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拉致されて1~3日目

引っ越し屋さんが明日来るんですが、部屋の片づけが全然進まんとです。


こういう時って、執筆がはかどりますよね(ダメ人間

 捕まったその日はそのまま近くの草原で野営をすることになった。荷物を奪われてポーチの中も腰のナイフもクォータースタッフも取り上げられて、ポーチと身だしなみセットだけは返してくれた。タフすぎるこのライカンスロープたちは、草を踏み固めた寝床で寝てしまうようだった。夜露とか床冷えとか全然気にしないらしい、だけど私はそんなんじゃ夜が明けたら衰弱しちゃう。その旨を訴えてリーダーから山羊革を2枚返してもらってやっと寝床を作ることが出来た。夜ご飯は各々が持っている携帯食を齧って終わりらしい。私は荷物を取り上げられているので食べるものが無い。ひもじい思いをしながらションボリしていたら、リーダーが私の背負い鞄からポーニエルの実と水袋を渡してくれた。


「ここから二晩歩いた所に里がある、お前はそこで飼われることになる」


 それだけを言うとリーダーは自分の寝床で横になって眠ってしまった。交代で夜番をするようで常に一人が焚火のそばで座って起きている。私の荷物は夜番の隣に置いてあるし、両手両足は縛られた状態だ。こりゃ逃げられそうもない。仕方がないので野営地の隅っこでポーニエルの実をポリポリ齧り終わったら山羊革に包まって眠ることにした。


 夜が明けて朝になったらライカンスロープたちは、また各々で携帯食を齧ると煮沸した湯冷ましで水袋をいっぱいにすると出発の準備が完了して移動を開始した。男って朝の身だしなみの時間が要らないんだなぁと今更思い出して急いで寝床を片付けた。


 軽く縛られた状態(実況見分で容疑者が縛られてるあの状態)でライカンスロープたちに付いていくのはすっごい大変だった。Lv90のリーダーを筆頭にほかの4人もLv80後半だったし、上背が皆180㎝を超えている。私はLv47だし身長は150㎝無い位で歩幅が違い過ぎる。それに種族固有のタフネス差がエグイ。エルフは貧弱種族なんだよ、その中でもジェーンはソーシャル系適当キャラだから体力になんかステータスもスキルも降ってないんだよう。


 フラフラになって倒れる寸前の私を引きずって意地悪しようとするチガハから紐を取り上げたリーダーのヨーンに今は背負われている状態だ。


「あの~私は連れていかれて何をするんでしょうか?」

「ふ~む、お前には何が出来るんだ?」


 なんだ? 何か考えがあって連れていかれてるわけじゃないのか?


「サブ職は革職人をやっています」

「そうか、それをやってもらう」

「そもそもなんで連れていかれるんでしょう?」


 その疑問にヨーン(リーダー)は答えないまま歩き続けていた。ふ~む困ったもんだ、たぶんエルフであることが何か関係があるのだろうと思われるが、な~んも説明してくれないもんなぁ。両サイドを見ればタケリとヨシバが、後ろにチガハ、先導にはトエイと、完全に囲まれた状態で絶対逃がさないぞの陣形だ。まぁ実際のところ逃げられるとは思っていない、身体能力が違い過ぎるし、見たところ嗅覚を使った追跡能力が凄まじい。観察しているとこのライカンスロープたちは、人の状態から獣人状態から完全な狼へと変身できるようだった。こんなんに追いかけられたら逃げ切るのはまず不可能だろう。先頭のトエイが時折狼に変身しては先行したりするのを見ていて、この二日間一緒に行動した結果、私は早々に逃亡を諦めた。


 となればだ、役に立つアピールをして待遇改善を求めていく方針に切り替える事にする。初日はまぁ彼らの歩く速さについていけなかったのでヘロヘロになってしまったが、翌日からは野営の準備に積極的に参加してゴマをすることにした。休憩中に兎を見つけたので石を投げてゲットしたら、その日の野営で捌いて兎の塩焼きを作ってみたんだが、皆が思いのほか食いついた。普通サイズの兎をデカい男が5人で分けたらそりゃ足りないだろうが「料理したのに味があるぞ!」ってビックリしていた。そりゃぁシステムで作らなきゃ味付きの食事になるだろ? 何を当たり前のことを言っているのか分からなかったが、ヤックデカルチャーレベルで食っていた。


「革職人なのに料理までできるのか?」

「え、普通じゃないんですか?」


 すっとぼけてみたが、何だろう個の違和感は。そういえば私はこの世界でまともに人間と会話したことが無いから常識とか分からないんだよな。ちょっと不味ったかもしれない、普通は料理に関係するサブ職業の人しか料理とかできないのか? 複数サブ職を持っていることがどういうことなのか分かるまで迂闊なことは出来ないな。


 そんなやり取りをしていたら後ろにチガハが立っていた。私コイツ嫌い、ゾワっとする感覚と共に振り返ると、チガハは大きめのアナグマを一匹突き出していた。


「これもやれ」


 突き出されたアナグマを受け取るとさっさとどっかへ行ってしまった。そっか~そんなに気に入ったか~そっか~。ニヘヘっと心で笑いながら私はアナグマを捌いて塩焼きの準備に取り掛かった。<アナトミー>のスキルを持っていてよかったぜ。これは単純に攻撃力が1割上昇するってだけのスキルだったのだが<アナトミー(解剖学)>と言うだけあって、肉体の構造に対する造詣を与えてくれる。おかげでどうやれば血抜きが出来るかとか、皮の奇麗な剥ぎ方とか、内臓の処理の仕方とかを教えてくれる。知識系スキルってゲーム的には大したことなくても、現実世界で生活していると凄い有用なんだなぁと改めて思う。


 アナグマの焼き上がりを今か今かと待ちわびている5人に切り分けて振る舞うと欠食児童の様に貪り食っていた。ヨーンが「ジェーンの分だ」そう言って自分の分から肉を切り分けてくれたので少しだけ切り取ると残りをヨーンに返した。


「エルフはあまり肉が得意ではないのです」

「そうか」


 そう言いつつも、ヨーンは嬉しそうに肉を食べていた。皆もとてもうれしそうだ、チガハがちょっと「俺が狩ってきた」と、得意げなのが気に食わないがまぁいいだろう。私の点数稼ぎに貢献したことは褒めてやらんことも無い。


 そんなちょっとした宴になった二日目の夜が明けて、私はまたヨーンの背中で揺られながら移動すると昼前位に隠れ里の様な物が見えてきた。


「私たちの里だ」


 ヨーンがちょっと誇らしそうに説明してくれた。目ざとく私たちを見つけた里の人たちが、ヨーンに背負われている私に気が付くと、一斉に噂を広めて、ちょっとした人だかりができていた。


「これはエルフのジェーン、今日から私たちの仲間になる」


 後ろから脇に手を入れられて掲げられてプランプランした状態でそのように宣言されてしまった。


(ちょっと待ってくれ、拉致られたんだが?!)


 なんて言えるほど、空気が読めないわけでもないが、私の意志はいったいどこに行ってしまったのか、小一時間問い詰めたい気分になった。


「よろしくお願いします」


 あ~流されてる流されてるよ~と思いながらも、この状況の最善手はこれしかないんだよなぁ。しゃーない、しばらくはこのライカンスロープの里で御厄介になるとしますか。

 私はそうやって腹をくくるのだった。

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