外資系
相変わらずなのは外資系のほうだ。
僕は外資系が生きていたという喜びよりも息をするたびに嫌味を言い続ける性格の悪さに心底、呆れていた。もしかしたら不思議な声がさっき言っていた『気をつけろ』という忠告はこのことか。まぁ、そんなことを言われても気をつけようもないのだが。
五郎丸はオロチを追ってきた。外資系はなぜか五郎丸と行動を共にしている。この奇妙な関係はどうやって築かれたのであろうか。
そんな僕の疑問と呼応するように花音は同じ質問を外資系にした。
「五郎丸はなぜオロチ殿を追っているの? 外資系さんは何で一緒にいる・・・いや、徳川家でみたときはあんなに傷を負っていたのに、どうやって今、ここに?」
花音の言葉に、まず五郎丸が応じた。
「そうだな。まず、説明をしよう。その後、こちらからも確認したいことがある」
五郎丸の言葉に外資系が頷いた。
「分かりました」
ようやく外資系の口から今回の経緯が語られようとしていた。
「それでは自分の方から、説明させていただきます」
外資系は、まるで自分が全ての真相を知っているかの口調で話をし始めた。僕は正直、イライラしていた。しかし、外資系の話は確かに今回の戦争のきっかけに関する重要な話だった。大きな歯車が、かちかちと一つずつ、はまっていくような不気味な音がどこからか聞こえた。
「・・・自分が徳川家に襲われたのは、ある密談を聞いたからです」
外資系いわく、異変を感じたのは花音が知恩院への選抜隊の立候補を募ったときのことだった。
「正直言うと、最初から観音町のために動くつもりは毛頭なかった。あの徳川家とのコネクションを何とかつくりたい、それしか思っていなかった」
外資系らしい、と思った。しかし、いまここでそれを責めてもしょうがない。僕は黙っていた。
「何かネタがないか、と思って観音寺周辺をウロウロしていたところ、観月様が野猫を集めて何かを話していました」
観月様は観音様に次ぐナンバー2だ。かつて捨て猫で、いまは観音町の野猫のボスである。よぼよぼしているが、目つきだけはどの猫よりも厳しい。
「そこで観月様は『オロチは今も生きている』『観音はオロチを必ず利用するはず』と何度も言っていた。オロチとは確か、かつて京都を震えあがらせた猫。よく分からないけれど、観月様が言うなら恐らく重要な情報。それを土産に徳川家にいった・・・後はみんなの知っての通りです」
外資系は自暴自棄に笑った。
「観月様か・・・今回の件の戦争の件では、あまり前面に出てなかったが何か考えが、あるのだろうか?」
教授の言葉に花音は首を横に振った。
「観月様の件は私もよくわからない、聞いてもはぐらかされることが多い・・・ちなみに五郎丸と外資系が一緒にここに来た理由は?」
今度は花音が口を開いた。
「・・・ここからは私が説明しよう」
五郎丸の立派な尻尾が大きく揺れた。相変わらず堂々として力強い。
「この白黒のまだらの毛並み、いい覚えをしたことはない。いつも偏見の目で見られ、時には理由なく襲われることもあった。実の親の記憶は曖昧だ。私は戦場に捨てられていた、と聞いていた」
五郎丸は何十回と話をしたかのような慣れた口調だった。
「私は戦場で拾われ、幼き頃から京極様に育てられた。しかし、この毛並み、白黒のまだらの模様は何故か周囲に不快感を与えた。私はいつも周りの猫から距離をとられ、ずっと孤独だった」
気のせいか、五郎丸の白と黒のまだらの模様がぞわっと揺れた。
「父の存在はうる覚えだった。しかし、ある猫から昔のことを教えられた・・・観月殿だ」
偶然だろうか、また観月様の名前が出てきた。横では、うむむと教授の髭がぴくぴくと動いている。
「・・・いわく、私の父はオロチ。毛並みの色は私と瓜二つ。野猫を忌み嫌う猫たちと徹底的に対抗する英雄だったという。しかし、父は京極様に殺された。そこで私はぼんやり、と思い出した。いい思い出ではない。幼き頃から何者かに迫害され続けてきた記憶だ。ロクに餌にありつけず、どこかの縄張りを歩いているだけで暴力を受けてきた」
五郎丸の父が・・・オロチ? 観月様がそれを五郎丸に教えた? 何のために? 僕、花音、教授は尻尾を動かすことすら忘れて、ぽかんと口を開けたままだった。オロチは無表情のまま何を考えているのか分からない。五郎丸はそんなに僕たちに構うことなく、説明を続けた。
「・・・その後しばらくして、徳川家に出入りするようになった。観月殿からはいかに野猫が迫害されてきたか、という歴史を教わった。私も、この毛並みが理由で過去に迫害されてきた。見知らぬ土地を歩くと理由なく襲われ、食べ物を奪われる。観月殿から散々聞かされた理不尽な歴史に怒りを覚え・・・憎しみは京極様に向かった。父を殺した京極様に復讐する、それが生きる目的となっていた。ボンベイなどとも会い、共に策を練った。しかし、先日、傷を負って放置されていた猫を偶然見つけた」
外資系はまるで自分の手柄かのように声をあげた。
「補足すると、これが自分ですわ」
「ああ、そうだ。見捨ててはおけぬ。手当したら、いわく、オロチ・・・つまり父が生きているという。
今まで散々話を聞いていた観月殿の話と食い違う。だが、外資系殿は嘘を言っているような感じではない」
五郎丸は、どこかイライラとしていた。
「・・・つまり、私は真偽を確かめるために、ここに来た」
五郎丸はじっとオロチを睨みつけた。
「あなたはオロチ・・・私の父ですか?」
オロチは黙っている。よく見ると五郎丸は白と黒のまだら模様。オロチは身体半分が白、もう半分が黒。よく似ているといえば似ている。
「・・・ああ、そうだ」
オロチはまるで他人事かのように、あっさりと認めた。




