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オロチと五郎丸

 五郎丸は一瞬、面くらったような表情だったがすぐに目の前のオロチを敵対視した。


「・・・信用できません」

「そうか」

「父は京極様に殺された。そう思い込み、復讐を企ててきた。これまで、ずっと。それが生きがいだった」


 五郎丸はオロチを睨みつけていた。


「生きていたら、何故それを教えてくれなかったのです?」


 五郎丸は震えていた。全身の毛、尻尾の毛までも逆立っている。今にもオロチに襲いかかってもおかしくないほど、気が立っている。

 しかし、オロチは何も答えなかった。


「・・・観月は今は観音町の猫なのか?」


 突然、オロチが花音に尋ねた。


「え、ああ、はい。私が物心についたときには既にいらっしゃったと思います」


 オロチは目を閉じて、じっと何かを考えていた。その瞬間、五郎丸はオロチを襲うこともできたが、じっと耐えているようだった。

 ゆっくりとオロチは目を開いた。


「・・・観月はかつてはマムシの軍師だった。それがいま、観音町にいて、マムシたちは花音たちを襲っている。何かおかしいと思わないか?」

「どういうことでしょうか?」


 花音が恐る恐る尋ねた。


「・・・五郎丸の話と総合すると・・・つまり、観月は裏切者」


 オロチの言葉に、花音、教授、僕はようやく理解した。観月様は最初から徳川家と通じていた。故に密談を聞いた外資系を始末した。


「しかし、分からぬのは観月の狙いだ。祇園で京極を襲ったと思えば、嵐山にまで徳川家の猫を送って俺たちを狙っている」


 オロチは考え込んでいた。


「どう思う・・・天龍の猫」


 オロチの言葉に雲龍殿が口を開いた。


「話は聞かせてもらいました。なかなか、興味深い」


 雲龍殿は花音、教授、僕に向かって話かけていた。


「結論から申しますと観音町が危ない。今すぐ戻った方がいい」

「どういうことでしょうか?」


 花音は思わず声をあげた。


「観音町が狙いであれば、襲う機会はいくらでもあったはず・・・故にわざわざ宣戦布告をしたのは明らかに徳川家の作戦と考えられます」


 雲龍殿は静かに言葉を続ける。


「徳川家にとっては京極様が動くことが一番避けたいこと。あの方は一を百にも千にもする力がある」


 オロチの毛がゆっくりと揺れた。


「花音殿たちがいずれ京極様を頼ることは想定していたのでしょう。そこでマムシを利用すれば京極様の注意はオロチ殿に向かう」


 雲龍殿はじっと花音を見ていた。


「つまりこれまでの行動は京極様とオロチ殿をその場に留めさせるための時間稼ぎ。その間に確実に観音町を獲る。それが狙いかと」

「確かに筋は通っているな」


 オロチは腑に落ちたような態度だった。でも、僕はどこかもやもやしていた。


「しかし、そこまで手のこんだことをしてまで、観音町の縄張りが欲しいということなのでしょうか?」


 思わず僕は声をあげてしまった。


「・・・徳川家の真の目的は私もまだ分かりません。縄張りかもしれないし、別の狙いがあるかもしれない。でも、今すべき行動は明確です」


 雲龍殿はちらりと花音を見た。


「すぐに観音町に戻りましょう」


 花音は声をあげた。


「教授、山田電機クン」

「もちろんですとも」


 教授は力強く頷いた。僕も慌てて全力で尻尾を縦に振った。


「・・・松虫クン、ここまでありがとう。本当に助かりました」


 花音は優しく尻尾で松虫の身体を撫でた。

 すると急に松虫はもじもじ、しだした。


「べ、別に観音町まで案内してやってもいいんだぜ。あんたらだけで迷わずに行けるか心配だからよ」

「え、ありがとう。本当に心強い、松虫クン」


 松虫は身体がよじれるのではないか、と思うくらい、もじもじしていた。


「・・・俺も行こう」


 オロチが、他人事かのように呟いた。


「観月がマムシを騙しているのであれば、止める必要がある。かつて仲間だった猫たちだ」


 花音は驚いて口を開けてぽかんとしていた。


「あ、ありがとうございます」

「勘違いするな。お主たちのためではない」

「では、私も行きます」


 続いて、五郎丸が声を上げた。

 五郎丸はじっとオロチを睨んで、


「まだ『オロチ殿』のことを信じた訳ではありません。それにオロチ殿と観月はかつての仲間。裏切る可能性もなきにしもあらず」

「・・・勝手にしろ」


 オロチは五郎丸の挑発に乗ろうともしない。

 白と黒の模様だけではなく、強情な性格も似ているな、と僕は思った。最後に外資系が「くっ。まだ傷が癒えないけど、そこまで言うなら・・・」とか何とか言っていたが、残念ながら皆、それぞれ別のことを考えていて、特に反応がなかった。

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