いざ、嵐山
こうして僕たちは再び、走り始めた。
松虫が先頭となり、教授、花音、僕と続いた。僕は松虫との一件で、何だか気まずくて、こそこそと後を追うように走った。
とりあえず、ひたすら走った。しかし、僕は肝心のことを理解していなかった。
いま、僕たちはどこに向かっているのであろう。京極様の説明をちゃんと聞いていればよかった。しかし、いまさら、寝てましたとは言えるはずもなかった。
御所を出てから、また街中を走っていた。松虫は意外に足が早くついていくのがやっとだった。花音はまだしも、教授だって相当きついはずなのに、弱音を吐く者は誰もいなかった。
目の前に車が横切る時だけが唯一の休憩時間だった。車が通り過ぎると松虫はすぐに走りはじめる。僕がついていけずにもたもたしてると松虫は嬉しそうに近寄ってきた。
「どうした、山田電機。置いていくぞ」
「山田電機サンだろ、この野郎」
「うっせーな。いいから、行くぞ」
「うむむ」
僕はロクに文句すら言えなかった。最初、愛らしいと思ったのは完全に間違いだった。今は真逆の存在、憎しみの象徴である。
目的地が分からないまま走るというのは、何という苦行なのだろうか。
ふと目をやると教授も段々と遅れはじめていた。苦しさで頭がぼおってしてきて、少し怒られるぐらい、どうでもいいやと思い始めてきた。
「・・・あの、教授。僕たちはいったいどこに向かっているのかご存じでしょうか?」
僕が横に並び、走りながら喋りかけると教授はギョッとした表情をして、舌を出したまま立ち止まった。
「もしかして、君は何も聞いてなかったのか。京極様のあのお話を・・・」
「ええ。つい寝てしまいました。お話が難しく、それに疲れも溜まっていたので」
「・・・き、君は。本当に・・・」
教授は後ろ足に力が入らなくなってきたのか、急にフラフラとしはじめた。一瞬、倒れそうになったが何とかその場に踏みとどまった。
「・・・・あの、よかったら京極様のお話の内容を教えてもらえないでしょうか?」
「あの話をこの場で簡単に話せるわけがないだろ」
教授はちらりと交差点の方を見た。僕たちが遅れたのに気づいたのだろう。松虫と花音がこちらをじっと見て待っていた。
「・・・また今度、教える。とりあえず今は嵐山に向かっている。最初に京極様がそう言っていたであろう」
そういえば、そんなことを言っていたっけ。
嵐山・・・祇園に続き、また知らない地名が出てきた。
「何か、本当にいつもすみません」
「本当に君は全く・・・」
ぶつぶつと言いながらも、教授はそれ以上文句を言うことをなく走り始めた。
そんな教授の後ろ姿を見ながら、僕はこれからあと何回教授に迷惑をかけるのだろうと少し申し訳ない気持ちになった。




