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駅長

 しばらくすると何か見覚えのある建物の前に着いた。建物の奥には線路と電車が見える。


「もしかして、ここは嵐山電車・・・」

「お、山田電機のくせに、よく知ってるな」

「当然、知ってるよ、嵐山まで行ける電車だろ」


 不肖・山田電機、僕は少しだけ機械には詳しい。というよりも、電車は山田電機の主の趣味で確か、嵐山電車の模型や映像を散々見せられた気がする。

 松虫は少し驚いた表情をしていたが、特にそれ以上は何かを言うことなく周囲をキョロキョロとしていた。


「駅長!」


 松虫の声が聞こえた。同時に建物の中から、何と服を着た猫が現れた。マンチカンであろうか、足がとにかく短いのが特徴である。人間の駅長のような服を着ているが、手足の長さと合っていないのか、時々、転んでいた。

 松虫は駅長と呼ばれる猫に近づき、身体を起こすのを手伝いながら、


「だいぶ、その姿もさまになってきましたね」

「うるせーな。何度も着せ替えさせやがって。こっちだって暇じゃないっつーの。京極様もこんな役目を押し付けて何を考えているのやら」


 松虫の知り合いは皆、口が悪いのであろうか。駅長と松虫はしばし、最近の愚痴を言い合っていた。

 しかし、駅長・・・まさに電車の申し子ではないか。僕は少し興奮してしまった。


「んで、この方たちはお主の知り合いか?」


 駅長の言葉に僕はすぐに反応した。


「観音町の山田電機と申します! 京極様に言われて、これから嵐山に行く予定であります!」


 我ながら、情報量が少ない挨拶だと思った。すぐに松虫が補足した。


「京極様のお言葉をお伝えします。この者たちを、あの『オロチ』に会わせろ、と。徳川家の動きについて重要な情報を握っているそうです」

「オロチか・・・」


 駅長はずるずると制服を引きずりながら歩き始めた。


「では、一刻も争うのであろう。詳しい話は車内で聞く」


 嵐山電車の中では人間たちが物珍しそうにカメラを構えていた。


「まあ、ゆっくりしたまえ。嵐山までは暫く時間がかかる」


 さすが、駅長と名乗るだけある。堂々とした仕草であった。


「あの駅長、一つ聞いてもいいですか?」

「ふむ、何でも聞き給え」

「駅長はずっと電車に乗っているのでしょうか?」

「そんなことはない。暇つぶしに電車に乗ることもあるが、気が向いたら駅に降り、昼寝をして餌を食う。ちなみに餌は、大体どの駅でも人間が用意していて、食べ放題だ」

「おおお」


 何だか凄く羨ましい。駅長とは何て魅力的な仕事なのであろう。

 駅長はふん、と鼻を鳴らした。


「京都の電車は全て私のもの、といっても過言ではない」

「京都の電車は全て私のもの」


 思わず繰り返し呟いてしまった。山田電機の主が聞いたら泣いて喜ぶであろう。


「では、JRや京阪、阪急、地下鉄なども乗り放題なのでしょうか?」


 僕の言葉に駅長は、気まずそうに窓の外の方を向いた。


「・・・今のところ、嵐山電車だけだ。何故か分からぬが、嵐山以外の電車に乗ろうとしたら人間に掴まりかけた」

「そうなんですね・・・」


 さすがの駅長にも限界があるのか。でも、いずれJRや京阪、阪急、地下鉄を制圧する日も遠くはないであろうと僕は勝手に思った。

 そうだ、駅長と一緒に今後の作戦を練ろう。色々と妄想が膨らんできた。


「おい、山田電機。いつまでくだらない話をしているんだ。ったく、いい加減にしろ」


 その時、松虫が僕と駅長の間に割って入った。このままずっと駅長と電車の話をしたかったのに相変わらず気に食わない奴だ。


「くだらない? 電車の話をして何が悪い」

「うるせーよ、電車オタク」


 また松虫は訳の分からないことを言って、僕を挑発してくる。


「空気を読めよ、この野郎。今はオロチについての情報を集めるのが先だろうが」


 松虫の言葉に教授も花音も頷いていた。

 オロチの情報を集める・・・それは確かにその通りだ。反論の余地がない。


「すみません、駅長。この電車には他の猫も利用していると聞く。オロチ・・・いや、嵐山の猫たちの情

報でもいいんです、何かご存じじゃないですか?」

「オロチもしくは嵐山か・・・」


 駅長は窓の外を見ながらじっと何かを考えていた。


「オロチのことは知らぬ。というか、奴が生きてるのは口外禁止のはず。例え何か知っていてもこの場では教えられぬ」

「それは確かに。申し訳ございません」


 松虫が頭を下げ、少し尻尾を振った。僕は松虫が謝っているのを初めてみた。正直、ざまあみろと思ったが、同時に僕は何て心が小さな猫なのだと自己嫌悪に陥った。


「しかし、最近、妙な猫がちょこちょこ出入りしていると聞く。私も電車の中でちょうどお主たちのように根掘り葉掘り、遠まわしにオロチのことを聞かれたな」

「その猫の特徴は?」


 松虫の問いに駅長は今度は即答した。


「エルフキャット・・・身体は松虫と同じく小さいが無毛種。尖った耳と尻尾が特徴だな」

「エルフキャットか・・・一体、どこの」


 松虫は考えこんでいるようだが、僕たちには心当たりがある。エルフキャット、徳川家の部屋にいた猫だ。教授や花音を見ると同じような反応だった。


「その猫、恐らく徳川家の猫です」


 花音がまず最初に口を開いた。

 すると松虫は意外そうな反応をした。


「なぜ、それを?・・・いや、そうか。徳川家と会った時、その場にいたということですね?」


 松虫の言葉に花音は頷いた。


「それ以上は何も私たちは分からないですが・・・少なくとも私たちは、奴とは因縁がある・・・」


 松虫は真剣な表情をしていた。


「恐らく奴は必ず嵐山で何かをしかけてくる。こちらも念には念を入れて用心したほうがいいです」


 花音の言葉に松虫は神妙な面持ちで頷いた。

 この前の祇園みたいにまた怖い思いをするのであろうか。そう考えるだけで何だか嫌な気分になってきた。


「おい、山田電機。お前も一緒に来るなら、せめて足を引っ張るなよ。分かったか?」

「はい、分かりました」


 いつもなら反抗するけど、今は別のことに集中していて、とりあえず生返事をした。僕の態度の変化に松虫は少し意外そうな表情をしていた。

 今、僕は嵐山電車から見える車窓の景色に夢中だった。窓から見える外の景色は何だか別世界のようだった。もちろん観音町とは違うし、最近、経験した祇園や御所、鴨川とも違う。電車に乗っていると、物凄い速さで景色が流れていく。あれは何だろうと思ったら、次の景色。だから飽きずに延々と見てしまう。

 ああ、これが電車の楽しさなのか。

 正直、これから先のことは不安しかない。

 でも、今、僕はゴトゴトと規則的な音を鳴らす電車に身を委ねている。この時間が終わらなければいいのになぁ、何となく思った。

 段々と視界がぼやけてくる。

 気が付くとまた眠りに落ちてしまった。

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