祇園潜入②
さっきまでは全体的にぼんやりとした茜色だったのに空の色はいつの間にか血のような赤い色に染まっていた。でも、何となくその色は妙に祇園の建物と合っていた。数匹のカラスがまるで僕たちの品定めをするように上空をくるくると回っていた。
「狙われているようだな、山田電機君」
「いや、教授の方ですよ」
嫌味ではなく教授のことを心配して忠告してあげた。教授の方が身体が大きいし、見るからに逃げ足が遅そうだ。
五郎丸の方を見た。五郎丸もまた上空のカラスをじっと見ていた。すると一匹のカラスが風を切って急降下してきた。狙いは誰だ。すぐに分かった。
教授だ! 五郎丸や僕には目をくれず、教授に向かって襲いかかっている。だから言わんこっちゃない。僕は教授を連れて、すぐに近くの建物に逃げ込む。身体を滑り込めさせられそうな戸の隙間を見つけた。しかし、思ったより戸は重くて二匹の力だけでは、なかなか開かない。
「あれ、何で?」
まずい、このままではカラスの鋭い口ばしの餌食となってしまう。違う場所に逃げようかと周囲を見回すと二匹目、三匹目のカラスが今にも狙いを定めているところだった。万事休す。どうしよう、僕は追い込まれて目を閉じてしまった。本当に悪い癖だ。
その時、トトンっと軽やかに戸を叩く音がした。恐る恐る目を開けた。すると五郎丸が、まるで鳥のように上空を舞っていた。思わず息を呑む。五郎丸は空中で激しくカラスと交錯した。カラスは激しく羽を揺らし、地面に落ちる寸前でまた空中へと何とか舞い戻った。
一方、五郎丸は悠然と地面に着地して、冷静に周囲を見回した。一度だけではなく二度までも窮地を救ってもらった。僕はお礼を言おうと近づく。
「このまま中に入るぞ」
気が付くと先ほど五郎丸が高く跳ぶために使った戸の隙間が開いていた。これ以上、カラスと争うのは危険だ。僕たちは料亭の中へと入っていく。教授はきょろきょろと外の様子を伺っていた。
「しかし、何か、妙だな」
「どうしたんですか、教授」
教授の髭がぴくっと動いた。
「君はおかしいと思わないか。これだけ、騒ぎを起こしているのに、マムシの連中はさっぱりやってこない」
「・・・さあ。お腹でも痛くなったのではないですかね」
見知らぬ土地、見知らぬ建物、見知らぬマムシという猫。あまりにも考えることが多すぎる。だから、僕はこれ以上、あまり難しいことは気にしないようしていた。しかし、教授の髭はぴくぴくとしたままだった。
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