京極様
冷たく重たい空気が、ぐっと身体に向かってきた。外は太陽がのぼっているのに、この部屋だけは、まるで時間に取り残されたかのように、暗く重たい。
部屋の中を見回す。
まず・・・京極様の姿が見えた。
京極様は恐らく立っているのがやっとのだろうか、全身は赤い血に塗れている。
カオマニーの四兄弟は、部屋の隅で血を流して横たわっていた。白い毛並みは鮮血に染まり、動くことすら叶わぬような状況だった。
部屋の一番奥には猫の王様であるペルシャ猫・・・徳川家がいた。すぐ手前には観月様がいる。
徳川家、観月様の周囲には護衛なのか、スフィンクスの身体を何倍かに大きくしたような猫が四匹いた。
その猫たちは・・・ウルフキャット。狼のような毛並みで、まるで犬のように体格が、がっしりとしていて、大きく鋭い爪を持っている。
「・・・観音町の猫、か」
観月様はじっと僕のことを睨んだ。
ウルフキャットたちが僕に向かって、ゆっくりと歩いてきた。猫ではなく、まるで別の生き物のようだった。
僕は恐怖で動けなかった。
言葉さえ発することが出来ず、ただ震えていた。
その時、京極様がすっと僕の目の前に出た。
「・・・京極様!?」
その瞬間、四匹のウルフキャットが京極様を囲み、次々と爪をかき立てた。京極様の身体から血が流れる。倒れそうになるが、何とか足に力を入れてその場に踏みとどまった。
あの京極様がいま、苦しめられている・・・にわかに信じがたい。
そうだ、花音! 花音は無事なのか?
花音は部屋の奥のほうで転がっていた。
近くには観月様がいる。
観月様はかつては武闘派と言われていたが、いまは高齢だ。いま、この瞬間だったら花音を取り戻せるかもしれない。
僕は走った。
せめて、花音だけは今、助けたい。
「花音!」
花音は気を失っているのか、目を閉じたままだった。
しかし、ふと気が付くと、僕のすぐ後ろにウルフキャットがいた。あっという間に僕に追いつき、爪を立てた。
背中が燃えるように熱く、痛い。
気が付くと僕は倒れていた。
身体の毛が自分の血でじんわりと滲んでいくのが分かる。
ウルフキャットは前足で僕の身体を転がした。爪を立てて喉にすっと近づけた。
少し力を入れれば喉を引き裂ける。
怖い。鳴きたくても、もう、声が出ない。思わず目を瞑ってしまった。
その時、ドンっと音がした。
京極様がウルフキャットに思いきり体当たりをしたのだ。一瞬、ウルフキャットはぐらりと揺れたが、すぐに体勢を立て直し、逆に京極様の身体を横に引き裂いた。
また京極様の身体から血が流れた。
僕は倒れたまま、京極様を見上げた。
大量の血が流れているのに、京極様は倒れることなく、立ち続けている。
でも・・・ウルフキャットはまだ四匹もいる。しかも、全く傷がついていない。京極様やカオマニーたちでさえ、全く歯が立たないのか。




