舞台とバックグランド-拙作の考察
さて今回は書き始めから自分の脳裏に小説の背景や舞台が記憶されるまで、自分のための案内、覚え書きを残しておくという作業を考えてみる。まあ物語オタクとか物語マニアというものがあるのなら、その人種である僕の雑談とでもいうお話の回である。
世の中には趣味をライフワークとして、仕事と同様にがんばる人も多いが僕もそのひとりだと思う。高じれば仕事になる境界線上の活動というのは、芸術や学術には多々ある。物書き作業もそのひとつと僕は思っている。
つまらない僕の持論はさておき、本題に入ろう。今回のお題は作品の世界観とも通じるものだし、なにより真剣真摯にものを書くための基礎、ベース項目なので結構重要な作業と僕自身は常に重きを置いている。だから作ってきた資料の数も多い。思いつきだけでやれる場面は極端に減る作業だ。インプット作業である外部などから仕入れた知識をノートなどで下ごしらえする感じだ。
僕の脳みそはAI様と違って少々出来が悪い。それ故に記憶という作業の助っ人としては紙面に描き図表に残しておくという習慣を結構古くから使っている。まあネタ帳ともいえるノートメモの一部だ。インプットされたモノをまとめて、把握しやすくするための作業と考えている。
料理に例えるなら、本や映像、実地見聞などから得た知識、いわば具材をまな板の上で形を整える作業がこれである。鍋に入れる前の具材の形、大きさの確認作業とも言える。
今でも引っ張り出してきて物語を書く前に、本当に大雑把な、ストーリーのラフスケッチを作るのに大変役立ってくれるノート五冊の一部をお目にかける。プロットや世界観をネタ帳に残す手法は、人それぞれで、その人の数だけ無限に多数の方法、手法がある。その多数のうちの一つということと、あくまで僕のやり方、即ち我流であることを先にお断りしておく。
ここには示していないが他に年表と場面別のタイムスケールも暦人シリーズでは作ることがある。これはパラドクスにならないための確認用に用意している。逆に物語上パラドクスの危機や事件を布石にしたときにも参考にする。ほかにも歴史上の事件や人物名、その成果などを覚え書きとして残している「なんでもノート」でもある。そのなかでそこそこの下地になったものを図表と一緒に吟味してみたい。
では以下の諸図を参考に舞台やバックグランドを確認してみる。ノートからの簡易撮影で少々画像が不鮮明なのはご了承願いたい。一枚目のもの、実際にはノートと言っているが、模造紙に書いてある。最初はノートだったが、物語が増えるごとに登場人物もしだいに増えて収まりきらなくなって、後に模造紙に書き直したモノだ。折りたたんでノートに挟んであるような始末。これももとは十五年以上前のモノだ。
その当該、一番上の写真の相関図は、ファーストシーズンが終わった辺りからノートに書き始めた。登場人物が自分の記憶能力の範囲で収まらなくなったためだ(笑)。更に既述のようにノート見開きにも収まりきらないほどになってしまったのだけれど。
物語を思い描いていると、「あれ? これはあの人だったかな? あの人はこの街に住んでいたかな? あの人は前回どんな役割をさせたっけな?」と細部で勘違いや他とのダブりが出てくる。
記憶能力の限界である。実社会でも、たまにしか会わないひとや一度きりだったひとを思い出すのは大変だ。そうなれば現実にいない架空のひとを思い出すのだもの、もっと大変だ。記憶の海から引っ張り上げるのに道しるべは必要である。その手がかりがこの物語ごとの相関図というわけである。短編やショートショートの時は作らないが、シリーズ物やそこそこの中編以上の物語では用意することが多い。ましてや親戚ならどんな繫がりか、とか職場の役職やどこ出生の暦人だったかな? といった時に見直すことはたまにある。大叔父、叔母、祖父、妻、妹、甥、従姉などの親戚関係は多々出てくる。それを思い出す作業はなかなか大変だ。いちいち本文を見返していたら、そっちに集中してしまい、折角浮かびかけていた良いプロットアイデアやしっくりくる文章、言い回しをこれまた忘れてしまうのだ。記憶の海に溺れる退化したおじさん(笑)なのだ。
こういった相関図を最初に作り出したきっかけや動機は、二十代の頃、とある有名な作家さん。そうあの『源氏物語』の現代語版を描き上げた超有名女流作家さんの原稿展示を某文学館に見に行ったときに、アイデア帳の中に同じような相関図が書かれていて、それをヒントに触発されて始めたものである。この作家さんには遙か及ばないオモチャのような出来だが、僕なりに僕らしいものにしての試みだった。
もちろんその後、推理作家さんや文芸作家さんの作品展などでも同じような相関図を書かれている方もいたので、徐々に自分も自然と長編作品などを作るイコール、登場人物と舞台、バックグランドを世界観としてまとめ上げる際に、この相関図も入れることが当然になった。この相関図作成という作業はノートの中で世界観形成で一役買っている。
『時神と暦人』登場人物相関図
つぎに御厨の一覧図。これらの御厨は過去とは言え、実在した御厨の書き写しなので、ある意味でそのまま日本史の二次史料とも言える。世界観においては虚構ではないので、この図は過去の現実社会との接点に等しい。このシリーズの舞台設定中では、年表と同じくらい基本的な舞台設定となる大切な資料だ。重ねてノートの方には飯倉御厨の中心神社は、とか大庭御厨の中心神社はということも書き入れている。
「文吾さんの流れをくむ親戚の栄華はもともと飯倉御厨だったよな?」とか会話台詞の中に経験談を入れるときなどに確かめるモノだ。「ハムタローは梁田御厨、山﨑は大庭御厨か」と確認しないと物語が作れないこともある。それの手助けである。ちなみにこの図だけはノートでなくPC画像で披露しているのは、別の作品で使ったため電子画像化してあったからである。もちろんノートにはもっと詳細でごちゃごちゃしている手書きのモノがあることは言うまでもない。
『時神と暦人』各地の御厨の一覧図
さておつぎ。相南桜台の山﨑の住む近所のマップ。同じように町山田の夏夫の住む日月町マップもあるが、今回はこちらひとつで解説は十分なのでこちらを参考にしてみる。多くの物語の書き手は、街のマップなどを作る場合が多い。いわば住宅地図だ。でも僕は『地球の歩き方』や『るるぶ』をぱらぱらと斜め読みするのが好きなため、いつもイラスト調のマップを描くことが多い。無機質よりも楽しい気分になるからだ。芹香はこんなマンションに、ちこはこんな建て売り住宅に住まわせようと創作意欲がわくのである。絵が下手なのはご勘弁、自分のために書いているので、もともと自分だけが分かれば良いのである。人様にお見せする目的のモノではないので、こんな程度の画力である。あしからず。
『時神と暦人』相南桜台街マップ
こちらも上述のマップと同じ。上のモノよりも新しいマップなのと、こちらは別の物語、「潮風食堂」のマップである。きっと書き切れなくなったらまた模造紙に書き写すことになるのだけど、そこまで『思い出の潮風食堂』は続けられるのかな。続くといいなと思う。
『思い出の潮風食堂』潮風商店街マップ
まとめてみると、僕の場合は文字に書き出す前の段階での作業が多いのだ。よって、結構な時間がかかる。昨今AIでちょちょいと書いてしまう方々も多いらしいが、僕の作品はそうはいかない。世界観を色々な角度から思い描き、頭の中で馴染ませて、それを軸にプロットを構築していくのだ。牛歩のごとく、亀の前進のような速度である。ニーズにお応えできない、家内制手工業の世界であり、大量生産は不可能なのだ(笑)。
またキャラクター別の登場人物覚え書きを残す方もいるのだが、これは僕は簡単にしか残していない。学校や会社、生年月日と担当御厨などの程度で箇条書きの範囲だ。今の書き手さんはそっちが重要というひとが多くなった。ユニークかつ魅力的なキャラクターを想像するとキャラが勝手に動き出すという声を散見する。それを読んだときに「なるほど、一理ある」と納得して、少し多めに書くようになったが、キャラクター先の書き手さんからすればまだまだ少ないかも知れない。マンガの登場人物設定は、小説以上に想定できるので参考にもなりそうだ。ただあまり限定してしまって読者の想像の妨げになるという声も聞くし、まだまだその辺は様子見しているダメな僕がいる。
今回はそんな感じで世界観としての舞台とバックグランドを考えて見た。こんな貧素な設定で申し訳ないが、僕ごときができるのはこんな基礎資料の作成である。うん、本稿に興味を持ってくれてるひとがどれだけいるか分からないのだけれど、やぼったいながらがんばっていますと努力だけは認めてもらえるなら嬉しい限りだ(笑)。ではまた。




