プロローグ
長い冒険の始まりです。長期間になると思いますが、どうか最後までお付き合いいただけたら嬉しいです!
夢を見ていた。
千年の時代があり、長い歴史の流れの中で、戦の時代は何度か訪れた。争いの理由は多々あり、何かが解決しても、再び別の問題が産まれて争いは始まった。
どこからか声が聞こえる。
「いいかい、これは大事な話だ。決して自分と無関係と思ってはいけない。いま、君がここにいることは全て過去の出来事に繋がっているのだよ」
そういえば、俺が生きていたのは、侍たちが戦に明け暮れていた時代だ。本当に悲惨な状況だった。毎日、どこかで争いが起こっていた。鋭い刀が空気を裂き、獰猛な咆哮が夜空に響く。血の匂いが立ち込め、土に染み込む。友と敵が区別できぬまま、狂乱の中に身を投じる。傷ついた者たちは悲鳴を上げ、命を奪われる者たちは静かに息を引き取る。
俺はただ目の前の敵を斬り続けた。次々と死体が積み上がっていく。幼い頃から己の勘と腕力だけを頼りに生きてきた。やがて、面と向かってくる敵は少なくなり、いつしか俺は
『タケミカヅチの化身』
と言われるようになった。タケミカヅチとは古事記に登場する戦の神と聞いたことがある。そう言われれば悪い気はしない。
激しい戦の時代が終わっても、かつての俺の噂を聞いて、依頼が度々、舞い込んだ。
戦の世は不満だ。当たり前だ。でも、平和になっても、みな、不満を抱えているのだ。
俺を頼ってくるのは皆、弱いものたちだった。弱い者がいれば、強き者を切った。不正をはたらく者がいれば、それも切った。
周囲に群がる人間は多くなり、いつしか食うものに困らない生活になった。依頼があれば断ることはなかった。しかし、次第に強き者たちは、俺を警戒して、数々の刺客を送り込んだ。
なぜ、俺は戦っているのだろう。なぜ、俺は目の前の相手を殺しているのであろう。
あの頃、俺は何をしたかったのだろう。
いつしか、俺の目の前には血の海しか見えなくなった。誰か俺を止めてくれ。何度もそう叫んだ。
ある晩、静寂に包まれた庭に、影が蠢いていた。月光がわずかに差し込み、忍び寄る刺客たちの姿をぼんやりと浮かび上がらせる。
数十の刺客たちが一斉に襲いかかる。刃が月光に輝き、空気を裂く音が響く。しかし、俺は一瞬の隙を逃さなかった。刺客たちの攻撃をかわし、次々と反撃に転じた。
またしても目の前に血の海が広がる。無言でその中に一歩一歩踏み出していく。足元から血が跳ね、生ぬるい感触が肌に伝わる。
ふと顔をあげるとまた新たな刺客が俺のことを狙っていた。
刀を振り回し、ただひたすら逃げ続けた。そんな生活に疲れ果てた頃のことだった。
そんな時、巷で噂されていた男がいた。
その男は『しろがね』と呼ばれていた。
決して身分は明かさないが、いつも白い羽織を纏っており、どこか位の高い家の出だと噂されていた。しろがねは、不正や悪事を働く者がいれば、風にようにどこからか現れて、切っていく。銀色の髷を結い、淡い月光に照らされたその姿は幻想的でありながらも、どこか現実離れしていた。その目はまるで古代の妖怪のように紅く輝き、噂が尾ひれを付けて彼の名を広めた。
月明かりの下、廃れた寺は静寂の中に佇んでいた。崩れかけた社殿の中で俺は藁の上に横たわっていた。風に揺れる木々のざわめきが、神社の過去の囁きのように聞こえる。
その時、生暖かい風が吹いた。
「やっと見つけたよ・・・タケミカヅチ」
音も立てずにしろがねは社殿の中に入ってきた。白い羽織が風に揺れる、
「・・・いや、もう神の名を語るな」
なぜだか分からないが、その時、俺は目の前の男がしろがね、だとすぐに分かった。
「よせ。俺はこれ以上、戦はしたくない。あれは昔の話だ。いまはもう・・・」
頭を床板にこすりつけながら、藁の中に隠しておいて刀にそっと手を伸ばした。
しろがねは二コリと笑った。
「私も同じですよ、私も戦を終わらせたい。でも、何度同じ話をしましたか? いい加減終わりにしましょう」
しろがねは、どこか悲しげな表情を浮かべて背を向けた。その瞬間、俺は藁の中に隠していた刀を取り出し、全力でしろがねの背中に斬りかかった。銀色の髷が揺れ、彼の紅い目が一瞬だけ振り返る。その瞳には、まるで全てを悟ったかのような静かな光が宿っていた。血が飛び散る。しろがねは一言も発さず、ただ静かに倒れた。その姿は、まるで風に消えゆく幻のようであった。
同時に、どこからか鋭い刃が俺の心臓をつらぬいた。身体が段々と冷たくなっていく。身体を動かそうとするが手も足もピクリとも動かない。
ふと外を見た。境内のススキが揺れていた。
月明りによって照らされたススキはまるで何かの意思を持つようにざわざわと騒いでいた。
どこからか声が聞こえる。
「本当に君は、全く学習というものをしないな」
長い歴史の流れの中で、戦の時代は何度か訪れた。千年の時代があり、その中で文明は飛躍的に発展し、世界は豊かさに溢れた。しかし、同時に争いの火種が再び、生まれようとしていた。
再び、どこからか声が聞こえる。
「・・・聞いているのか? 山田電機君。おい、聞いているのか?」
風が唸りを上げ、周囲の景色が歪み、全てが一つの渦の中に吸い込まれていく。全身が激しく揺さぶられ、耳元で激しい音がする。渦の力が強まり、意識が薄れ、徐々に体が軽くなる。
ふと暗闇の中で浮遊する感覚に包まれ、時間と空間の境界が崩れていく。突然、全てが止まり、静寂が訪れる。
目が冷めると俺は猫になっていた。
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