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観音町の総意

 観音寺の境内のススキが揺れていた。

 月明りによって照らされたススキはまるで何かの意思を持つようにざわざわと騒いでいた。

 以前、観音町の由来を聞いたことがある。

 境内が夕日に照らされた時、黄金色に染められたススキが極楽浄土を連想させることから観音町と呼ばれているらしい。

 極楽浄土というものを見たことはないが、今、目の前に繰り広げられている月明りに照らされたススキを見ていると、これが極楽浄土なのかもしれない、と納得してしまうほど、不思議な雰囲気があった。


 京極様が境内から降りてきた。カオマニーの四兄弟がその後に続く。京極様とカオマニーはススキの原を割って、無言で歩いていた。すっと一匹の猫が京極様の前に立った。


「俺も共に行く」

「オロチ・・・お主は京都の猫ではないであろう」


 京極様の言葉にオロチは毅然と答えた。


「・・・観月が裏切ったのであろう? 奴はもともとはマムシの一味。俺には奴の暴走を止める責任がある」


 オロチは「それに」と言葉を繋いだ。


「観音町の爺には恩がある。京極・・・お主が一番、分かっていると思うが」


 京極様はオロチのことをじっと見ていた。言葉は発しないが、互いに通じるものがあるのだろうか。京極様はオロチの言葉を否定することはなく、ただ黙っていた。


「京極様」


 オロチの行動に呼応するかのように、今度は五郎丸が一歩、前に進んだ。

 京極様はじっと五郎丸のことを見ているだけだった。


「・・・京極様、これまでのこと、弁解するつもりはありません。罰は甘んじて受けます」


 五郎丸の自慢の前髪がゆっくりと揺れた。


「しかし、この状況下・・・最後にもう一度、京極様のもとで働かせてもらえないでしょうか?」


 京極様は五郎丸の目をじっと見ていた。


「お主の出自・・・重なる事情があったとはいえ、隠し続けたことは申し訳なく思っている」


 気のせいか、五郎丸は少し震えていた。


「だが、その話は後だ。本気でわらわにもう一度、仕える気があるなら、死ぬ気でついてこい」


 五郎丸は尻尾を大きく縦に揺らした。。


「有難き・・・」


 それ以上、言葉が出ず、ずっと震えていた。


「京極様、私たちも行かせてください」


 花音もまた、毅然と口を開いた。

 いつの間にか、花音の背後には傷ついた観音町の猫たちが立ち上がり、集まっていた。もちろん、その中には教授や僕も含まれている。ふと周囲を見回すと外資系もまた、立ち上がっていた。

 その数は十数匹にも及んでいた。


「・・・京極様、これが観音町の総意です」

「そなたたちには敬意を表する」


 京極様の言葉に観音町の猫たちの毛がざわざわと揺れた。


「だが、無理はするな。走れるものだけがついてこい」


 そんな言葉に呼応するかのように、今までぐったりしていた松虫がよろよろと立ち上がった。


「だったら、自分も・・・」


 松虫は自力で立っているのがやっとのようだった。


「・・・松虫、お主はこの場で待機しろ」

「でも・・・自分はまだ何もお役に立てていない」


 松虫は恐らく今、立っているのがやっと、という状況。それなのに、まだ京極様のために働こうとしている。僕は少し驚いた。 


「勘違いするなよ、松虫」


 京極様の視線が少し厳しくなった。


「・・・身体は動かぬとも、今ここで出来ることを自分で考えろ」


 さすがにそれは厳しすぎるのではないか、と僕は思ったが松虫は「わかりました」と素直に頷いていた。

 松虫にとっては京極様の厳しさもまた優しさの一つなのだと何となく理解した。

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