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教授

 淡い期待はすぐに打ち砕かれた。

 ゆっくりとスフィンクスが屋上へ姿を現した。周囲を注意深く見回してる。目的は僕たちと逆だ。恐らく、僕たちが逃げる場所がないことを確認しているのだ。

 僕はもう、あたふたすることさえ出来なかった。どうするのが、一番良いのか。殺されるのを覚悟して戦うべきか、逃げられるわけもないのに、必死で駆けまわるか。

 どれも現実的ではない、と思った。

 屋上という檻の中でゆっくりとスフィンクスが近づいてきた。

 もう、どうしようもない。

 そう思った時、一つだけ策が浮かんだ。

 僕は教授に必死に説明した。


「スフィンクスは、最初に会った時から今まで、ずっと僕に因縁があります。だとしたら奴の狙いは僕しかない」


 認めたくないけど、それは事実だ。


「だったら、僕はここを引き受けます。教授は京極様のもとに」 


 スフィンクスが段々近づいてくる。もう、迷うことは出来ない。身体が震える。いま、僕の決断は、本当に正しいのか。正直、スフィンクスを引き受けたくない。でも、これしか方法がない。

 その時、教授がぽつりと呟いた。


「本当に君は全く・・・」


 いつも教授は僕に呆れ果てていたけれども、今の言葉はこれまでで一番、優しい言い方だった。

 教授はすっと僕の前に立って、ゆっくりとスフィンクスに向かって歩き始めた。


「どんどん成長する君を見ているのが本当に楽しかった」


 教授はふと、僕の方を振り向いた。


「君はずっと私を教授と呼んでくれたな。でもな、教えられていたのはいつも私の方だ。ありがとう」

 教授は僕の方をみて、くっと笑った。


 猫眼鏡の模様が今までで一番、大きく緩んだ。教授は今、鳴いているのか、笑っているのか、分からなかった。


「ちゃんと勉強するんだぞ、山田電機君」


 すると教授は猛然とスフィンクスに向かって、駆けて行った。スフィンクスはゆっくりと、教授に向かっていく。

 しかし、教授は一向に怯まなかった。

 教授は小細工することなく、全速力で走った。明らかにスフィンクスは虚をつかれた。


「おおおおーー!」


 教授が思い切り、スフィンクスに体当たりした。スフィンクスはよろつく。いや、その勢いで突き飛ばされ、宙をあがいていた。目は充血し、必死に手足をばたつかせている。それを見逃さず、教授はもう一度、全力で跳んで身体をぶつけた。スフィンクスは屋上の外へと飛ばされた。


「さ、さすが教授・・・」


 と思っていたが、すぐに嫌な予感がした。

 教授もまたスフィンクスを突き飛ばした勢いで全力で宙を跳んでいたからだ。


「教授! 教授!」


 僕はすぐに走り始めた。


「教授!?」


 僕は屋上の縁に向かって全力で走った。

 宙を舞う教授と一瞬、目が合った。

 何を言ってくれたのか分からない。

 そんな余裕がなかった。


「・・・教授」


 こういう時、僕は目を閉じてしまう。これもまた哀しき猫の習性だ。


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