白い宝石
京極様と五郎丸はじっと睨み合ったままだ。
一方、僕と教授はあたふたすることしかできず、役立たずそのものだった。祇園の猫が京極様だったということだけでも、衝撃的な事実なのに、五郎丸が京極様に反旗をひるがえすことなど、もはや理解不能だった。だとしたら何故、何度も僕たちを救ってくれたのか。何故、花音の命を救ってくれたのか。ボンベイ、五郎丸、マムシたちはじっと京極様との距離感を探っていた。
「・・・威勢がよいのは最初だけか」
京極様の圧力に耐えきれなくなったのか、マムシの黒猫たちが急に動き出した。部屋の中を不規則に動き、ボンベイと五郎丸を中心に徐々に京極様を追い詰めていく。
「この程度か。残念だな」
京極様が軽やかにその場をたつと、入れ替わりのように四匹の白猫が奥から姿を現した。
「・・・白い宝石」
教授が呟いた。
「カオマニーの四兄弟。噂でしか聞いたことがない。京極様の側近中の側近だ」
ハート形の頭にまっすぐで大きい耳、大きな目はそれぞれ赤青黄緑と色が異なっていた。
「みゃあ」
「みゃあ」
「みゃあ」
「みゃあ」
カオマニーが鳴いた。同時にマムシたちが音もなく動き出す。黒猫たちの狙いはただ一つ、京極様の喉元だ。しかし、白い宝石ことカオマニーもまた同時に動いた。マムシは京極様に近づくことすらできない。少し動くたびにカオマニーもまた絶妙な距離感を保つ。恐らくそれは相手の喉元を一瞬で噛み切ることが出来る距離だ。
マムシの猫のうち、一匹がその場の重圧に耐えきれなくなったのか京極様に向かって飛び出した。しかし、その瞬間、カオマニーが交錯し、マムシの首元にかみついた。ひるんだマムシに追い打ちをかけるように、二匹目、三匹目のカオマニーがマムシの後ろ足、前足と致命的な切り傷をつけていった。四匹目が部屋の壁を利用して高く跳躍し、落下速度を利用してマムシの背中に深く爪痕を切り刻んだ。
「ぎゃん」という鳴き声をあげてマムシの猫が横たわった。マムシたちは間髪いれずに二匹目、三匹目と京極様に襲いかかったが、いずれも同じ結末だった。カオマニーの四兄弟は一糸乱れぬ動きで鮮やかに黒猫たちを撃退していく。息は乱れず、襲撃の合間には毛繕いをするような余裕さえあった。
見たこともない猫たちが目の前で生きるか死ぬかの争いを繰り広げている。教授は「ふむふむ」と鼻をひくひくさせ、時々、尻尾を小刻みに振っているが恐らく僕と同じ状況なのであろう。
僕たちは、今何が起こっているのか、把握することすら出来なかった。それほど状況は目まぐるしく動き回っていて、僕は教授と相談する時間すらなかった。なるべく部屋の隅に逃げて、争いに巻き込まれないように観察していた。俯瞰して見ると少しだけ分かった気がした。状況は明らかにマムシたちが不利だった。数は多いが、統制がとれていない。痺れをきらして動くとカオマニーたちの餌食となる。マムシの戦力は一匹、また一匹と削がれていった。
しかし、五郎丸も、その横にいるボンベイも、どこか余裕の表情だった。マムシたちが次々と倒れていくのをまるで空地にいる昆虫が息絶えていくかのように無関心な表情で眺めていた、
「そろそろ、いかぬのか五郎丸」
「・・・ボンベイ、お主はマムシと行動を共にするのであろう?」
「相変わらず、気に食わない奴だな」
ボンベイはそう言うと素早く駆け出した。
小柄だが、床や壁を利用して縦横無尽に部屋の中を攪乱した。ボンベイの行動に呼応するように、劣勢に追い込まれていたマムシたちが少しずつ息を吹きかえす。動けるものは立ち上がりボンベイと同じように部屋の中を駆け巡った。動けぬものはその行動を後押しするかのように、喉が裂けるような鳴き声をあげた。
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