逆襲の猫
その時、雲龍殿がシャーと甲高い声で鳴いた。同時に竹林がざわざわと揺れた。風ではない。何かが細かく動き回っている。
「花音、松虫・・・?」
同時に雲龍殿も動いた。
エルフキャットが姿を現した瞬間に、同時に狙う。まるで事前に申し合わせていたような動きだった。
「・・・ほぉ。これを狙っていたのか」
エルフキャットはぎりぎり花音と松虫の爪をかわした。しかし、雲龍殿はその隙を逃さず、エルフキャットを追い詰めた。竹林を利用して巧妙に逃げるエルフキャット、追う雲龍殿。お互い一進一退の攻防だった。僕たちはオロオロとその近くで傍観するしかなかった。
「オロチを囲め。なぶり殺せ」
エルフキャットが苛立ちながらマムシたちに命令をした。
その瞬間だった。
オロチが囮の場所からすっと出てきた。
「追い込まれているのは、お主のほうだぞ」
黒と白の独特の毛並み・・・オロチが竹林の壁を強引に突き破り、一瞬にしてエルフキャットの間合いを詰めた。同時に雲龍殿もエルフキャットの喉元を狙った。
エルフキャットは身体をくねらせて雲龍殿とオロチの一撃をかわす。その後も竹を利用して、雲龍殿とオロチの追撃をかわしていくが、徐々に追い込まれていた。竹の間を縫いながら、動けるマムシの数、雲龍殿、オロチとの距離感を観察している。
「・・・ったく、小賢しい」
状況が不利と判断したのか、少しずつ巧妙に距離をとっていく。やがてマムシと共にあっという間に姿を消していった。
まるで嵐の後のように静けさが戻る。風が吹き、竹が揺れる音がざわざわと聞こえる。
「・・・とりあえず、追い払えたんですかね?」
僕は恐る恐る、雲龍殿の方を見た。
雲龍殿は険しい表情を崩していなかった。
「約束通り、話聞かせてもらいますよ」
雲龍殿の言葉にオロチは黙っていた。
「おい。山田電機」
松虫が僕の背中をつんつんとしてきた。
「痛いな。何だよ」
「ぼやっとしてんじゃねえよ。オロチを檻から出した件、ちゃんと京極様に報告するからな」
「・・・勝手にしろ」
その後も松虫はぶつぶつと何か文句を言っていたが僕は聞いていなかった。確かにあの時、オロチを檻から出したのは僕だ。でも、その決断は間違っていなかったと思う。
いや、待てよ。本当に間違っていないのか、改めて問われたら分からない。断言はできない・・・そう思うと今更ながら不安になってきた。
そうだ、教授に相談に乗ってもらおう。しかし、教授はどこにいる? キョロキョロと見回すがどこにも姿が見当たらない。
「あ、そうだ。教授・・・」
花音が何かを思い出したかのように呟いた。視線の先には囮の場所に放置されている教授がいた。
エルフキャットとマムシが去ったのを知らないのか、不安そうに周囲をキョロキョロと見回している。
僕はすぐに教授のもとへ駆けて行った。
『・・・気をつけろよ』
「・・・え?」
僕は思わず足を止めた。『声』が聞こえたからだ。
「気をつけろって、何を?」
問いかけるが、それ以上は返答がなかった。やっと少し落ち着いたと思ったのに、また不穏な空気が漂ってきた。




