何が出来る?」


 その時、すっと何匹かの猫が部屋に入ってきた。


「いや、俺たちもいる」


 まず、オロチが部屋に入ってきた。続くのは五郎丸、外資系、雲龍殿だった。途中、遅れた観音町の猫たちも後ろに続いていた。


「と、いうことだ」


 京極様はじっと観月様を睨んだままだった。

 観月様は言葉を返せず、ちらりと徳川家の方を見た。

 徳川家は、まるで他人事のように部屋の中を見回していた。


「・・・退け」


 その言葉と同時に、ウルフキャット、観月様、徳川家は一斉に部屋から去っていった。

 沢山の血が流れたのに、終わるときは意外とあっけなかった。

 安心したと同時に、急に身体から力が抜け、眠くなってきた。僕はそのまま床に横になった。オロチ、五郎丸、外資系、雲龍殿の姿が目に入った。

 でも、教授の姿はそこにはなかった・・・。


「あの、教授は・・・?」


 誰も何も言わなかった。

 でも、オロチだけが僕のことを見ていた。

 何かを言っていた気がするが、眠気の方が増して、僕は目を瞑ってしまった。

 こうして、僕たちの戦争は一旦、終わることになった。


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