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天龍の策

 鴨川の東から徐々に太陽が登ってきた。

 夕焼けの色はどこか寂しいけれど、朝、東から登る太陽の色は、力強さを感じた。無言で背中を押してもらえる。まだ、僕たちは走れる。

 すると対岸の河原で同じように走っている猫の集団がいた。


「・・・徳川家か」


 オロチが呟いた。京極様は走りながらじっと対岸を睨んでいる。

 ついに追いついた・・・。正直、もう手足の感覚は麻痺している。でも、まだもう少しだけなら頑張れる気がする。

 同時に、河原を走っていると西側の道路から一匹の猫が駆けてきた。


「申し訳ございません、遅くなりました」

「・・・雲龍か」


 京極様が走りながら、ちらりと雲龍殿を見た。


「天龍様と策を講じておりました。走りながらですが、失礼いたします」

「よい、早く言え」

「天龍様の読みでは、徳川家は必ず囮を使う。いま対岸に見えているのは足止めのための集団の囮。恐らく、我々が追ってくることは想定の範囲内」

「であれば、観月は、さらに、あの先にいるということか?」

「その通りです。恐らくその先もある。徳川家は恐らく観月を知恩院まで確実に届けることに固執しているかと」

「よく分かった」


 京極様の猫が一瞬、ごろっと鳴った。


「狙いは観月・・・しかし、邪魔する輩は徹底的に叩けということで、良いのだな?」


 雲龍殿は頷いた。


「それともう一つ、気になっていることが」

「何だ?」

「天龍様いわく、奴らの真の狙いは恐らく・・・しろがねの猫。であれば少し厄介なことになるかと」

「分かっている」


 京極様は雲龍殿の言葉を遮るように口を開いた。


「だからこそ、奴らを今、ここで止める必要がある」


 早朝の太陽が白い宝石と言われるカオマニーの毛並みを照らす。

 カオマニーの四兄弟が走る速度は、明らかに今まで以上に速くなった。恐らく、これまではかなり抑えていたのだろう。まるで今までは、準備運動にすぎなかったというほどだ。

 カオマニーたちは、対岸にいる猫の集団、ただそれだけに意識を集中していた。京極様もじっと相手の様子を観察している。


「・・・行け、ここだ」


 京極様がぽつりと呟いた。

 その瞬間、カオマニーたちは鴨川に向かって、突っ込んでいった。川の水量が少なく、また岩場が何箇所かあり、全力で跳べば何とか届くという間隔だった。

 カオマニーと京極様は何なく岩場を跳んでいく。オロチ、五郎丸も続いて行った。少し距離があいて、外資系、花音、教授、僕が川に突っ込んだ。


「臆するな。全力で走って、跳べ!」


 走りながら五郎丸が叫んだ。僕たちはさらに走る速度を早めた。足がちぎれそうだ。川を渡るには岩場は五箇所ほどある。細かく距離を測る余裕はない。五郎丸の言葉の通り、全力で走り、とにかく跳んだ。まずは何とか一つ目の岩場に乗る。問題は、それ以降だ。ロクに助走をつけられない。ふと、目の前で外資系が二つ目の岩場に向かって跳んだ。着地した時の反動を利用して、勢いを殺さずに次の岩場へと跳んでいく。猫の運動神経が成せる技だ。くやしいけど外資系は、運動能力が高い。花音、教授、僕は外資系の動きを真似して、三つ目、四つ目の岩場を跳んでいく。

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