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黒き猫

 深夜の嵐山の町を歩きながら僕はふと大事なことを思い出した。


「あの、教授、質問してもいいですか?」

「ん? 何だ」

「・・・いまさらなんですが、京極様が言っていた、京都の猫の歴史というものを教えて

くれないでしょうか? そもそもオロチって何でそこまで恐れられているのでしょうか?」

「え、何で? いまさら・・・?」


 花音は不思議な顔をしていたが、僕は喉をごろごろと鳴らしながらごまかした。

 教授は仕方ない、といった表情で説明をしてくれた。

 京極様が言っていたようにその昔、京都のほぼ全域が京極家の縄張りだった。完全に支配していない地域もあったが、争いは起きずに均衡を保っていた。ここまでは僕でも何となく覚えている。

 その均衡が崩れたのはオロチが出現したせいであるという。

 当時、京都では野猫が多く溢れていて、餌を巡って寺などに住む飼い猫との争いが絶えなかった。それでも大きな事件が起こることはなかったがオロチによって状況は一変した。オロチは野猫を束ねて有名な寺院を中心に他の猫たちの縄張りを一つ一つ潰して回ったという。

 一匹でも厄介な野猫が群れをなすと、手のつけようがなかった。一度退けても当初の目的を達成するまで、野猫たちは何度も何度もやってきた。

 いつしか、その野猫の集団を誰かが「マムシ」と呼んだ。マムシの数は次々と増えていった。オロチが率いるマムシたちの勢力は京都全土に及ぼそうとしていた。

 オロチは一度目をつけたらその縄張りを手に入れるまで決して引かない。そのような噂が京都中に駆け巡った。

 『黒き猫』の再来ではないか。災厄の象徴としてオロチはずっと恐れ続けられていた。

 そこで京極様は手を打った。

 神出鬼没なマムシたちに対応するために、京極家だけでは対応できない。そこで北は鞍馬、中央と東は京極、南は観音、西は天龍といった実力者たちを配置し、何かあればすぐに即応できる態勢を整えた。

 その成果があり、マムシの勢いは衰えたかのように思えたがオロチもまたすぐに手を打ってきた。完全に勢いが削がれる前にマムシたちを集めて、京極様に狙いを定めて争いを仕掛けてきたのだ。

 オロチ率いるマムシと京極様の争いは熾烈を極めた。

 そんな時に『災厄の日』が訪れる。京都で多数の猫が犠牲になった。やはり『黒き猫』の仕業ではないか、という噂が京都中に駆け巡った。オロチは犠牲となった猫たちの復讐の的となり、争いはより激化してしまった。


 最後は京極様自らオロチを討ったとされている。マムシたち、野猫が再び、徒党を組まないようオロチは死んだとされている。しかし、実際は京極様をもってしてもオロチは殺せず、今も嵐山に捉えられている、という。

 徳川家がマムシと手を結んだのは何か理由があるはず。京極様はそう睨んでいる。


「・・・今回の戦争と過去のオロチとの戦争・・・つまり、歴史はつながっている。分かるか、山田電機君」


 僕は黙って頷いた。正直、とっぴもない話で現実味がわかなかった。でも、今回の戦争は昔の別の戦争と繋がっているということだけは理解できた。

 教授がこの前、話をしていた、しろがねの猫の話と何となく似ている気がした。歴史は繋がっている。

 さっきまで出てきた月は雲に覆われて、周囲は段々と暗くなってきた。明かりが乏しくなり、向かう先はよく見えない。

 僕たちはそれでも前に向かって歩き続けた。

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