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五郎丸の大義

 形勢は少しずつ逆転しつつあった。

 ボンベイを中心した黒猫のマムシたちは急に統率がとれはじめた。一匹また一匹とカオマニーを囲んでいく。もともと数の優位があったマムシたちは統率がとれればカオマニーを一匹ずつ仕留めることは難しくない。常に四匹が一つとなって行動して相手を仕留めてきたカオマニーはボンベイの登場によって徐々に苦戦を強いられていた。ボンベイは部屋の中の狭い空間で常に五、六匹のマムシたちを操り、白い宝石たちを一匹づついたぶっていた。カオマニーも致命傷を負うことはなかったが、防戦一方でなかなか反転攻勢に出ることができない。むしろ、徐々に体力を削られていた。


 その時だった。カオマニーが充分に削られたと見るや否や、五郎丸が京極様の前に飛び出した。カオマニーたちはボンベイ、マムシたちの対応ですぐに京極様のもとに駆けつけることが出来なかった。京極様は相変わらず余裕の表情だったが、五郎丸と京極様の間を隔てるものは何もなかった。五郎丸は一歩ずつ京極様に向かって近づいていった。


「・・・五郎丸、お主は自分のしていることが分かっているのか?」


 京極様はうっすらと笑っていた、しかし、内心は何を考えているのか分からない。故に不気味な雰囲気を纏い、空気が揺れる。その証拠に、京極様が言葉を発するたびに、カオマニーやボンベイ、マムシ、その部屋にいる全ての猫が一瞬、動きを止めていた。


「・・・京極様、私はあなたに感謝している。その言葉に嘘、偽りはひとつもない」


 僕はずっと息を飲んで、京極様と五郎丸のやり取りを見守っていた。いや、見守っていたというよりその場を動けなかっただけなのだが。


「幼い頃から私を引き取って、何不自由なく育ててくれた」

「今更、何だ」

「でも、今、私はあなたを許せない」


 五郎丸の額の毛が揺れていた。


「あなたのせいで、私の父は死んだ。いや、殺されたのだ」


 京極様は何も言わず、何もなかったかのように毛並みを整える。


「・・・大義は私たちにあります」

「ほぉ」


 再び、京極様はうっすらと笑った。五郎丸は、我を忘れたのか、猛然と京極様に向かって走っていった。しかし、同時にカオマニーたちも京極様を守るように五郎丸に襲いかかる。尻尾、後ろ足・・・一瞬で飛び掛かり、傷をつけるが五郎丸は止まらない。


 その中、五郎丸を援護するかのように、ボンベイをはじめとしたマムシの黒猫たちが後方からカオマニーに襲いかかった。ついさっきまで保たれていた僅かな均衡は崩れた。またたびの匂いに包まれていた部屋はあっという間に血生臭い匂いへと一変した。


 その時、マムシの一匹が突然、天井から襲いかかってきた。その瞬間、カオマニーの一匹が相手の喉を切り裂き、血しぶきが舞った。


 京極様は動じた様子はなかったが、兎角、面倒くさそうな仕草をしていた。白い宝石と言われるカオマニーの毛並みは徐々に赤く染まっていた。そのことが京極様を苛立たせたのであろうか、


「・・・いい加減にしろ」


 一瞬のことだった。京極様が少しだけ動いた。同時にボンベイが口から血を吐いた。喉を京極様の鋭利な爪に引き裂かれたのか、ごぼごぼと息をするのに必死な様子だった。


 一方、その瞬間を狙っていた、もう一匹の猫がいた。

 五郎丸は血を吐いているボンベイの身体に身を隠していた。いっきに京極様のもとに近づいた。前足の爪を突き出して、京極様の喉元を一直線に狙った。

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