表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/93

料亭の白い猫①

 戸の奥には長い廊下があった。建物の中はもわっとして蒸し暑かった。廊下には人間たちが忙しく歩き回っていた。教授は「うむむ」と唸ったまま尻尾がうなだれている。五郎丸もまた、これまでの落ち着いた様子とは違い、周囲をキョロキョロと見回している。いまここで何が起こっているのか分からないのは、みな同じだった。


 すると、トントントンと軽やかな音が微かに聞こえたと思ったら廊下の奥から一点の曇りもない真っ白な毛並みの猫がゆっくりと歩いてきた。その猫は堂々と廊下の真ん中を歩き、すれ違う人間たちは自ら道を開けていた。


 白猫は僕たちから少し離れた場所で立ち止まった。よく見ると左右で瞳の色が違う。どこか不思議な雰囲気を纏っていた。不思議な目だった。すると白猫は「みやぁ」 と小声で鳴いた後、僕たちの反応を見ることなく戻っていった。ついてこい、という意図は明白だった。しかし、五郎丸も教授も僕も一歩もそこから動けなかった。


「・・・罠、ですかね」


 誰も何も言わないので僕は思ったことを口に出した。


「いや、それはないな」


 五郎丸がすぐに否定した。


「恐らく、あれは祇園関係の猫。ただ何を考えているのかは私にも分からぬ」


 僕たちは黙ったまま白猫の後を追って廊下の奥に進んでいった。

 廊下の奥にある階段を昇ると一階の薄暗い雰囲気から一転して、目を閉じてしまうほど眩しい光が差し込んできた。廊下の両脇には複数の部屋があり、突き当りの部屋に白猫は吸い込まれるように入っていった。


 その場所はまるで別世界のようだった。行き交う人間が来ている衣服も全然違う。ふと聞きなれない音が聞こえてきた。べんべんべ、べべんっと、奇妙な大きな音が響くたびに髭が微かに震える。まるで意識を持っているかのように、その音は身体の至るところを時には震わせ、時にはくすぐり、時には身体の芯まで吸い込むように潜り込んだ。僕があたふたしていると、「三味線の音だ」と教授が呟いた。


「・・・三味線?」


 妙に身体がくすぐられる不思議な音だった。

 五郎丸も足を止めた。しかし、僕らとは違い三味線の音など聞くものか、という意志表示のように耳を畳み、じっと廊下の奥を眺めていた。


「大義をとるか、それとも己の大事なものを信じるか」


 五郎丸はぶつぶつと呟いていた。


「おぬしなら、どうする?」

「え?」 


 その言葉は教授や僕に向かってなのか、それとも自分自身に向かって発せられたのか分からない。五郎丸は僕たちのことを見ることなく、三味線の音を間を縫って奥の部屋へゆっくりと歩いていった。

今後の執筆の励みとなりますので、少しでも面白いなぁと思ったら、ぜひ評価ポイントを入力ください!

ブックマーク、感想も絶賛募集中です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ