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駅長、再び

 外に出るとさっきまで、頭の真上にあった太陽は少しずつ地上へと落ちてきていた。嵐山の駅は相変わらず沢山人がいたが、駅長はすぐに見つかった。ぶかぶかの服を着ながら、椅子に座って寝ている。仰向けになって腹を出しており、まるで寝るのも仕事のうち、と言わんばかり堂々とした寝方だった。僕は駅長を起こさぬよう、恐る恐る近づいた。しかし、駅長はむくっと起き上がった。


「・・・ようやく来たか」


 まるで僕がここに来るのを分かっていたかのような口ぶりだった。凄い凄すぎる。さすが、電車の申し子だ。


「待ちわびたぞ。で、オロチの件はうまくいったのか?」

「ええ、それが。色々と厄介なことがありまして・・・」


 僕はオロチが檻から出てしまったこと。エルフキャットの襲撃のこと。オロチと五郎丸の関係、観月様が今回の戦争の糸を引いていて、いま、まさに観音町が危ないということを説明した。もちろん、僕がオロチを檻から出したということは隠して、話をした。


「これから僕たちは桂川を下って観音町に向かいます。駅長には京極様に、このいきさつをお伝えいただきたいのです」


 駅長は僕の話を黙って聞いていた。話し終えた後でも黙って、喉をごろごろと鳴らしていた。きっと僕では想像できないようなことを考えているのであろう。しかし、そのうち駅長はうとうとし始めた。まさか眠っているわけではないだろう。僕はそっと声をかけた。


「駅長・・・駅長・・・」


 すると駅長は何事もなかったかのように目を開いた。


「にわかに信じがたいが、なかなか大変なことが起こっているようだな」

「ええ、観音町の危機ですが・・・僕は最後まで戦うつもりですよ」


 本当は今すぐにでも嵐山電車に乗って逃げたいが駅長の前だと、つい、いい格好をしてしまう。しかし、駅長は相変わらず難しい顔のままだった。


「あの、何か僕はまたまずいことを言ってしまったのでしょうか?」


 恐る恐る尋ねた。すると駅長はゆっくりと口を開いた。


「・・・うむ、実は気になる噂があってな」


 心なしか駅長はきょろきょろと周囲の様子を気にしているようだった。


「・・・どうも嵐山電車の終点の四条界隈で、巨大な猫の目撃情報が多発しているらしい。そいつは無差別に猫を襲い続けているという」


 駅長は今度ははっきりと言い切った。


「噂では、その猫は『オロチ』ではないか、と言われている」

「え、オロチ・・・」


 そんなはずがない。オロチは天龍寺にずっと隔離されていた。僕は実際にその目で見たのだ。


「分かってる。恐らく本物ではない。しかし、いま四条界隈の猫は恐怖で震えあがっている」


 恐らくその猫は偽物・・・。でも、いま、何のために現れたのか。本物のオロチとは関係があるのだろうか。分からないことが多すぎて頭が痛くなってきた。


「観音町の件・・・皆、不安に思っている。そのせいか今、不穏な空気が京都を覆っている。諸々、京極様にはお伝えしておく。お主たちも、用心するには越したことはない。無事を願っている」


 駅長はそう言い終えると、駅のホームに向かって歩き始めた。


「あの、駅長!」


 僕はつい、声をかけてしまった。駅長はゆっくりと振り返った。

「無事、戻ってきたら、また電車の話をしてくれませんか? 僕はまだまだ沢山、お話したいことがあるのです」


 駅長は「みゃあ」と鳴いて、ずるずると制服を引きずりながら歩いていった。

 時々、服に手足が取られて転びそうになっているが、その後ろ姿はいつもより数段と大きく見えた。何て格好いいのであろう。やはり、僕の目指すべき場所はここなのだ、と決意を新たにした。

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