赤と黄金の色が交じった不思議なもやもや
知恩院から出ると、太陽は頭の真上に登っていて空は一点の曇りもなかった。僕も教授も花音も黙ったまま、あてもなく歩いていた。
「・・・本来ならば私がちゃんと話すべきだったのに・・・何も出来なかった。本当にごめんなさい」
花音はようやく口を開き、うなだれながら謝った。まだ全身の毛が逆立っていて、震えているようだった。無理もない。こんな異常な状況で平然としている方が無理というものだ。
「こっちこそ、勝手に・・・ごめんなさい」
「これからどうしますかな?」
教授だけは何故か平然と落ち着いていた。
「すぐにでも戻って、観音様に報告しないと」
確かに悪いことほどすぐに相談した方がいい。でも、花音は何かを迷っている表情だった。ずっと黙って考え込んでいる。
花音の言葉を聞きながら、僕もまた非常に迷っていた。戦争を止めるはずなのに、独断で引き受けてしまった張本人は、僕だ。
正直、後悔していた。このまま帰ったらたぶん、滅茶苦茶怒られる。まあ、百歩譲ってそれはいい。
でも、はっきり言って僕は弱い。本当にこれから戦うことができるとは思えない。これからどうすればいいのだろう。何とかして戦わずに勝つ方法はないだろうか。考えれば考えるほど、また身体が熱くなってきた。
たぶん、これ以上考えても今は答えは出ない。僕はとりあえず走り始めた。いざ走るとなると、山の方から吹き下ろす風が思ったより強く、僕の身体は早々に冷え切った。
強烈な逆風で毛並みは乱れる。これから先のやる気が徐々に削がれてきた・・・。
遠くに見える山に太陽が落ちかけていた。山は太陽の光で不思議な色に覆われていた。何百年いや何千年前からも同じ景色だったのだろう。
当然、その時には産まれていないはずなのに、ふと懐かしい気持ちになった。何故だか分からないが僕は妙に鳴きたくなった。
その時、太陽の光のせいか、赤と黄金の色が交じった不思議なもやもやとした固まりがちらりと見えた。もしかしたら、この固まりが得体の知れない声の正体かと根拠もなく思ったが、それ以上、声は聞こえることはなかった。
今後の執筆の励みとなりますので、少しでも面白いなぁと思ったら、ぜひ評価ポイントを入力ください!
ブックマーク、感想も絶賛募集中です!