花音
僕は横になったままだった。
ふと周りを見回すと、教授の寝床だけではなく、花音や僕の寝床も目に入った。
所々、まだ乾いた血の跡も残っている。
あの時、マムシたちに襲われて花音は傷を負った。僕たちは、花音を助けたくて必死で行動した。
血の跡は消えていない・・・。
その時、すっと何かが頭の中に降りてきた。
少し気にはなっていたが、深く考えることがなかった疑問の数々だ。
あの時、なぜマムシたち花音を狙ったのか。京極様と花音はよく似ている。そのことを言ったら教授はそんなことを軽々しく言うべきではないと怒った。
ぐるぐると頭が回り続ける。
最初は敵だったが五郎丸は花音を救うことに躊躇しなかった。
五条大橋でメインクーンは躊躇せずに橋の上から花音を狙った。オロチをそれをかばって深い傷を負っていた。
誰も何も教えてくれなかったけど、僕の中で、一つずつ、歯車がかみ合ってきた。
「・・・花音」
よく考えると今までの出来事は全て花音を中心に回っていた。
僕は今まで、自分の世界にこもって何も考えていなかった。これまではそれでよかった。でも、今は違う。僕はまだ・・・やることがある。花音がまだ生きている。花音は大切な存在・・・大事な仲間だ、僕はまだ諦める前にやることがある。
すると灰色の世界が少しずつ晴れてきた。
鴨川の水の音も聞こえる。徐々に手足に力が戻ってきた。
僕はふらふらしながらも、ゆっくりと立ち上がることが出来た。
思えば、今みたいに頭がぼーっとしている時、不思議な声が聞こえてきた。でも、もう何も聞こえない。教授もいない。僕は正真正銘、今、孤独だ。それでもいい。一歩ずつ足を前に出した。
知恩院の赤い鳥居は太陽に照らされて、堂々としていた。恐らくこの場所が右京に連れてきてもらった場所だ。
あの時は、スフィンクスの後をたどったので、どこをどう歩いたのか正直、覚えていない。微かな記憶を辿り、何となく僕は歩いた。
改めて訪れると知恩院の敷地は広くて、沢山建物がある。どこに徳川家がいるのか、全然、検討がつかなかった。
正直、身体は限界に近づきつつあった。
一つずつの建物を確かめる余裕はない。その時、スフィンクスに追い込まれた時のことを思い出した。
同じように血の跡、匂いを辿る。
するとぼんやりと道が浮かび上がっていた。




