表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/93

オロチ

 その建物は周囲は木々に囲まれていて、天龍様の手下と思われる猫が守っていた。雲龍殿は松虫が首から下げている鍵を咥えて器用に操り、建物の扉を開けた。ぎぎぎ、と耳障りする音と共に冷たい空気が急に外に向かって流れてきた。

 僕は思わず震えてしまった。


「あの、オロチはこの建物のどこに・・・」

「奥に檻があります」


 建物の中は静まりかえっていた。それもそのはず、この中にはオロチしかないのだ、

 冷たい空気が漂う廊下を歩いていくと、その先に、檻があった。檻といっても、実質、大広間のような広さがあり、出入口だけ鍵がかかっていた。

 部屋の奥にはぼんやりと二つの小さな点のような光が浮かび上がっていた。恐らくオロチの眼であろう。

 オロチは僕たちが近づいても動じることなく、同じ場所から様子を伺っていた。


「・・・オロチ殿。お客です。何か聞きたいことがあるかと」


 雲龍殿の言葉と同時に、暗闇い浮かぶ二つの小さな点が近づいてきた。オロチの輪郭が少しずつ明らかになる。

 長く隔離されていた影響であろうか、全身の毛並みはまるで、野生の獣のように乱れていたが、不思議と暗闇に浮かぶ二つの目からは敵意のようなものは感じられなかった。

 花音を先頭に教授、僕、松虫がオロチがいる檻の前に並んで立っていた。オロチは僕たちのことをじっと観察していて言葉を発しなかった。耐えきれずにまず花音が言葉を発した。


「・・・観音町の花音と申します」


 オロチはじっと花音のことを見ていた。花音は威圧感に耐えながらも説明を続けた。

「徳川家が観音町に急に宣戦布告をしてきました。狙いが何かは分かりません。京極様に相談したところオロチ殿に助言を求めるようにということで参った次第です」


「・・・京極が、か」


 オロチは京極様の名前が出たところで初めて言葉を発した。部屋の中の空気がざわざわと揺れた気がした。 


「何か心当たりがおありなのでしょうか?」


 花音の質問にオロチは黙ったままだった。

 雲龍殿は何か異変があればすぐに動けるように臨戦態勢をとっていた。オロチはじっと何かを考えていたが、ぽつりと呟いた。


「天龍殿を呼んでくれ」

「なりませぬ」


 雲龍殿がすぐに身構えた。


「・・・そちらから助言を求めているのに、その態度はいかがなものか」

「天龍様を危険な目に合わすことは出来ませぬ」


 するとオロチはぬっと立ち上がり、檻の近くまで歩いてきた。

 僕はオロチの毛の色を見ておもわず言葉を失った。身体の半分から左が黒色で右が白色と綺麗に別れていたからだ。このような毛色の猫は僕は見たことがない。花音や教授も、同じようにじっとオロチに見入っていた。


「お主はまだ、俺のことを信用していないのか?」

「信用できるわけがありません。あなたは、あのオロチなのですよ」


 雲龍殿の口調は変わらなかったが、明らかに怯えていた。オロチは檻の中なのに後ずさりをしている。


「・・・なぜそこまで俺を恐れる?」 

「平和だった京都を混乱の渦に陥れた。野猫を統率し、マムシという集団をつくった。あなたのせいで何百匹の猫の命が失われたか」


 オロチはじっと雲龍殿を睨んだ、と思ったら急に檻に向かって走り始めた。ガシャンと身体を檻にぶつけ、金属が軋む音がする。


「平和を台無しにしたのはお主たちの方であろう」


 オロチは牙を見せて雲龍殿のことを睨みつけた。雲龍殿はその迫力に圧倒され、言葉を発することも出来なかった。呼吸を整えて、出口の方を確認した。


「もういい、戻りますよ」


 雲龍殿は松虫、花音、教授、僕に目配せした。これ以上、ここにいたらオロチに呑まれてしまう、そう判断したのだろう。


「しかし・・・」


 と花音は雲龍殿に抵抗した。まだ何も話を聞けていない。それは教授も僕も同じだっ 


「俺は、ただあいつらを守りたいだけだった」


 オロチの言葉に雲龍殿の足が止まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ