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弱者の戦い方

 教授と僕は八番出口を必死に駆け上がった。スフィンクスは少し後ろについてきている。

 出口を出るとすぐに交差点があった。僕は何も考えずに走り出した。


「危ないぞ!」


 教授が叫んだ。同時に車が怒り狂った叫び声のような騒音を出して僕のことを威嚇した。

 僕は沢山の車に囲まれていた。これはどういう状態なのか、さっぱり分からない。

 教授がすぐに並走してくれた。


「そのまま走るぞ」


 気が付くと後ろの交差点では、沢山の車が再び走り始めていた。


「赤信号の時は横断歩道を渡ってはいけないのだよ、山田電機君」


 なるほど、道路にあった変な機械がそのことか。


「まあ、いい・・・おかげでスフィンクスを撒く時間ができそうだ」


 僕と教授は、信号が赤の間に路地を何度か曲がって、高い建物の外側に備え付けられている階段を少しあがって身を隠した。

 その階段は周囲から見えない位置にある。

 ここだったら、大丈夫であろう。このまま、しばらく隠れていたら、スフィンクスは諦めて帰るはずだ。

 ようやく、少しだけ落ち着いた気がした。

 教授は注意深く周囲を伺っていた。さすがだ、こういう時でも警戒を怠らない。僕は散々走り続けたせいか、少し眠くなってきた。


「なあ、山田電機君」


 僕を起こすためなのか、教授が声をかけてきた。


「私たちは何でこんなに弱いのだろうな」


 急に眠気が冷めた。

 まずい、何かおかしいと思っていたが、いま、教授は弱気になってる。だから、時々、ぼおってしていたし、今も突然、変なことを言い出す。


「教授、僕たちが弱いことなんて分かりきってます。だからこそ、死に物狂いで手をつくさないと。現にその方法でこれまで何とかなってきたではないですか?」

「そうだ、その通りなのだ。ずっと考えてた。私は、今回の戦争で学んだことがある」


 急に教授の目が輝き始めた。


「私たちは弱い。しかし、弱いものなりの戦い方というのもあるのではないだろうか?」


 教授はまるで今、観音町にいるかのように、僕に向かって授業を始めた。


「今回の戦争で私たちは名だたる猫たちの力を借りた。最初は、戦争という現実を受け入れることが出来なかったが、徐々に徳川家に抗うことができた」


 教授の猫眼鏡の模様がぴくりと動いた。


「天龍様の知恵、京極様の勇気、オロチ殿の行動力・・・手がかりはこれらにあると思うのだよ」

「知恵と勇気と行動力・・・ですか」

「戦争は起きたらなかなか止められない」


 僕はじっと黙っていた。


「しかし、弱い猫だからこそ、出来ることってあるのではないだろうか?」


 無視をしていたわけではない。必死に考えていた。教授の話は、やはり難しい。今まではそこで考えるのを諦めていた。でも、今は違う。今、この瞬間の教授の言葉を何とか僕は引き継がないといけない。直感的に、そう思った。


「ありがとうございます。教授・・・その通りだと思います。僕はまだ戦えそうな気がします」

「その心意気だ、山田電機君」


 教授の髭が優しく揺れた。

 その時、ドンッ! という強烈な音がした。

 僕の耳がぴくっと反応した。

 乾いた朝の空気が揺れて、ギギギと扉が開く嫌な音がした。

 教授と僕は、恐らくほぼ同時に唾を飲み込んだ。スフィンクスはさっきの交差点で完全に僕たちのことを見失っていたはず。この場所は絶対にバレるはずがない。

 バタンと扉が閉まる音がした。一瞬、静かになるが、ずず・・・ずずず・・・と何者かが恐らくすぐ近くでウロウロしている物音が感じられた。

 僕は落ち着くために、息を吸って周囲を観察した。特に異常はない、教授は疲れ切っていて、毛は乱れて、手足からは血を流している。それは僕も同じだった。

 ・・・いや、待てよ。

 嫌な気がした。僕と教授の共通点は観音町からここまでずっと走り続けて、手足は血だらけなこと。だとしたら、地面に落ちた血、匂いで追跡することは可能ではないか・・・。

 僕は教授の方を見た。教授もまた僕のことを見ていた。恐らく同じことを考えていたような気がする。


「逃げましょう、上へ」


 僕と教授はスフィンクスの姿を確認することなく、階段を上へ上へと駆け上がった。


 外から見た時はどれだけ高い建物か分からなかったが、階段をあがるについて、段々と実感が沸いてきた。

 ちらりと下を見ると最初は海かと思っていた鴨川は、煮干しみたいに小さく見える。

 道路を走ってる車や、人間たちはもっと小さい。まるで、米粒のようだった。

 一体、どれくらの階段を登っただろうか。

 僕たちは観音寺の敷地ぐらいの広さの建物の屋上へたどり着いた。

 周囲には身を隠すようなところは何もない。

 強烈な風が吹いてきた。ぼやぼやしていると身体が風にもっていかれそうになる。

 必死に逃げ場所を探すが、どうしても見当たらない。教授もまた、同じ気持ちなのか、どこか覚悟を決めたような表情をしていた。

 自慢の猫眼鏡の模様が何度もぴくぴくと動いていた。

 僕たちは、この建物の中でスフィンクスの姿は一度も確認していない。出来れば勘違いだった、と思いたい。いま、ここでスフィンクスに相対すれば、逃げ場がない。まさに最悪だ。

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